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29 3月, 2015

アトリエ・天工人によるシラスRCの住宅「R・トルソ・C」

山下保博+水上健二+友寄篤/アトリエ・天工人Yasuhiro Yamashita / Atelier Tekutoによる渋谷区の住宅「R・トルソ・C」(読み方はトルソ)のオープンハウスに行ってきました。
シラスを混合するという新しいコンクリートの住宅。

敷地面積67m2、建築面積31m2、延床面積107m2。RC造、地下1階、地上3階建て。
矩形の角を面取りし、空に向かって積極的に開口するシリーズ第4弾。



見る角度によって姿が大きく変わる。これらの面取りは斜線制限や天空率によって生まれ、バランスを見ながら意匠に落とし込む。


下の開口は1階と地下の半分に、上の開口は2階と3階に面する。
前庭にはブラシノキが植わる。 

外構に敷き詰められたシラスの軽石。
シラスとは南九州の火山による火砕流堆積物の総称で、鹿児島県には県の面積の半分、東京ドーム6万杯という膨大な埋蔵量があり、土木用としては利用が進んでいるものの、建築では左官壁や瓦の利用に留まり、建築の構造体としてはほとんど実績がないそうだ。



実績がないため構造体としての認定には多くの実証実験をこなし、ようやくこの1棟に限り国交大臣の認定を取得できた。しかし今後、個別に大臣認定を取得しながら実績を作り一般認定を目指す。というのもこのコンクリートは将来的に取り壊した後、粉砕しリサイクルセメントとして利用が可能だからだ。
「一説にはあと100年ほどでセメント原料は枯渇するといわれています。そのためにも今から都市にセメントをストックしておくということです。」と山下さん。



今回のコンクリートには前出の軽石が使われたわけではない。通常コンクリートに使われるのは水、セメント、石灰砕石、石灰砕砂、山(川)砂だが、トルソでは山砂をほぼシラスの細骨材に代えて混合されている。


玄関に入ると鈍い銀色の床になっている。亜鉛メッキに見えたが、ステンレスを研磨して仕上げられた特注。


1階。中へ入ると北面の三角窓から淡い光に照らされた黒い建具。MDFボードに墨を含浸させそれを磨き出すということを繰り返し行われたもの。
床はモルタルだが、ひびが入る可能性があったのでシラスは使わなかった。


玄関側を見ると4畳半の和室。引戸で仕切られ客間として使える。
右はトイレ。



地下へ降りると今度は建具が墨ではなく柿渋で仕上げられている。手摺は鍛鉄で仕上げられ、微妙な凹凸が手にしっくりと馴染む。(墨・柿渋、手摺は共に田中制作)
床は特注のシラスタイル敷き。
中央の扉の中は音楽好きのご主人のためのスタジオ。 

階段下の収納には熱循環システムの太いパイプが通っている。地下の冷たい空気と、3階の暖かい空気を季節によって循環させることができる。


2階へ。2階・3階は吹き抜け。


2階LDK。キッチン左の黒い扉を開けると水回り。
床はとAVボードは紫の木材、パープルハート材。鹿児島のシラスを使っているのでサツマイモ色にしたそうだ。

階段の上では構造担当の佐藤淳さんがキャンティレバーの具合を確認している。佐藤さんにとってもシラスコンクリートは初めての素材で、大臣認定取得のためのプロジェクトメンバーとして2012年から携わる。


振り返ると三角形の大開口から空。


キッチン周囲はステンレスにバイブレーション仕上げ、収納の扉はさらにキャンディーカラーのダークグレーの焼き付け塗装。
Dornbracht(ドンブラッハ)の水栓が付くキッチン前面のガラスの裏は浴室だ。

パンチングメタルの扉が1枚あるので開けてみると、外に小さなバルコニー状のヤードが設けてあった。


この住まい、施主の住まい方を考えた場合ゴミ箱が室内にあるべきではないと考えたため。


キッチン裏の水回り。


浴室から見たキッチンのガラス。階段が透けて見えている。


見上げると三角形の吹き抜けからトップライト。トイレの上はハイサイドライト。
3階の床が2階とは角度を変え壁に勘合しているようなイメージ。

3階へ。

3階寝室。収納を兼ねる腰壁で視線を遮る。開口には曇りガラス調シートを貼るかどうか、まずは住んでみて決めるそうだ。

ベッド頭上には間接照明。枠に沿ってある溝にはカーテンが付く天蓋へと姿を変えるので、寝ているところが外部から見えるわけではない。
ヘッドボード背後の開口は浴室へ通じる吹き抜け。

山下保博さん。「天工人が挑戦的な建築をつくることを良くご存じのお施主さんで、『今までにないRC造の住宅を建てて欲しい』と望まれました。その言葉を受け、『パンテオンに使用された古代コンクリートを現代の最新技術を用いて環境型コンクリートとして蘇らせる』というキーワードで始まったプロジェクトです。コンクリートばかりでなく、各部の仕上げも丁寧に作り込み工芸作品のような住宅が出来たと思います。」

