20 9月, 2011

30歳以下の若手建築家7組による建築の展覧会レポート

今注目の若い建築家7組の展覧会、U-30 Under 30 Architects Exhibition を見に行きました。

建築展はアート展や写真展などとは違い、本物の建築を会場に持ち込むことは当然のことながら出来ません。昨年の展示はインスタレーションが主流 だったそうですが、今回はそれぞれの建築家がどのように建築を模索し未来を築いていこうとしているのかをじっくり見れる建築展らしい見ごたえのある展覧会でした。

建築の世界では40代でも若手とされますが、現在最も若いとされる建築家は20代。
その若手建築家たちはこれからの半世紀を構築していく世代であるため、この世代が未来をどのように考えているのか、期待がふくらみます。





会場模型。会場構成は平沼孝啓建築研究所による。


加藤比呂史 ヴィクトリア・ディーマー 「Osaka Garden House」「Lucky House」

北欧特有の週末住宅のコロニーガーデンハウスの研究から彼らの進行中のプロジェクトLucky Houseを紹介しています。コロニーガーデンハウスとは、"ちょうど必要な分だけ"という豊かな最小限の美学と、自分たちで育てた草花や野菜と共に暮らすという根源的な喜び からなる家々。コロニーガーデンハウスに見られる最小限のゆたかさの集まりを日本の都市の中に組み込むことで、都市のランドスケープとなる。

会場は発砲スチロールで「つながり」と「行き止まり」を混在させ、また様々なスケールの空間を体験出来るようになっています。









展示空間は「Osaka Garden House」の3分の1の模型で作られています。


大西麻貴 「二重螺旋の家」

昨年のU-30にも展示をしていた大西麻貴さん。 今回の展覧会の中では唯一の建築竣工作品。設計に使ったモックアップやこれまでの経過写真、携わった方々の顔が分かる写真が展示されています。
建築家の展示会では、建築模型やドローイングなどが当たり前のように展示されていますが、大西麻貴さんの場合は完成されるまでの長い歳月に携わった方々の顔を見せ、たくさんの人間ドラマがあったのだと人の繋がりの大切さや感動を教えてくれます。「建築には必ず未来がある」とコメント。







瀬戸口洋哉ドミニク 「島と梅の家 Samsonow の村」

たくさんの多彩なスケッチや額に入れられた絵画、色彩溢れる賑やかな模型が展示会場を華やかにしていました。
「建築は論理性だけではダメだ。論理を突き抜けたところに目指す建築がある。」
手を動かしながら考えることを身につけた、瀬戸口洋哉ドミニクさん。身体性に正直な建築は、人間にとってとても心地良い空間を与えてくれるのではないでしょうか。


瀬戸内海に浮かぶ島にある梅畑に囲まれた敷地に住宅の計画。住宅は丘となり、輪をつくり、花に包まれる。梅を楽しむために人がぐるぐると廻れるようにループの家を計画。輪になり、繋がる意識。
一見ファンタジーの世界やユートピア建築に見えますが、現実的で人間らしい計画。人間にも動物にも地球にもやわらかく優しい印象でした。



ポーランドのサムソヌフという村にある敷地の既存建築群の改造と3家族のための3つの住宅の計画。村のなかに村をつくり、あたらしい村の景色をつくろうとしています。



発想の源となっている様々なスケッチ。


米澤隆 「パラコンテクストアーキテクチャー」

今回2回目の出展となる米澤隆さん。この展覧会のために新しくプロジェクトを企画し制作したという作品は、今回のU-30のテーマである 「未来へのプロセス」を基に、これからの建築のありかたや都市像を示しています。16の原風景を建築祖形に置き換え、マッピングし混じり合って展開し、一つの多種多様な総体する建築を表現しています。

