29 10月, 2017

クライン・ダイサム、長坂常、CKRらが参加の「DESIGNART2017」レポート

今年から新しく始まったデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART(デザイナート)2017」。"Emotional Life~感動のある暮らし~"をコンセプトに掲げ、表参道、原宿、渋谷、代官山、六本木をメイン会場として72箇所で開催された。
発起人は青木昭夫/MIRU DESIGN 、川上シュン/artless Inc. 、小池博史/NON-GRID/IMG SRC 、永田宙郷/EXS 、マーク・ダイサム&アストリッド・クライン/Klein Dytham architecture


インフォメーションセンターはこちらのワールド北青山ビルとスパイラルの2箇所。会場の目印となるフラッグは山縣良和、スタンドは芦沢啓治がデザインを手がけた。


オフィシャルカー「DESIGNART×MINI」。
宣伝も兼ねて街中を走る(3台ほど用意されていたらしい)。

本イベントの楽しみ方は実に自由だ。例えばiPhone専用オーディオガイド「ON THE TRIP」をインストールすれば、展示作品の概要のみならず、開催エリア内に点在する建築散策ができる。また会場をファッションブランドの旗艦店している展示も多く、新作チェックにも好都合だ。さらに展示されているほとんどのものは値段付きで購入することができるため、最新のデザインアイテムを狙いに本気でショッピングをすることも可能である。

出展する側も、選択肢が増えたことで、新しいコラボレーターと共同したり取り組んでいることを発表する場として、よりオリジナリティを出しやすい状況が生まれていた。トータルでデザインを様々な角度から考察する機会となっていたのではないだろうか。

ほんの一部ではあるがプレスツアーなどで訪れた展示を紹介する。

ワールド北青山ビル

ピエール・シャルパン個展「From the studio」
フランス人デザイナー、ピエール・シャルパンによる東京初個展として開催。タイトルの通り、シャルパン氏のスタジオの壁や棚に置かれているアイテムの数々を展示。ガラスファサードには、シャルパン氏がカラー監修を行なった塗料「BELAY」を使用した新作アートワークも。


デザインやドローイング、スケッチ、プロトタイプなど彼が手がけたものから、収集したものまで。


ピエール・シャルパン氏とTAIYOU&C.からリリースの新作シェルフ。

【ORANGE BRAINERY】

「プロトタイプ展 〜未来のデザイン〜
オレンジ・アンド・パートナーズ、ジョージクリエイティブカンパニー、キャンプファイヤーの3社共同プロジェクトとして開催。様々なジャンルのクリエイターの試作品や、クラウドファンディングで実現を目指すアイディアなどの「プロトタイプ」にフォーカスした展示。

参加クリエイターは谷尻誠、吉田愛、須賀洋介、室井淳司、noiz、寺田尚樹、ドリルデザイン、角田陽太、minna、長谷川依与、EVERY DENIM、OTON GLASS、法政大学。

〈OTON GLASS〉島影 圭佑
文字を読むことが困難なディスクレシア、弱視者、海外渡航者を対象とした「読む行為」をサポートするスマートグラス。視覚的な文字情報を変換することでユーザーはその内容を理解することができる。


〈Magic Loop〉法政大学デザイン工学部システムデザイン学科の学生・卒業生
ロープに内臓された60個のLEDの光が、跳ぶ速さや跳び方によってインタラクティブに変化する。光の軌跡は残像となって様々な模様を描き出し、点滅のパターンによっては空中に絵を描くような光り方にすることもできる。

そのほかにも抗火石を使用した電気コンロや、投げ方によって光り方の変わるフライングディスク、線香花火をモチーフにしたベッドライトなども出展。


〈Underwater Stool〉noiz
待合室用のスツール。noizが今年BAO BAO ISSEY MIYAKEポップアップストアの一部としてつくった波打つビニール構造の什器と同じ構造にステンレスのロッドで補強したもの。


