27 3月, 2019

黒川智之による「大岡山の集合住宅」

黒川智之(黒川智之建築設計事務所)による東京 大田区の「大岡山の集合住宅」を見学。
東急目黒線・大井町線 大岡山駅から3分程の場所。アパートの名称は「Ookayama Apartment」。


建築面積102m2、延床面積397m2。RC造4階建て、14住戸からなる共同住宅。
密集した商業地域で、土地の分筆が進み、間口が狭く奥行きの深いいわゆる鰻の寝床。


反対側は黒川さんの母校東京工業大学のキャンパスに隣接し、銀杏並木や清家清が手掛けた事務局1号館を望むことができる。
今回密集した敷地で行ったのは、住戸ボリュームを南北にずらして配置しつつ、室内の土間と共用廊下を連続させることで、細長い敷地に於いて奥行きの感じられる通り土間をつくり出し、全面道路側の賑わいと奥の東工大側の良好な環境を結ぶことだ。


Aが共用廊下、Bが室内土間、Cが寝室。
B-A-Bの空間が連続することで通り土間を形成し、東西の抜けを作っているのだ。
左(西側)に細い路地状の区有地があり、そこを避難経路として認められたために可能になった計画だ。


エントランス。日影規制による高さ制限の中で、4層のボリュームを確保するため1階は少し掘り下げた。


エントランスホールに積極的に開口した101号室は通りにも面しており、住居というより事務所利用を想定している。




階段は2経路あり、通路を介して北側の階段へ通じる。


上階へあがると通り土間の効果が分かりやすい。パブリックである共用廊下から住戸の土間を透かして表へ視線が抜ける。


そのまま後ろへ下がり、向かい合う住戸のセミパブリックである土間へ。


さらに下がるとプライベートなキッチンや寝室が現れる。
東西に端から端まで連続する通り土間により、自室を超えた開放感が得られる。


プライベート空間へは適度に光や風が取り込まれる。土間では手前の板の間とは異なる使い方も出来るだろう。
このひと住戸のみ3・4階のメゾネットだが、、


一部分が別な用途地域の斜線規制に掛かるためだ。


各住戸とも浴室はユニットバスではなく、FRP防水にホーローの浴槽と贅沢な仕様。




北側の東西の抜け。
階段は屋上へ上がるためのもので、塔屋が吹き抜けとなり気積が大きくなっている。


屋上は4階住戸の専用バルコニーが付く。界壁代わりのベンチなども設えてあり、使い道は十分にある屋上だ。
右奥の遠景に見える建物も黒川さんが2015年に手掛けたアパート「北千束の集合住宅」だが、クライアントも異なる全く偶然の立地だそうだ。手前に林立する塔屋と雰囲気が似ているのが面白い。

【大岡山の集合住宅】
設計監理:黒川智之建築設計事務所
構造設計:ロウファットストラクチュア
施工:林田建設 


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23 3月, 2019

クリスト&ガンテンバインの建築展「The Last Act of Design – スイス建築の表現手法」レポート

3月20日より代官山 ヒルサイドテラスにて開催のクリスト&ガンテンバイン「The Last Act of Design – スイス建築の表現手法」内覧会に行ってきました。


クリスト&ガンテンバイン(Christ & Gantenbein)はエマニュエル・クリストとクリストフ・ガンテンバインによって1998年に設立されたスイス・バーゼルを拠点とする新しい世代の建築設計事務所。スイス国立博物館やバーゼル州立美術館などを手掛けたことでも知られ、2018年にDezeenの「Architect of the Year」を受賞するなど世界からも注目されている。


