28 12月, 2016

中川エリカによる熱海の住宅「桃山ハウス」

中川エリカ(中川エリカ建築設計事務所)による静岡県熱海市の住宅「桃山ハウス」を見学してきました。
オンデザインから独立後、中川さんの新築デビュー作になる。

 敷地面積458m2、建築面積213m2、延床面積142m2。RC造、一部S造・木造、1階建て。
山の斜面を縫うヘアピンカーブに接する敷地。その敷地ままにカーブした既存塀を気に入って選んだ施主。形状からインスパイアされた曲線を描く屋根が特徴だ。

 フラットな大屋根の下には家具がパラパラと置かれているように見えるが、一体どうなっているのだろうか。


 アプローチ側へ。塀や門柱、門扉は既存のまま、一部修復して利用するそうだ。


 大屋根を支える14本のRC造の柱は、350□の角柱と400φの円柱がある。角柱の型枠にはざらついたラワンに筋を入れ、小板の縦張りを模してあえて粗い表情を出した。


 それは既存の門柱や、周辺環境から抽出したエレメントであり、熱海に古くからある建物や擁壁など各所に見られる表情を参考にすることにより、新築でありながら場に馴染んだ建築を実現した。

 アプローチ。中央のアルミ部が勝手口兼換気ドア。


 右手は駐車スペースにもなる広めのアプローチ。キノコのような屋根が愛らしい。


 左手は南面の前庭へ通ずるアプローチ。モルタルや飛び石などで仕上げられる予定で、来客はこちらから上がってもうらうそうだ。


 勝手口を入るといきなり洗濯機があり、なるほどこちらはプライベート色の強い入口だ。
右に浴室、奥が寝室、左がリビング。

 洗面室はシンプル。


 ガラスブロックとタイルに囲まれた浴室。隅には切り欠きがあり、温泉掛け流しであることが分かる熱海らしい浴槽。


 寝室。60代ご夫婦の住まいで、寝室はひとつ。当面は週の半分程度利用し、リタイア後はこちらに移住することも計画している。


 間仕切りにはカーテンが付くそうだ。輻射パネル式の空調が見える。


 上部の換気はここから。自然通風を活用したい、網戸を付ける、隣家からの目隠しなど様々な要件を検討しこの形になった。


 リビングへ。天高4,530mm。通常こういった傾斜敷地では2階レベルを上げ眺望を確保するところだが、ここは海に面した熱海とは言え、海岸までは直線で600m程はあるため「海だけでなく山に対しても開放的で空が見え、風が室内を吹き抜ける」ことを主眼においた平屋とした。


 振り返ると分かるのだが、山側は既存塀に囲まれ、谷側は高さのある擁壁で周囲からの視線が遮られる。360度全周ガラス張りの開放が可能なのだ。


 西側は隣家のため、要所要所に壁を設けプライバシーを確保している。
冷暖房とも右奥のグレーのもの、右手のベージュの輻射式パネルが賄う。また設備は出来るだけ屋外に出ないように床下80cmを中空にし、設備ピットとしている。

 イメージとしてはガラスは「透明」ではなく「無い」ものとして考え、ピロティーのような開放感溢れる空間が表現されている。その為天井の塗装は、外部と内部で出来るだけ差が出ないように苦労して塗ってもらったそうだ。

 書斎はこじんまりと篭れるようにした。


 キッチン。照明はスチールの角パイプを防錆処理したステーにLEDを取付け、壁に刺しただけ、といった感じのワイルドなもの。


 曲面型のパントリーは外部にもその形状が現れている。


 キッチンから。シャンデリアは施主が選んだロス・ラブグローブによるデザインのもの。

 外へ出て離れの茶室へ。(外構は未完)


 四畳半の周囲はモルタル研磨仕上げ。右側の壁がRCなのは、万一、山側からの土砂崩れで建物が潰れないようにしたもので、熱海など傾斜地特有のご当地条例によるものだ。


 離れの前から母屋を見る。屋根を支える柱は基礎と剛接合、屋根とはピン接合。


 前庭へ。ダイニング・キッチンからテラコッタタイルが円形に連続し、テラスを形作っている。
視線が一番抜ける3方向にだけ円柱を立て、方向性が出ないようにした。また一番奥の柱は構造ではなく、庭に距離感を与えるために立てたという。

