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20 2月, 2017

永山祐子による「西麻布の住宅」

永山祐子建築設計による港区の「西麻布の住宅」を見学してきました。都心の住宅地、60代夫婦の住まい。

 敷地面積92m2、建築面積51m2、延床面積116m2。RC造+S造、地上3階建て。
建物の半分以上を「ガラスの箱」空間にし、もう半分がRC造のボリュームで構成されている。


 ファサードは東向き。前面道路は狭く、セットバックを求められている敷地。屋上に手摺が見え、その右下のフレームは外部階段だが、この後グレーチングのパネルが取り付けられる。
前庭の植栽は荻野寿也による。


 玄関を入り、廊下の奥から見返す。左奥から下足入れ、納戸、エレベーター、トイレが配され、右の壁には正方形の開口が並ぶ。開口により、単なる廊下が表情のある空間に生まれ変わり、そこから覗く景色も生まれる。


 「ガラスの箱」側は3層吹き抜けで、全面ガラスのトップライト。背面西側も全て開口なので、建物と建物の隙間にある屋外構築物のように見える。道路から見るとこの空は住み手だけでなく、道を行く人にも還元されることとなる。
105mmとかなり薄いスラブの2階・3階フロアがセットバックしながら吹き抜け空間を強調。1階にはキッチン・ダイニング、2階リビング、3階はワークスペースで、右のボリュームには収納や水回り、寝室などのプライベート性の高い空間が納まる。


 当然夏場の日射が心配になるが、サンゴバン(Saint-Gobain)製の日射調整ガラス “Sage” を導入した。調整は0~3の4段階に可能で、3エリアに分けてコントロールできるので濃さを3段階に分けた状態を見せていただいた。
このガラスはオフィスや美術館、航空機などに導入されているが、住宅に使うのは日本初で、トップライトに使うのは住宅以外でも日本初とのこと。


振り返ると住宅密集地でありながら、なぜ積極的に全面開口にしようとしたかが理解できた。ちょうど集合住宅の住居外部分の白い壁に面し、その手前と上に植え込みと、さらに上部の抜けから空まで望めるのだ。
ファサードはLow-Eガラス。


 キッチンはコンパクト。作業台の下にエアコンが備わる。奥右下に見えるスリットは3階とを繋ぐサーキュレーション用のダクト。右手にはパントリー。


 スラブの下のDKに入ると全く空間の質が変わった。


 2階へ。階段は30mmの鉄板を用いて、鉄骨造の壁にキャンティレバーで設えた。計画当初はもう少し緩い傾斜だったが、2・3階のフロアを広げたため、少々急。エレベーターもあるので良しとした。



パブリックとプライベート、外と内を仕切る壁は、住宅の中に行き交う二つの視点と経験を生み、この家の中で今後長い時間を過ごすであろう住み手の暮らしに変化を与える。


 2階リビング。西側に隣家が迫るが、奇跡的に殆ど開口がないため、三面全面開口でコンセプトを実現できた。


 サンカル(SANCAL)のソファとローテーブル。イエローが差し色として効いている。


 リビングの隣は客間で、四角い窓にはガラスが嵌めてある。奥は水回りへ。


 窓から覗くと1階から3階まで一目で見える。


 3階ワークスペースは空が近い。調光ガラスを作動させると、、、


 筆者の感想では一番暗いときはサングラスより暗く、太陽を直視できるほどだった。
ちなみに調光は自動・手動切り替えが可能で、10~15分程掛けてゆっくり変化する。


 3階主寝室。右手の扉から屋上に通じている。



 屋上にはコンクリートでベンチや水受けも作り付けた。
隣に見えるのは田井勝馬が手掛けた「西麻布の家」だ。


「都会の住宅地らしく路地の脇は住宅の壁面が隙間なく続き、路地空間が少し窮屈に感じた。そんな路地に対して大きく抜けを造り、空に向かって開くことで、街並みを少し明るくするきっかけを作りたいと考えた。開放的な家の佇まいは人を招くことが多い夫婦の家にふさわしく思えた。」と永山祐子さん。