クリスト&ガンテンバイン、日瑞建築文化協会顧問の古谷誠章氏(もう一人の顧問アトリエ・ワンの貝島桃代氏は欠席)を囲み、本展のオープニングを祝うメンバー

主催は2018年に日本とスイスの建築の文化交流を促進させるためのプラットフォームを構築すべく、スイスとの関わりの深い建築家 有志6名(石田建太朗/平瀬有人/黒川智之/金野千恵/湯谷紘介/黒川彰)により設立された一般社団法人日瑞建築文化協会。第一弾として企画されたクリスト&ガンテンバイン日本初開催となる本建築展は、東京・京都の2拠点において、 国立西洋美術館、京都工芸繊維大学などでのレクチャーと併せた開催となる。

本展は、2010年から2016年に竣工した7つの建築を、長年展覧会や出版のプロジェクトにおいて協働してきたイタリア人写真家のステファノ・グラツィアーニの目を通して表現される写真をメインに、表現媒体としての立体的なドローイング、そしてアンビルトの9つの模型によって構成されている。
  
写真は大小様々なサイズがあり、その中にはグラツィアーニ氏がクリスト&ガンテンバインの事務所を訪れ、スタディモデルなどプロジェクトのプロセスを自由に撮影したものが含まれている。
面白いのは、それらの模型やマテリアルなどを撮った写真の方が、実際に完成した建物の写真よりも、はるかに大きいサイズで大事そうにフレームに入れて展示されている点。

リンツ・チョコレート・コンピテンシー・センター(建設中)2019年秋に竣工予定。
そして模型写真。

吹き抜けエリア。本展のために再制作されたドローイングと模型が置かれたテーブルがある。
ドローイングは、青と黒をベースに、線、影、色、背景、ヴォイドといった様々なツールで表現されている。

最新の3Dプリント技術によって製作された9つのアンビルトプロジェクト。エマニュエル・クリスト氏は「これらアンビルトは僕たちにとっては同じように重要なもの」と話す。 
シテ・ドュ・ラ・ミュージック(スイス ジュネーブ 2017)

左から写真家のステファノ・グラツィアーニ氏、エマニュエル・クリスト氏、アソシエイトのヴィクトリア・イーストン氏、クリストフ・ガンテンバイン氏。
「本展のタイトルThe Last Act of Designは、『設計する行為は建物が建ったら終わりなのか?』という問いからきています。何年か経ったあとも、デザインという行為は写真、ドローイング、模型といった媒体を通して持続し新たな表現で形づくられているという考えを今回伝えることが出来ればと思いました」
【The Last Act of Design – スイス建築の表現手法】
東京展
会期:2019年3月20日〜3月31日
会場:ヒルサイドテラスF棟 ヒルサイドフォーラム
主催: 一般社団法人 日瑞建築文化協会 + スイス大使館

京都展
会期: 2019年4月4日〜4月20日
会場: 京都工芸繊維大学 美術工芸資料館
主催: 一般社団法人 日端建築文化協会 + 京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab
+ 京都工芸繊維大学 美術工芸資料館
協力: スイス大使館

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13 3月, 2019

砂山太一と浜田晶則による展覧会「鏡と天秤」

東京・京橋のAGC Studioで3月12日より始まったAGC Studio Exhibition Vol.27「鏡と天秤 -ミクスト・マテリアル・インスタレーションー」展オープニングへ行って来ました。


二人の建築家、砂山太一と浜田晶則がAGCの旬の素材を媒体として表現するインスタレーションである。コンセプトは「Mirror」と「Libra」。鏡は非日常(ハレ)と日常(ケ)の境界が曖昧な社会をどのように映しとっているか、天秤は非日常(ハレ)と日常(ケ)のバランスをどのように計っているのか、それぞれの解釈によって製作された装置と空間を体感することができる。


〈Libra〉浜田晶則
ガラス筐体とフッ素樹脂フィルムで構成される天秤と、特殊12.2chのマルチチャンネルオーディオシステムによるサウンドの作品。柔らかな白い布で覆われた部屋に苔が一面に敷き詰められおり、ガラスの装置とそれを眺めるための場所、写真家Gottinghamによって撮影されたコンセプトイメージや構造の解説があるライトボックスが配されている。


