20 6月, 2019

富永大毅による「四寸角の写真スタジオ」

富永大毅(富永大毅建築都市計画事務所)による東京都北区の「四寸角の写真スタジオ」を訪問。
都内に複数のレンタルスタジオを展開するスタジオパスティス・バジルが、志茂にある3つのスタジオを段階的にリニューアル。うち一つの設計を富永さんが手掛けた。


面積113m2、バックヤード含め202m2、木造1階。住宅を再現したハウススタジオと呼ばれるものだ。
取材当日は仕上げや家具の搬入が大詰めだった。


外観はどうなっているかというと、鉄骨の元倉庫内に住宅が挿入されているような格好だ。


庭もスタジオの一部であるため、外壁はシラス壁を左官でしっかり仕上げた。


玄関ポーチ。セットのような雰囲気だが、実際の住宅に近いスペックで造られている。法規的には "間仕切り" になる。


右側はバックヤードへの搬入経路。


玄関から。広い玄関ホールと右手はメイクルームへ。正面にリビング、その左が寝室、右がダイニングとキッチン。
スタジオという性格上、スタッフや機材が多くなるので壁や柱がほとんどない、間口の広いワンルーム空間で小さな部屋がない。

その空間を引き締めているのがこの大梁だ。スパンは5mあるので通常なら集成材を使うところだが、国産無垢材の使用にこだわる富永さんは今回、多摩産の四寸角流通材を用いた構造にチャレンジした。


建て方の際のカット。「大梁が組まれる前は、他の梁も四寸角材で梁せいが低く、鉄骨の架構のようで不思議な光景だった。」と富永さん。倉庫の大屋根があることを利用して製材所から木材を搬入して、大工が手加工で組上げた。
(photo: 富永大毅建築都市計画事務所)


実際にはスタジオの軽い屋根を支えているだけなので、これだけの大梁は必要ないが、住宅に置き換えて考えた場合、5mのスパンを飛ばすためには360mm程度の梁せいが必要になる。それを流通材である4mと3mの材を交互に積み上げ、金物を使わずラグスリューのみで締め、明かり採りで高くなったハイサイドの分まで積み上げた格好で、ここでは仕上げとしての意味合いが大きい。
四寸角材は全部で230本使っているそうだ。


天井は全面に張らず、中空ポリカーボネート板の屋根から自然光をたっぷり導き、撮影に対応している。縁のよう取り囲む小天井は撮影の際の見切りで、裏側には照明が備わる。


サンドイッチしてひとつの梁になるため、梁端部は一本おきに止まっており、光や空気が回るようになっている。


壁はL字型の組合せでできており、撮影スポットが多くなるようにしつつ、後々部分的に仕上げを容易に変えることができる。
壁は漆喰、床はマラッツィのタイル。


実際の住宅だったら相当気持ちの良いテラス。




キッチンは製作で、ガスや水道も通っているが換気扇はない。それぞれの配管はフレキシブルでキッチン台を動かすことができる。


扉を一枚開けるとバックヤード。左奥は隣のスタジオに通じる。
右に見えるダイニングの壁もマラッツィのタイル。


こちらはメイクルームや控え室、トイレなど。

富永大毅さん。
「サイズ感や仕上げなどリアルとバーチャルの間のようなユニークなプロジェクトでしたが、仕上げが頻繁に交換されるプログラムだからこそ構造躯体が重要だと考えました。木造では、あるスパンを超えた途端に集成材を使わざるを得なくりますが、身近な流通材を使った構法を考えて、今後の設計に役立てたいと思いました。またそもそも木造は痩せてきたり材の狂いがあり合理的ではないですが、仕上げとして、或いは間仕切りとしてであったり多義的に機能することこそ、本当の木造らしさであるということを最大化した表現といえます。」

【四寸角の写真スタジオ】
設計・監理:富永大毅建築都市計画事務所
構造設計:川田知典構造設計
施工: AI建築都市計画事務所
製材:沖倉製材


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14 6月, 2019

小泉雅生/小泉アトリエによる「横浜市寿町健康福祉交流センター/市営住宅」

小泉雅生/小泉アトリエによる「横浜市寿町健康福祉交流センター/市営住宅」を見学。
この地に40年以上あった旧労働福祉会館および市営住宅(設計:緒形昭義)を建て替え、新たな施設として生まれ変わらせるためのプロポーザルコンペが2014年に行われ、小泉アトリエが設計者に選定された。
[Yokohama-Shi Kotobuki-cho Health Welfare Exchange Center by Masao Koizumi / Koizumi Atelier]

敷地面積2,647m2、建築面積1,630m2、延床面積7,693m2。RC造地下1階、地上9階建。
1階から2階に地域住民のための健康福祉交流センター、3階から9階を80戸の市営住宅で構成される。前面に芝生のある広場を設け、オープンな居場所として、また様々なイベントスペースとして活用する。


寿町は日本有数の簡易宿泊所街。多くの簡易宿泊所が建ち並ぶ独特の雰囲気を持つ街だ。近年は海外からのバックパッカーにも人気があり、旅行者向けにシフトする宿泊所も増えている。


昔からの日雇い労働者や生活保護を受けながらほぼ定住している人も多く、約6000人が暮らす。これら簡易宿泊所は一部屋2畳や3畳の狭小空間で、通常のホテルとは違い、ロビーや娯楽室などの寛ぐ場所がない。


かつ地域住民の高齢化が進行し、福祉ニーズが高くなってきた街における核として、この健康福祉交流センターが求められ、さらに地域の防災拠点としても機能する。


センター1階には広場に面して左から調理室、作業室、ラウンジ、管理人室、市営住宅の集会室・エントランス・駐輪場。
2階には精神科デイケア、診療所、活動・交流スペースのエントランス、健康コーディネート室、ことぶき協働スペース、裏側に公衆浴場と続く。