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09 2月, 2017

黒崎敏/APOLLOによる住宅「GRID」

黒崎敏(APOLLO一級建築士事務所)が手掛けた住宅「GRID」を見学してきました。50代のご夫婦と子供1人が住まう家。

 敷地面積310m2、建築面積126m2、延床面積126m2。RC造1階建。
砂利部分は駐車スペース。左奥に花壇があり植物を植えていくそうだ。

 エントランスは北側。南北に緩い傾斜地で、7段上がるアプローチとなる。


 エントランスホール。一気に4m近い天井高の空間が現れ、正面ハイサイドからの光が差し込む。目の前にはマッキントシュのイングラムハイチェア、左にはピカソなどのドローイングが出迎える。


 ホール片側は全面鏡張りの収納。足元には間接照明が設えてある。


 リビングダイニングは南に向かって三面の大開口。強調された柱と梁によって引き締められた空間。左手は全て収納。


 見上げると天井は格子梁で、1,200mm角の「GRID」だ。このサイズをモジュールとして空間が構成されている。


 リビングダイニング奥からの玄関方向を振返る。フランク・ステラの色鮮やかなアートと、吟味して揃えられたモダンデザインの家具がミニマルな空間に映える。


 南を向くと中庭が広がる。両翼に各室がシンメトリーに配されており、右が子供室や主寝室。左に水回りや客間となる。


 敷地の傾斜に合わせて個室への廊下も段差を持つ。


 主寝室。東を向いた全面開口。各部のディテールがシャープな印象。


 水回り。ここも水平垂直のシャープなデザインだ。


 客間。ルイス・バラガンを意識したという開口からはプライベート感のある坪庭が覗く。


 見返すと全面スリットの家具が作り付けられている。オーディオやテレビ、画集などが収まり、普段はラウンジのように使われる部屋だ。


 中庭。土の部分は未施工。集合住宅住まいだった施主は犬を飼うのが夢だそうで、犬のための "遊べる中庭” として計画中という。右側のテラスはリビングと同じタイルで内外を連続させている。


神殿のようでも美術館のようでもある佇まい。

APOLLOのシグネチャーとも言える庭の階段をあがると、その裏にもう一つ、トップライトが設えられた小さな空間が確認できた。ご主人の趣味であるユリ栽培のための温室で、ユリ栽培に特化した空調や水回りを備えているこだわりの空間だ。



「ごく自然にアートと暮らし、本当に必要なものを知っているお施主さんでしたので、そのライフスタイルに合うミニマルな建築は何か、素直に答えを導き出すことができました。庭や温室などをつくる時間を含め、ここで過ごす時間を楽しんでもらえたらと思っています」と黒崎敏さん。

【関連記事】
港区の住居兼オフィス「TERMINAL」
杉並の住宅「ARK」
川口市の住宅「PERGOLA」


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05 2月, 2017

西澤徹夫によるマンションリノベーション「907号室の場合」

西澤徹夫(西澤徹夫建築事務所)によるマンションリノベーション「907号室の場合」を見学してきました。施主は住宅メーカーに籍をおく大島滋さんで、本ブログの読者にはご存じの方も多いだろう。築35年、25階建てマンションの9階、88m2の改修だ。
プロデュース:ミサワホームAプロジェクト

 既存では玄関を入って直ぐに壁があり、その裏にキッチンがあった。そのため一度左・右とクランクして奥へ続いていたが、改修後はご覧のように真っ直ぐで広めの動線をまず通した。そして左手にはトイレ、洗面・浴室が並ぶ。


 洗面室から廊下を見る。向かいは壁一面に収納が設えられている。


 廊下を進むと右手にウォークインクローゼット、左手にキッチン、奥にリビング、リビングの左に寝室となる。


 リビング。右側は来客が寝泊まり可能なように4枚の引戸で仕切ることが出来る。


 リビング。右の開口部に向かって個室が3つ並んでいたが、独立した二人の娘さんの個室を取り払い、大きなリビングとした。
たまにしか使わない仕切りの鴨居上部はオープンにして開放感を持たせてある。

 かなり物持ちの大島さん(右)、奥さまも料理が大好きで食器が多い。大分整理したというがまだまだ沢山ある骨董品や小物、土産物、彫刻などは、その時並べておきたいものだけを、鴨居や梁に沿わせた作り付けの棚に陳列できるようにした。