大ガラスは182kgありそのままでは倒れてしまうが、そこにフィルムをかけ、97kgのガラスの塊によって張力をかけることで水平に維持されながら浮遊している。フィルム(アフレックス)はドイツのアリアンツ・アリーナや東京・新豊洲Brilliaランニングスタジアムなどでも採用されている耐候性、防汚性のある膜構造用素材だ。


フィルムの上には光学ガラスが何個か配されている。上には二対の漏斗と、音響彫刻家の國本怜氏による立体的な音像を可能にする球体スピーカー。膜の上の水が落ち、摩擦力と表面張力によってとどまり、音と共鳴する。



浜田晶則氏(左)、國本怜氏(右)
チームラボのプロジェクトでも協働したという二人。「非日常と日常、仮想と現実、主体と容体、これらを両義的なものとして思考するための装置がLibraです。ぜひ体感しに来てください。」


〈Mirror〉砂山太一
鏡として使用可能な反射率と高解像度な映像表示を兼ね備えた、AGCの拡張ミラー型ディスプレイ「Augmented mirror」を主に使用したミクストメディアインスタレーション。

反射率65%のハーフミラーの背後に液晶ディスプレイを配置したミラー型ディスプレイによる鏡面サイネージ空間。L字型に構成された鏡の壁が、鏡像、実物そして映像が混ざり合う拡張された空間をつくっている。


液晶ディスプレイの光がハーフミラーを通過し、鏡の表面に映像が表示される(表示の無い黒い部分は通常の鏡)。


砂山太一氏。「メディアの再生装置のような空間です。先に空間の中にカラーMDFで厚みのある平面を作り、その後映像や配置するものを考えていきました。」

AGC Studio Exhibition Vol.27 
「鏡と天秤 -ミクスト・マテリアル・インスタレーションー」
会期:3月12日(火)~ 5月11日(土)
開場:10:00 ~ 18:00(日曜・月曜・祝祭日休み)
入場:無料
会場:AGC Studio(東京都中央区京橋2-5-18)
ディレクション:中崎隆司
主催:AGC株式会社 AGC Studio
www.agcstudio.jp/event/3857





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08 3月, 2019

荒谷省午による西宮の「目神山の住宅」

荒谷省午/荒谷省午建築研究所による西宮の「目神山の住宅」を見学してきました。
目神山は荒谷さんの師、竹原義二氏のさらに師である石井修氏が20以上の作品を残した地区であり、荒谷さんにとってはこの地区2作目となる。
(※取材時外構は未完成)


敷地面積874m2、建築面積237m2、延床面積167m2。木造2階建て。
親が50年ほど前に建てた家を建て替える計画だ。


接道より3mの高さまで緩やかに傾斜した敷地に平屋の棟をいくつか雁行させながら配置し、その上に一筆書きで屋根を掛けた。


既存では西寄り(右)に大きな2階建ての棟が建っており、東寄りに手入れされた庭木が植わる大きな庭があったが、今回十分に活用出来る庭の使い方を求められたそうで、庭(余白)の残し方を多くスタディした。
アプローチはそのままで、玄関の位置も踏襲。中央に小さく盛り上がる庭石の辺りに建物の角があった。


今回大きく変えたのは、庭を敷地中央に取り、持ち上げた棟の下にピロティ設け、そこを介して南北に連続させることだった。
ピロティの高さは180cmほどで、無垢の鉄柱で支持した。無柱にする事もできたが、コンクリートスラブが厚くなることや、それだけのコストを掛ける意味があるのかを検討した結果柱を立てた。
砂利の部分はこの後コンクリートブロックが敷き詰められる。


ピロティを抜けると南の庭。土の部分は芝生になる予定。つまり堅い庭と、柔らかい庭にして目的によって使い勝手を良くしたのだ。


南に面した新しい庭はキャッチボールや、ちょっとしたサッカーも楽しめるくらいの広さ。ダイニングやリビングに接続するバルコニーからも出入りできる。
外壁はモルタル。クラックが入りにくいように目地を切り、金ゴテ仕上げと、スタイロ仕上げで表情を変えた。