〈社食堂のおかんカレー〉谷尻誠、吉田愛
多忙なスタッフの栄養管理を考えたSUPPOSE DESIGN OFFICE社食堂の新メニュー。

マッキントッシュ

フィリップ・ニグロ×AKITA-NDA 
漆職人の佐藤公、曲げわっぱ職人の柴田昌正、フランス人デザイナー、フィリップ・ニグロが立ち上げた伝統工芸をモダンに昇華させた「NDA」シリーズ。スツールや花器。サイドテーブルのお値段は160万円。

kolor】
長坂常/スキーマ建築計画
会津塗りを用いた新作のテーブル。素材感が強く感じられるよう綺麗すぎない漆の表現を追求。「手掛けるプロジェクトに欲しいと思えるものをつくっています。このシリーズも今後展開していきます」

【KASSETTE OMOTESANDO

松山祥樹 「Small World Project」
三菱電機株式会社デザイン研究所のプロダクトデザイナー松山祥樹による、インドネシア東部の港町から離れた村々をバイクで巡り魚を売る人々との出会いからスタートしたプロジェクト。魚を新鮮なまま販売するため、バイクの電源で動く小さな冷蔵庫と、その形状をアレンジしたリビングやベッドルームのための冷蔵庫のプロトタイプを展示。

【GALLERY 360°】

クラーソン・コイヴィスト・ルーネ 「Facem」
ストックホルムの建築事務所クラーソン・コイヴィスト・ルーネによる12枚のプリントシリーズ。12の超高層ビルを選び、分析及び再解釈。「比率を大事にしました。超高層ビルは現代的だけどクラシック要素もあり魅了されます」 




建物の”顔”をフィーチャー。
左:Commonwealth Promenade Apartments / Mies van der Rohe 右:Bibliotheque nationale de France / Perrault

【アシックス

アンリアレイジ 「KALEIDOSCOPE COLLECTION」
アシックスと、ANREALAGE(アンリアレイジ)のコラボーレーション。都会の夜のランニングや街歩きに映えるデザインとして、幾何学調のグラフィックを施した特別仕様の再帰反射プリントをアパレルの襟元や背中、シューズのアッパーなどに採用。日中はベージュを背景に繊細な模様が表現され、暗くなると光が当たるたびにさまざまな色や形が浮かび上がり、カレイドスコープのようなデザイン変化が楽しめる。
 

ライゾマティクスリサーチが手掛けた映像と特設インスタレーションも(写真は完成前の様子)

【フレッドペリーショップ東京

清水久和 「テニスの家具」 
英国の伝説的テニスプレイヤー、Frederick John Perryが展開するファッションブランドFRED PERRYショップにて、清水久和/S&O DESIGNが"テニス"をテーマに制作した作品を展示。ラケットと同じ製造技術でつくられる「ラケット・チェア」やテニスボールの小物入れなど。


木の色を生かしたシックなポンスツール(左)とテニスロッカー(右)

【TOMORROWLAND渋谷本店

Katsuki Connection 「呼応の間/あなたのクリエイションが開花する旅」
テキスタイルデザイナーの香月裕子が展開するKatsuki Connectionの新作コレクション展示、販売、インスタレーション。


〈分身」bunshin〉 
越前和紙でできたクッション。折紙のアイデアを応用し、守り神や魔除けとも言われる"やっこさん”をモチーフにしたもの。

【100BANCH

FUTURE LIFE FACTORY
オリジナルレシピのフルーツバーをつくることができるパナソニックが開発中の調理家電「HARVEST」。海外では定番のフルーツバーを国内でも広めていきたいという。


会場の「100BANCH」は渋谷駅新南口からすぐの3階建てのビルで、パナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニが共同で開設した空間だ。未来をつくる実験区として若い世代とともに取り組むプロトタイプやアート作品も展示しておりアイディアの種がそこかしこに感じられる。空間デザインはスキーマ建築計画が担当した。