「並列したストーリーの同時多発的存在ということを考えています。全体と部分というのがそれぞれ独立して存在していて、解像度を上げて見た時に 違った世界観があるような。強い次式によってつくられるピュアなものではなく、そこにある種の失敗みたいなものが許容され、色々なキャラクターの混じり気 が入ってきて、全体の世界観を少しづつ変えていってしまうような、脱皮してもう一段階も二段階も上にいけるようなことをめざしています。」と米澤さん。












金野千恵 「向陽ロッジアハウス」

東京郊外に建つ戸建住宅。約45坪の敷地を二分し、南の庭に北の室内をロッジアで繋ぐ計画をしました。ロッジアはイタリア、プロチダ島の港に住宅が壁を共有して建ち並び、壁面には海へ向かって大胆なアーチ窓や半屋外空間。
「向陽ロッジアハウス」は、ロッジアという人間の生活を彩りながら、より大きな秩序へと人間を結びつけるような空間の、現代における再評価と実績を試みるプロジェクトです。






増田信吾 大坪克亘 「小さな部屋」

現在設計中のとても小さな部屋の改修の仕事を紹介されています。
問題になっていた風通りが悪いために腐ってきた場所に、風通しが現状よりも良くなるように改修したいという思いから、風をテーマに小さな構造体を屋根の支えとなるように設計した小規模なプロジェクト。小さいながらも考えているスケールはとても大きいものでした。
彼らの建築は言葉で表現できないような、また目では見えないものを建築に置き換えているように感じました。








海法圭 「空飛ぶマンタ」

空に浮遊する至大な膜面。ある興戸に巨大な膜状の構築物を作り出し、地球上の多数の人々の生活をより良くすることを目指す「空飛ぶマンタ」プロジェクト。これから起こりうる地球現象に対して、大らかな環境設備を整え、内部/外部空間をかえると街の暮らしが快適になる。
「現実や将来に臆する退行ではなく、建築の可能性を信じる自由奔放な創造力でありたい。」と海法さん。

現段階で検討が必要になる、膜素材やフレキシブル太陽電池の検討や、年間をとおした1世帯あたりの冷房負担の検証、理想的な揚力係数を算出など、膜の断面形状や回転速度等に反映して設計されています。






「全体的に見て、社会のありかたや敷地のコンテクストを突き詰めるものでもなく、数学的にロジカルに追求したものでもなく、また内的なものから打ち出すものでもなく、順調で従順で明るい未来を構築する建築という、とても有機的な建築と言える」と建築史家の倉方俊介さん。

考えてみれば、この世代が建築を勉強し始める頃に911が起き、独立した頃に311という建築歴史的に見ても重大な出来事が起きています。建築が破壊され てい く姿を目の当たりにし、人間が人間のために創りだした現代地球環境が本当は間違っていたのかもしれないという現状から、「本当の豊かさとは?」という問い かけから「建築家に出来ること」への問いかけを彼らは教育の過程でじっくりと考えてきている世代です。上の世代が創り上げてきた世界を通じて、建築は人間 生活に密着したものでなけ れば、という切実な思いが形になってきているように思います。それは生きることへの想い、個々が繋がること、そして地球環境を楽しみながら生活するという 切実な思いが浮かんできます。

(取材・文: 八木夕菜)


Under 30 Architects exhibition 2011
30歳以下の若手建築家7組による建築の展覧会


2011年9月9日(水)~ 2010年10月10日(月・祝)  12:00~20:00
アジア太平洋トレードセンター ITM棟10階 ODP(大阪デザイン振興プラザ )


U-30 記念シンポジウム 1
ゲスト建築家 : 伊東豊雄  meets U-30出展建築家
2011年 9月 23日(金・祝) 15:30-18:30 (開場 15:00)

U-30 記念シンポジウム 2
ゲスト建築家 : 五十嵐淳(北海道)× 谷尻誠(中国)× 平田晃久(関東) × 平沼孝啓(関西)× 藤本壮介(関東)  meets U-30出展建築家
2011年 9月 24日(土) 15:30-19:30 (開場 15:00)


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