 上棟前、基礎と柱だけの状態ではあたかも古代遺跡のようだったそうだ。



中川エリカさん。「一見ランダムな柱群は1,820ピッチのグリッドのどこかにレイアウトされています。その上に軽やかな屋根を乗せ、そこからお施主さんと模型を覗き込みながらものを並べた結果、平面が生まれてくるような検討をしていきました。都内のマンションにお住まいのお施主さんですが、ここに来ると都内では味わえない開放感とたっぷりの日差し、抜ける風を十二分に感じて頂けるよう計画しました。」

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20 12月, 2016

浅利幸男による文京区の「本駒込の家」

浅利幸男/ラブアーキテクチャーによる文京区の「本駒込の家」のオープンハウスに行ってきました。
2014年に亡くなった黒沢隆による設計で1972年に竣工した住宅のフルリノベーション。

 建築面積69m2、延床面積135m2。木造2階建て。リノベーションとはいえ、躯体以外は全て作り替えた。



旗竿敷地の奥でありながら、庭が広めだったためかろうじて外観の撮影ができた。

 接道側には同じく黒沢隆による集合住宅「アウローラ」が建つ。ファサードはRCに銅板張りされている。(1989年竣工)


 外観は既存にあった “昭和” の面影を感じる仕上げにした。


 隣家の迫る玄関だが、反対側もガラスにして明るくしている。


 玄関を上がって右を見ると突き当たりの開口から坪庭が覗く。


玄関から左はキッチンへ直ぐ入ることができる。玄関横で寒いのではと考えしまうが、引戸で仕切ることができる。


 キッチンから見たリビング・ダイニング。庭に向かってテラスが突き出した全面開口。


 実はこの住宅、元々大正時代に建てられたもので、昭和47年に黒沢隆もリノベーションを担当した。2本の柱はよく見ると2本ずつ立っており、手前側はその時増築されたときに追加された柱。
大正、昭和、平成と三つの時代をリノベーションしながら生きる建築だ。


 テラスに出からは「アウローラ」が見える。

 リビングから廊下に出ると、廊下が十字型に計画されているのが分かった。正面は北側の坪庭。


 振り返って南側を見る、今度は左が玄関やキッチンになる。そしてそれぞれの突き当たりには開口が設けられている。
正面は奥さまの書斎で、壁の右側は水回り。


 広い開口から自然な光に包まれる水回り。


 浴室は全面開口が可能で、隣家の視線も遮ってある。


 奥さまの書斎。マットレスが納まり、横になって本を読むこともできる寛ぎの空間だ。


 2階へ。スリット状のトップライトを新たに設けたが、光は間接光で取り込まれるようにした。
廊下の左手には子供室が三室、庭に向かって並ぶ。奥の作り付け家具に見えるのは収納とトイレだ。右手壁を挟んだ隣は主寝室とご主人の書斎。


主寝室。トンネルのような収納とその先に書斎がある。

 トップライトの光がラウンドした壁に反射し柔らかに注ぐ。


 ご主人の書斎。棚の支柱は真鍮のパイプを曲げて作るという浅利さんらしい細かい造作。


 振り返ると収納のトンネルとベッドボードが連続する。これらの壁紙は奥さまの経営する会社の商品を使った。


 子供室にも廊下のトップライトからの間接光が入ってくる。


 ヴォールト天井に沿って光が導かれる。各部屋にはアクセントとして(もちろん構造)古い梁が表しになっている。
完全な建て替えも可能だったが、リノベーションによって100年近く家族の記憶を留めてきたこの棲まい。二度目のリノベーションでこれからもこの家族と共に時を刻んでいく。

【本駒込の家】
設計監理:ラブアーキテクチャー一級建築士事務所/浅利幸男、須賀茂幸
施工:泰進建設株式会社

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