玄関へ。土間はモルタルで、右奥の階段からガレージに通じている。上がり框の下に間接照明が仕込まれている。
天井は木毛セメント板で、軒天井から連続する。


右へ進むと、ハッとするような朱が鮮やかな和室が現れる。


朱の引戸、襖は和紙の壁紙が張られたもの。仏間や客間として利用する部屋だ。


玄関から左は段床を伴いながら奥へ廊下が続く。左手にはウォークインクローゼットがあり、藍の壁にはピクチャーレールが備わる。


廊下を進むとLDKの手前に前室のような小部屋。そこに2枚の引戸。
藍色はEP(エマルジョンペイント)に砂を混ぜて、表情を付けながら塗った。


左の引戸はトイレで、右を開けると洗面室と浴室。


洗面室から左を向くと、家事室、そしてパントリー、キッチンへと続く家事動線。


家具や建具に丁寧な仕事が見られた。ラワン材に柔らかな加工がされた手掛かり。戸当たりとして埋め込まれたブラシは荒谷さん標準の仕上げだそうだ。また引戸と戸袋の境に見切りを一筋入れ、戸を閉めたときの納まりが美しくなるよう一手間かけている。


水回りからキッチンは施主の好みが強く反映されているという。「それらを調整しながら自分の設計に落とし込むのはおもしろい。」と荒谷さん。


玄関から続く廊下を見返す。分節された屋根が交互に勾配を変えていく様がよく分かる。


ダイニング・キッチン。緩やかな勾配の大きな天井が、左のリビングに向かって開放感をもたらす。
ヘリンボーンの床は施主の要望を反映した。


ダイニングから少し上がってリビング。この下がピロティになる。持ち上げられたリビングは景色の眺め良くするためでもある。


西宮の街並みと大阪湾を望む。


リビングに据えられるようにレイアウトされた畳スペースは3人の子どものための勉強部屋。右手から2階に上がることができる。
リビングの壁も同様に砂混のEP。畳スペースはシルバーのガルバリウム鋼板貼り。


施主はチェストやテーブルなどのビンテージ北欧家具を多く所有することから、配置を楽しめるように、壁を多めにした。


2階は、通常ならロフトと呼べるような天井の低いコンパクトな空間だが、ここからでないと見ることができない内外の眺めがある。


下の畳が子どものスペースで、こちらは親のスペースとして使う予定だそうだ。


畳スペースの左手奥へ。
正面の開口からちょうど梅が咲いているのが見える。


子ども3人の寝室。まだ小さいので引戸は付けずにオープンに。間仕切りは黒板塗装がされている。左奥に主寝室。


振り返ると子どもが好きそうな凹凸が沢山ある。


子ども室の奥から。開口から見える庭は今後植栽がもっと入れられる。


主寝室の出入りは不思議な三角の "廊下" に面する。「大きなところと小さなところを意図的に設けでメリハリを付けた。」と荒谷さん。


左はトイレで、反対が主寝室。


主寝室へは、玄関から上がったり下がったりしながら30mほどの動線がある。離れのように一番小さなボリュームとして配置されている。
床はサイザル麻だが、綿が混紡されて足触りが柔らかい。


荒谷省午さん。「建て替え前の住宅は、この広い敷地が持つ可能性を充分に使いこなせていないように感じました。今回の計画では、これまでのここでのクライアントの生活に敬意を払いつつ、この場所のポテンシャルを最大限引き出す事に注力しました。平屋を少し立体的に捉えることにより、眺望の確保や大きな軒下など、敷地に残される余白部分もまた魅力的な空間とすることが出来たと思います。」

【目神山の住宅】
・建築設計:荒谷省午建築研究所
・構造設計:エス・キューブ・アソシエイツ
・施工:山陽建設工業


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