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空を切り取る家


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26 3月, 2015

河西立雄による京都の自邸「音の家」

河西立雄(Tatsuo Kawanishi)による京都市の自邸「音の家」のオープンハウスに行ってきました。場所は地下鉄烏丸線北山駅から徒歩20分程の静かな住宅地。


敷地はもとの地勢を生かした傾斜地。敷地面積440㎡、建築面積83㎡、延床面積139㎡
 鉄筋コンクリート造、2階建て


北側外観とアプローチ。
外壁は焼杉。
シンボルのように桜の木が立っている。

階段とスロープによるアプローチの下は、自転車置き場となっている。

4.5m x 18m の細長い住宅
階段を登りきった後、緩やかなスロープを更に進んで廻り込んで玄関へ

玄関ポーチ。
オーク材の玄関ドアには、オリジナルでデザインを施された真鍮の取手。ガラス越しに奥行きのある空間と向こう側の景色が見える。

エントランスからは段差なく、そのまま吸い込まれるようにリビング・ダイニングへ連続する。焼き杉の外観から一変して、室内は打ち放しコンクリートの空間に床は御影石張り。

床のスリットには照明が備え付けてあり、夜には光のカーテンになるのではないかと。
内部空間は少し寒そうな印象だが、御影石の蓄熱性を生かして床暖房が備わっており、冬でも暖かい。
奥のドアを出るとテラスになっている。


手前右側の通路を入ると、トイレ、洗面所、納戸。中央通路を入るとキッチン、バスルーム、2階へ上がる階段。


どこを探しても電源プラグや電気スイッチなどが見当たらないので、照明器具に目をやると、コードが床と壁の隙間に入っていく。御影石のタイルを取り外すとプラグがあるのだとか。電気スイッチなどは納戸に設置されていたりと、極めてミニマルな空間になるように設計されていた。

奥へ進み、振り返って玄関の方を見る。
リビングの吹き抜けからは二階の天井の全貌を望むことが出来る。

リビングの壁の反対側にはキッチン。備え付けの家具は全てフランス産のオーク材。キッチンカウンターの奥にもスリットがあり、電気プラグなどが所々に設置されているので、好きな所に電気調理器具などを置いて使うことが出来る。
地窓は、近隣からの視線も外すことが出来、また隣の敷地の木が木漏れ日となって入ってくる。

地窓には腰までの高さの通風用の窓が備え付けてある。真鍮の取手を引いて空ける。

キッチンの奥には浴室。

振り返ると、2階へと続く階段。

2階に上がると、寝室と書斎が長い廊下を隔ててそれぞれの端に配置されている。奥には子供用の寝室と書斎。壁を使わずに空間を隔て個室を作っている。


廊下には収納棚が備え付けてあり、ここにもアップライトの照明が入っている。収納棚には空調機も収納されており、スリットから風が出てくるようになっている。


奥へ進むと子供室。
窓から比叡山が見える。


天窓からは木が覗いており、時折鳥が来たりと、ベットに横になりながら愉しい景色が望めるそうだ。

子供室からみた1階リビング・ダイニングの吹き抜け。
1階と2階を吹き抜けで繋げ、空間に余裕を持たせている。

振り返って主寝室・書斎の方へ戻る。

書斎。更に奥に寝室。


主寝室から2階の全貌を見る。
低いところで1650mmと天井高を抑えた2階の空間は、全て腰壁で仕切られているので、圧迫感はあまり感じず、落ち着いた感覚だ。

建築家・河西立雄氏
「自邸ということもあり、今まで考えてきたことや、他の仕事ではなかなか実現しな
いことを設計に取り入れた。法規による規制(屋根の勾配、軒の出、外壁の種類な
ど)が多かったので、すべてが思い通りにできたということではないが、奥行きのある
敷地形状を生かし、長く歩かせる空間構成とすることで、この場所の環境や地勢
が堪能できるようにした。単純でわかりやすい空間と素材によって、生活そのものが
際立つようになればと思う。」


設計:河西立雄 /  河西アトリエ
施工:アムザ工務店

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「建築家 フランク・ゲーリー展」の概要

2015年10月16日より21_21 DESIGN SIGHTで開催する「建築家 フランク・ゲーリー展」(仮称)の概要が発表されました。
ディレクションは田根剛/DGTが担当。


Photo by John B. Carnett/Bonnier Corporation via Getty Images

■マニフェスト/フランク・ゲーリー
まずアイデアが浮かぶ。しょうもないけど気に入る。模型をつくって嫌いになるまで見続けて、それから違う模型をつくることで、最初のしょうもないアイデアを別の見方でみる。するとまた気に入る。
でもその気持ちは続かない。部分的に大嫌いになって、再び違う模型をつくってみると、全然違うけど気に入る。眺めているうちに、すぐに嫌いになる。直しているうちに新しいアイデアが浮かんで、そっちの方が気に入るけど、また嫌いになる。
でもまんざらでもない。
どうするか?
そう、また模型をつくって、次から次へとつくる。模型を保管するだけでも膨大な費用がかかる。でもどんどん続ける。次から次へと進めるうちに、ほら見ろ、最高傑作だ。
輝かしく、安上がりで、今までに見たことがないものだ。だから誰も気に入らない。悔しくて死にたくなる。ところが、神様がメッセンジャーを送り込んで皆に催眠術をかけるので、皆気に入る。
そしてアイデアを盗もうとする。模型も盗んで行こうとする。俺を頭脳と魂ごと欲しがる。でも踏ん張って、絶対にくれてやらない。
俺がやりたいのは、新しいアイデアを生むことだけ。たった一人で新しい模型をつくり続けたい。
保管するのに膨大な金がかかるので、こんなことをしていると模型の倉庫代で破産する。
これは偉大な歴史。伝説でもありマジなんだ。
続編がどうなるかと言えば、嫉妬するヤツらが現れる。嫉妬がヤツらに努力するよう仕向けるならばいいけれど、大半は壊すためにがんばりやがる。そこんとこが厄介。