 部屋の中央にある柱はお気に入りの絵画やポスターを掛けられるスペースに。手前はチークでできた200年前のアンティーク家具でバリで買い求めたという。床はそれに合わせチークに。


 鴨居、作り付け棚・家具、建具などはタモで統一。そしてこのカットでも分かるように、統一した素材の中にいくつかひと塊になるように小物の居場所が計画されている。


 現しにした躯体に歪みがあったが、それに合わせて木部を作り付けていった。天井は現しにせず、配線が出来るように幾分ふかしてから天井をはり付けた。



個室で遮られていた外光は、緑豊かな敷地の景色と共に部屋の中まで届けられることとなった。
部屋中全て見せてくれた大島さんは、「今回施主ではあるが、ミサワホームAプロジェクトとしてなぜ西澤徹夫さんを選んだか?」という問いに以下のように答えた。
「施主の要望を理解できる人、というと誰しもみな同じように考えると思いますが、施主の家族構成や趣味や価値観、そして物事の考え方などなかなかあう人を見つけるのは至難の業だ。そこで、何人かの建築家に面接して、建築家の今の仕事の状況、こちらの要望に対する関心度などをチェックする。大御所だから、実績があるから、はまったく関係ない。というよりむしろそうした人はリストに入らない。どのプロジェクトにもいえることですが、誠実な人、一生懸命仕事に打ち込める人とが基本です。そうして、施主の要望に答え、なおかつその人らしさが発揮できそうだと判断したのが西澤徹夫さんでした。」

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02 2月, 2017

藤原徹平によるコーポラティブハウス「代々木テラス」

藤原徹平(フジワラテッペイアーキテクツラボ)によるコーポラティブハウス「代々木テラス」を見学してきました。
9住戸からなる長屋形式の集合住宅で、建築設計をフジワラボが手掛け、インフィル設計をフジワラボ、針谷將史建築設計事務所、本瀬齋田建築設計事務所の3社で3住戸ずつ担当した。
プロデュースはアーキネット。
(新建築2017年2月号掲載作品)

 敷地面積344m2、建築面積204m2、延床面積750m2。RC造+一部S造、地上3階、地下1階。東西に長い旗竿敷地に建つ。

 旗竿敷地ということで隣地が密集しており全体の引きは撮れなかった。
このプロジェクトでは各住戸への動線、通風、採光をどのように計画していくかが大きな課題となり、玄関は地下、1階、2階とまちまちで、外観からは伺い知れない複雑な住戸割りがなされている。

 南側と北側に2ヶ所ずつ計4ヶ所にセットバックさせたスリットをつくり、採光率を満たしながら建物全体に変化と距離感を生み出している。


 左が構造模型、右が住戸割りの概念模型。建物はスリットによって3つに分棟されているように見える。分棟によって建物のボリューム感を抑え、近隣への圧迫感を軽減した環境づくりにも貢献する。


 構造的には両サイドの棟で南北方向を支え、中央の棟の中心に東西方向を支える耐力壁を設けることで、南北に広く開口できるようになっている。9住戸中8住戸は中央の棟に接し、出来るだけ等価に環境をシェアできるようになっている。

各住戸を紹介。藤原さんは建築の全体像がぶれないようにディレクションしながら、基本的にインフィルは各担当に任せながら進めたという。

はじめはフジワラボが担当した3住戸。
 〈D住戸〉 フジワラボ
1階には寝室が二つ。南北、東西共に大きな引戸で空間が抜けるようになっている。

 地下は南北のドライエリアに挟まれるように連続し大きなワンルーム空間でLDKをつくった。
手前は浴室もガラスで囲み、ワンルーム感を形成している。

 ドライエリアは、隣と低めの壁と植栽で緩く間仕切られ、ほぼ共有スペースの雰囲気に。


 〈F住戸〉 フジワラボ
右に見えるのが東西を貫く耐力壁。LDと奥の寝室は南面を存分に享受できる計画としている。

 スリット部分をなぞるように「凹」字型に開口が設けられている。左にキッチン。


 天井は東西の棟に向かって40cm低くなり、空間に抑揚を与えた。


〈H住戸〉 フジワラボ
「北側はヒマラヤスギが並んでいますので借景で利用します。耐力壁に向かって、収納やキッチン、トイレなど全てを接し、北側の全面開口を活かしています。収納内にはワークデスクも隠れています。」と岩井一也さん。