〈拍手をあびるシャワー〉
蛇口をひねると大群衆による拍手サウンドが鳴り響く。

【B&B ITALIA TOKYO

沖津雄司 「lightflakes」
ミラノサローネ2017サテリテに出展した作品。フレネルレンズ(PET板)を用いて空間、用途に合わせて自由な造形をつくり出せるプロダクト。 


パーティション



【CIBONE Aoyama

What is normalをテーマに、オランダ人デザイナー、ベルトイアン・ポットのパーソナルコレクション「Masks」シリーズを中心に構成される個展「Rope Works」の開催や、パリのセレクトショップ「Merci」のアートディレクターを務めるダニエル・ローゼンストロックが収集したさまざまなスプーンの展示とその出版本のローンチのほか、国内外の新進気鋭のデザイナーたちの新作を発表。

ベルトイアン ポット 「Rope Works」


ノーマル 「日々/HIBI」
ロス・ミクブライド/normalより約2年ぶりの新作。

【ifs未来研究所 未来研サロン WORK WORK SHOP

POP UP STORE 「HAY KITCHEN MARKET」
今年6月にコペンハーゲンでの開催を皮切りにスタートした「HAY KITCHEN MARKET」の巡回展。

【マテリアルコネクション東京

「MATERIAL DESIGN EXHIBITION 2017」
企業とデザイナーが組んで素材の可能性をデザイナー視点で引き出し、新しい用途につなぐ道筋を紹介する企画展。3回目となる今回はテーマを「BYPASS」。企業とデザイナーが見出した用途につなぐ新たな道=BYPASSを、プロセスの途中で生まれたサンプルとともに体感する。8組の企業とデザイナーが参加。会期は12月22日まで。


三和化工株式会社 × トラフ建築設計事務所〈ポリモックスツール〉
ビート板や梱包材として使われているポリエチレン発泡体「サンペルカ」の端材を圧縮成形し、様々な色の組み合わせでできたカラフルな迷彩模様のスツールを制作。


AGC旭硝子 × 伊藤聡一〈Dragon Scales〉
ガラスと天然木材を薄くスライスした突板を特殊な工法で貼合の上鱗状にした掛け軸のデザイン。

【artless appointment gallery

「FIL」
熊本県阿蘇郡・南小国町を拠点に自然の景観を守るため間伐された杉材などを活用した製品づくりを行うインテリア・ライフスタイルブランド「FIL」。artless Inc. が運営およびキュレーションを行うアートギャラリーを会場に、ブランドの活動を紹介。コッパーをアクセントにしたMASS Seriesのダイニングチェア、ラウンジチェア、ラウンドテーブルなどすべてCANUCH Inc.(カヌチ)が手掛けた。
展示期間終了後も予約制で見にいくことができる。 

【サンワカンパニーショールーム

「doradora」クライン ダイサム アーキテクツ×カリモク


気分や雰囲気に合わせて空間自体をカスタマイズしたくなる新しいソファユニットの提案。テーブルやスタンドライトなどさまざまなアクセサリーで、オフィスロビーのような空間から住宅まで多様なシーンに対応。


表参道ヒルズでAmazon Fashion Week TOKYOと合同で開催したオープニングイベント「PechaKucha Night」の様子。津村耕佑、吉泉聡(TAKT PROJECT)、Claesson Koivisto Rune (CKR) 、Moritz Waldemeyer等が登壇した。


イベント初日の朝、集まったメディアを前に挨拶をする青木昭夫氏。DESIGNTIDE、AnyTokyoなど、これまでのデザインイベントのDNAを受け継いでいる本イベントのキーパーソンだ。
DESIGNARTは新しいイベントであるわけだが、マップ片手に街中に溢れるデザインを楽しむスタイル、人との関わりを重視した一期一会のデザイン体験など、十数年前の東京デザイナーズ・ブロックのような親しみやすさがある。近年の秋のデザインイベントの流れを一度リセットしたかのような清々しさとともに、日本のデザイン業界の未来へ注ぐ愛とエネルギーを感じる。