東側。センターの外縁にも居場所をつくった。


西側。階段から公衆浴場へアプローチできる。下は駐車場。


南側。通用口や非常階段。電解着色されたアルミのサイディングは、周辺のコンテクストから抽出した色でデザインされている。


そして正面の北側(正確には北西面)。


広場に面して軒の深い「まちの縁側」を設け、地域のひとが気軽に立ち寄れる構えとした。
左はセンターのパブリックゾーンであるラウンジへ。


中に入ると2層の吹き抜けと、さらに重力換気兼採光用の通風塔が5層分の高さまで伸びている。(強制排気用にファンも備わる)
床には縁側から連続するコンクリートブロックが敷き詰められ、外部が入り込んできたような雰囲気も入りやすくする設えだ。


左の柱は集合住宅の下に掛かるため太いが、右の柱は2階を支えるだけで応力が少ないため、細い十字柱で意匠としながら断面積を減らしている。梁も応力の少ない部分は単に梁せいを低くするのではなく、ハンチ梁にするなど細かなデザインを施している。ハンチ梁は既存建物でも取り入れらており、そのオマージュとも取れる。


ラウンジの奥にはテレビが備わっていたり、将棋などレクリエーションにも対応。
災害時には避難場所や情報発信の中心となる。


既存でも人気だった図書コーナーも。


空調は、冷温水輻射熱パネルをメインに用いる。書架の下に覗く開口は、地下のクールピットで自然に冷やされた空気を導く。


外へ出て軒下を奥へ進むと、市営住宅「寿町スカイハイツ」のエントランス。左に住民用の集会場がある。
この日は住居部の見学はできなかった。


住居部には「エコスリット」と名付けた外部吹き抜けをつくり、住戸の中程に位置するDKに開口を設けられるようにし通風や採光に配慮した。
既存の市営住宅では間取りは2Kがメインであったが、今回の建て替えで2DK、3DKをメインにし、ファミリー世帯向けを重視した。ちなみに入居者はほぼ全戸埋まっているそうだ。
(photo: 小泉アトリエ)


交流センターの通風塔。少し象徴的になるようにデザインしたという。
(photo: 小泉アトリエ)


2階に上がるには東側からの階段と、エレベーター、そしてこのスロープがある。
スロープは割り箸を割ったようなシャープなデザイン。右側は広場に面して芝生を張った築山を設えた。


スロープから。エレベーター、通風塔、階段などが垂直方向の意匠として共鳴しているように見える。


2階にも縁側。床は1階同様コンクリートブロックを敷いた。
奥からデイケア、診療所、パブリックゾーンのエントランス。


この日はオープニング。ステージを設置し、ミニコンサートやパフォーマンスなど様々なイベントが開催された。写真はウォーキングサッカーの様子。
地面にマークされている円は1.8mピッチに刻まれており、イベントなどのブース用マーキングだったり、並んだり、このようにエリアを区切る目印などに活用できるのではと機能と意匠性を持たせた。
左に並ぶマンホールは災害時用のトイレになる。




診療所。診療所のニーズは高く、毎朝開院前に20〜30人の行列が出来るそうで、そういったためにもこの軒下空間は重要になる。
隣は精神科デイケア。一般的には精神科デイケアは建物の目立たないところに配置するが、この地域では入りやすくする事が大切とのことで、一番表側に配置した。


診療所はセンター2階の1/3のスペースを占める。待合室にも通風塔の孔が見える。通風塔はハイサイドライトを導く機能も持つ。


診療所とパブリックゾーンは吹き抜けの渡り廊下で接続される。下はラウンジのエントランス。


2階パブリックゾーンは、右手に健康コーディネート室、会議室、活動・交流スペース、センター事務室へと通じる。


活動・交流スペース。右奥の会議室を開放しさらに広いスペースにもできる。主に地域の支援活動をしている団体などがミーティングや交流を気軽にできるようになっている。
左はセンター事務室で、見通しの良いガラス張りの室とした。


縁側へ出て、2階角のことぶき協働スペース。まちづくりの担い手となる地区内外の団体や事業者等がネットワークを築きながら活動を行い、交流を活性化させることで寿地区の「開かれたまちづくり」を進めていくための拠点となる。


2階奥の公衆浴場「翁湯」。一般の銭湯と同じく誰でも利用できる。左手のエントランスからは先ほどの活動・交流ペースへも通じている。


浴場内部は見学できなかったが、男女の脱衣所の界壁は可動式で、小上がりの座敷もあり、営業時間外に落語などのイベントが開催できるようにした。
(photo: 小泉アトリエ)


ガラスブロック越しに外光がたっぷり入り、夜は逆に、外に対して行灯のように光ることとなるだろう。
(photo: 小泉アトリエ)

小泉雅生さん
「関係者や利用者の方々との対話やワークショップを重ねていくうちに、明確に "このような建物" と設計するのではなく、どのような使われ方に変化していっても大丈夫なように、フレキシブルでタフな建物に設計すべきだと考えました。数年にわたって心血を注いでこの施設の設計に携わってきて、非常に思い入れ深いものとなっていますので、今日は娘を嫁に出すような気分です。これからこの建物をタフに使い倒して頂きなから、どのように育てていっていただけるか期待しています。」と話す一方、施設や地域の発展のために今後も関わっていくという。


【横浜市寿町健康福祉交流センター/市営住宅】
・設計・監理:小泉アトリエ
・構造設計:構造計画プラス・ワン
・設備設計:ZO設計室
・施工:松尾・小俣・土志田建設共同企業体(建築工事)他
・横浜市寿町健康福祉交流協会:www.yokohama-kotobuki.or.jp


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