 和室、キッチン、DKと一直線のレイアウト。


 3階に寝室と水回り。水回りも壁に寄せ外部開口を広く取った。
3階に部屋がある4住戸は、右のように屋上へ出ることができる。

 〈A住戸〉 針谷將史建築設計事務所
1階は母と娘の「女子部屋」、写真の地下はDKとその奥に父と息子の「男子部屋」というレイアウト。

 「男子部屋」押し入れ型の2段ロフトが並ぶ(右にもう一つ)。下段が収納で、上段が “寝室” になっている。


 〈B住戸〉 針谷將史建築設計事務所
「インテリアの要素を極力ミニマルにすることで、エントランスから地下空間までの連続性と一体性をキープすることを考えました。地下のドライエリアが一箇所の住戸でしたので、光が十分まわるように、間仕切壁を設けずシンプルなワンルームとしています。」と針谷將史さん。

 〈I住戸〉 針谷將史建築設計事務所


 3階はH住戸と同じく北側に全面開口。凹凸を利用して、キッチン、ダイニング、リビング、寝室を緩く分節し、どこにいても家族の気配が感じられる空間とした。


 寝室エリアはベッド2台がぴったりと納まる囲いを腰壁のような家具で作った。


 キッチン。


 〈C住戸〉 本瀬齋田建築設計事務所

左がC住戸だが、ドライエリアに異なる二つの住戸が覗く。

 Cは1階の中央棟北面を占めるため、外部のアプローチに対して正対する。
HやIとの違いは東西を貫く耐力壁が一部開いており、南北に空間が連続することだ。

 南側には主寝室や収納。



手前のベッド側をカーテンで隠すことができるので、間の引戸を開放し南北を連続的に活用することが出来る。


 2階はリビングと、


 子供室。
かなり隣家が迫るが、視線を遮ることよりも解放感を優先させた。実際はブラインドを設えるそうだ。

 〈E住戸〉 本瀬齋田建築設計事務所
地下へ降りて、引戸を開けるとすぐキッチンだが、筆者右手に扉がありこちらが玄関となる。

 階段によって南北を仕切り、奥が将来的な子供室。


 右手の界壁は杉板型枠を選択した。
階段を上がると1階には寝室と水回りがある。

 〈G住戸〉 本瀬齋田建築設計事務所
2階に個室と水回り、3階にLDKをもつ。

 2階多目的スペース。


 3階はLDK。跳ね上がった天井が西新宿の景色を取り込んでくれる。


 「建物全体のコンセプトとして、屋上の有効利用があります。お施主さんもこの考え方に賛同して頂き、屋上に近い3階部分を家族のスペースにして屋上を沢山使いたいということでした。そのため3階に家族の集まるLDKを置き、2階は多目的なスペースとして、生活の変化やお子さんの成長によっては区切ることのできる自由なスペースにしています。」と本瀬あゆみさん。


 屋上へは4住戸からのみ上がれ、東京の絶景を眺めることができる。四方の角にそれぞれの専有スペースをもち、中央に共有スペースと緑地があるので、住人同士で話し合いながら管理していくことになる。
ちなみに募集はあっという間に埋まってしまったそうだ。

藤原徹平さんとご家族。「スカイツリー!」とポーズを取る、さすが建築家のお子さん。
「文化と歴史を併せ持った代々木という『土地』に暮らす住居のあつまりを計画しました。単に上下に積まれたメゾネットではなく、X状に交差し住戸同士が交わることで住戸内にシークエンスをつくります。敷地内をあちこちへと移動するシークエンスのなかに暮らす住居です。9つのシークエンスが編みこまれるようにして代々木テラスはつくりました。」

【代々木テラス】
建築設計:藤原徹平+岩井一也+堀江優太/フジワラテッペイアーキテクツラボ
インフィル設計:針谷將史/針谷將史建築設計事務所、本瀬あゆみ/本瀬齋田建築設計事務所
プロデュース:アーキネット
構造設計:小西泰孝建築構造設計事務所
施工:TH-1

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