【DESIGNART 2017】
会期:2017年10月16日〜10月22日
会場:表参道・外苑前/原宿・明治神宮前/渋谷・恵比寿/代官山・中目黒/六本木・広尾
詳細:http://designart.jp/designart2017/


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18 10月, 2017

伊藤暁による「菊名の家」

伊藤暁(伊藤暁建築設計事務所)による「菊名の家」を見学してきました。
2014年に完成した伊藤さんの自邸から至近で、工務店からの紹介だったという。


敷地面積166m2、建築面積68m2、延床面積106m2。木造2階建て。
傾斜地の住宅街で、北側には比較的人通りの多い生活道路と神社の森に面している。


正面から見ると反対側まで見通せる開口がある。


敷地は接道より1mほど下がっている。


玄関は土間になっており、そのまま南側の庭まで通じ、遠くまで見渡せる風景と、後ろは神社の森だ。吹き抜けと天井までの大開口で、建物の断面をつくっているようだ。


玄関扉と、庭側の扉は1階天井まである高さ2.9m。南アフリカ人の施主はこの扉を見て「Big is good!」と言ったとか。


南北に門型フレームを構築し、東西に広い(長い)空間を持たせた。それをこの土間・吹き抜けで分節し、空間を緩くゾーニングした。


土間はL字に展開し、奥はキッチンに直通。箱型の収納は上着などを掛けるクローゼットで、靴は縁の下にしまう。


振り返るとAVルーム。正面の壁は、後ほど施主の自主施工によりプロジェクター投影用の壁紙が貼られる。


門型のフレームが奥へ連続する。


土間を渡りフリースペースと奥にDK。


フリースペースで左を見ると寒冷紗を使ったオリジナルの簾戸が。


太鼓貼りされているので、モアレ越しに神社の緑と通りを行く人がうっすら見える。


右を向くと庭に面して全面ガラスなので、ここも南北が開口で抜けていることとなる。


キッチンは広い作業台とたっぷりの収納。DKの中心には柱が立つが、ダイニングテーブルが置かれるので気にならなくなる。


DKから振り返ると南北だけでなく、東西にも抜けているのが分かる。


キッチンの奥から。仕上げる必要のないところは仕上げない(コストを抑える)、伊藤さんの流儀。


森と街、家の境界を土間がバッファーとして調停する。密度のある魅力的な風景は、細かな操作がなされた結果だろう。


DKから庭に出ると雁行する小気味よいテラスやバルコニーが現れる。左に植わるミカンは、土地の売り主さんから美味しい実が生ると教えられ残した。もう少しで収穫だ。


2階へ。クローゼットは完全に階段の一部と化している。

潔い手摺のディテール。



吹き抜けの土間は、2階では渡り廊下で子供室へ接続されている。門型フレームの様子が分かりやすい。
左右の、大壁なのか真壁なのかよく分からない不思議な納まりを見せる壁を伊藤さんは「三六判の石膏ボードがここまでくるならここでいい。この後塗装されるので、パネルを貼ったみたいで面白い。」と話す。


子供室の壁も施主やお子さんが自身で塗装するそうだ。
右手奥に見える白い箱はトイレ、さらに奥に水回りと主寝室の扉が2枚。


主寝室。バルコニーからは谷側なので隣家の屋根の上を見渡すことができる。


ウォークインクローゼットには水道管と排水管が。


回り込むと洗面台だった。


伊藤暁さん(右)と、大阪から見学に立ち寄った前田茂樹さん(左)。
「南アフリカ出身のご主人はとても豪快で、大きな空間を中も外も全部開け放つような住宅を望まれました。奥さまのご意見も調整しながら大きな気積でありながらも、空間を程よく分節し、おおらかで変化のある住宅を提案できたと思います。」

【関連記事】
伊藤暁自邸「横浜の住宅」

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