■ディレクターズメッセージ「Joy in Architecture」/田根剛
「ゲーリーの建築には魂を感じる」。三宅一生さんは最初のミーティングでそう語りはじめ、「長年の友人であるゲーリーさんの展覧会を、21_21 DESIGN SIGHT で開催したいと思っています」と言いました。「まずはゲーリーさんに会ってきてください」。その時、このプロジェクトは始まったのです。
自分が建築を学び始めた大学一年生の春、大学の洋書セールの中から『フランク・ゲーリー作品集』を見つけ、言葉にならないほどの衝撃を受けました。そこには想像を超えた建築があり、その生き生きとしたエネルギーに・・・これが建築か・・・とびっくりしたのを憶えています。今回この展覧会の依頼を受けた時、真っ先にあの時の記憶が甦ってきました。
「建物(Building)をつくる」、その設計作業にはクライアントの要望や機能、予算、法規など解決しなくてはならない様々な課題があります。しかし「建築(Architecture)をつくる」にはただ機能や要望を満たすだけでなく、もっと自由に、もっと豊かに、多くのひとが集まる場所をつくる、それが建築家の仕事です。ゲーリーの建築は建物を超え、その強いエネルギーが全く知られていなかったビルバオのような都市を「世界のビルバオ」に変えてしまったのです。ゲーリーの常に驚きや発見に満ちた建築への情熱、そこには創造の喜びと闘いがあるのです。
本展では、ゲーリーの『アイデア』に焦点をあてます。誰もがなし得なかったアイデアはどこから生まれるのか。多くのひとに「喜び」や「驚き」を与える建築の魅力はどこからくるのか。氏の創作を通して、建築家 フランク・ゲーリーの『アイデアの喜び』を伝えることができればと思っています。


【建築家 フランク・ゲーリー展(仮称)】
会期:2015年10月16日〜2016年2月7日
会場:21_21 DESIGN SITE



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19 3月, 2015

ムトカ建築事務所によるファッションブランド「WORLD BASICS」の会場構成

村山徹 + 加藤亜矢子/ムトカ建築事務所 (mtka) による、ファッションブランド〈WORLD BASICS〉の展示会場を見学してきました。会場はアパレルメーカー、ワールドの北青山ビルで3月20日まで開催。

 〈WORLD BASICS〉は「更新するベーシック」をコンセプトに掲げるブランド。2015年秋冬コレクションのバイヤーや一般ユーザー向け展示会場を、ムトカがベーシックでシンプルなデザインで構成した。

 店舗を持っていないブランドで、通販や、ポップアップショップ、セレクトショップでの販売がメインだが、店舗展開の引き合いが多いという。


 そこで、まだ計画されていないが「もしイニシャルショップを持ったらこのようなイメージはどうか」というようなコンセプチュアルな会場デザイン。


 ダンボール箱が多用されているがこれはダミーで、実際は手前にある木製の什器が並んでいることを想定している。
300×600×450サイズのモジュールで、用途やシーズンによって店舗内を仕切りながら商品を陳列をする。


そしてこちらが100m2程度の架空の店舗スペースをデザインしたイメージモデル。


 積み上げただけでは転倒の危険性があるので、什器内に仕込まれた鉄部と強力なネオジウム磁石により接合する。また隙間にはアルミ製のスペーサーを挟み什器の目地を強調できるようにした。(プロトタイプ)



 会場にはモデリストによる〈WORLD BASICS〉商品の開発現場をデモンストレーションしている。
ベーシックとはどういものなのか、定番と呼ばれるアイテムの歴史はどのようなのかを開発スタッフは皆学び、そこを大きく外さない範囲で "更新するベーシック” を提案している。

 実際の店舗が出来た際、このような開発現場を店舗内にアトリエというかたちで設置するというアイデアもあるとか。


 会期中、定番アイテムはもちろん発売前の新商品も購入できる。(発売前の商品は秋に届く)




村山徹さんと、加藤亜矢子さん。
「今回の展示会場構成デザインは、これまでWORLD BASICSとムトカで進めてきたイニシャルショップ計画のプロローグになっています。」

【WORLD BASICS 2015 FALL & WINTER EXHIBITION】
日時:3/17(火)〜20(木)10:00-18:00
場所:東京都港区北青山3-5-10ワールド北青山ビル1F



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