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30 4月, 2018

藤原徹平による会場構成「岡本太郎の写真」展 レポート

川崎市岡本太郎美術館で4月28日から開催の、藤原徹平(フジワラテッペイアーキテクツラボ)が会場構成を担当した「岡本太郎の写真-採集と思考のはざまに」展の内覧・レセプションに行ってきました。


展覧会概要:岡本太郎は若い日に留学したパリで、画家としての方向を模索するかたわら、自分の行く道への裏づけを得たいという切実な思いから哲学や社会学に関心を持ちます。そして人間の生き方の根源を探るべく、パリ大学で民族学・文化人類学を学びました。パリでは、画家だけでなく写真家たちとも親しく交流し、ブラッサイやマン・レイに写真の手ほどきをうけ、引き伸ばし機を譲り受けたり、たわむれに展覧会にも出品しています。しかし、岡本が猛烈な勢いで写真を撮りはじめるのは、戦後、雑誌に寄稿した文章の挿図に、自分が見たものを伝える手段としてこのメディアを選んだ時からでした。
こどもたち、風土、祭りの熱狂、動物、石と木、坂道の多い街、屋根、境界。岡本がフィルムに写し取ったイメージは、取材した土地、旅先でとらえられたものです。見過ごしてしまうようなささいな瞬間の、しかし絶対的なイメージ。フィルムには、レンズを通してひたすらに見つめた、岡本太郎の眼の痕跡が残されています。旅の同行者である秘書・敏子は「一つ一つ、いったい、いつこんなものを見ていたんだろう、とびっくりさせられるし、そのシャープな、動かしようのない絶対感にも息を呑む。一緒に歩いていても、岡本太郎の眼が捉えていた世界を、私はまるで見ていないんだな、といつも思った。」と述べています。
本展では、岡本がフィルムに切り取ったモチーフ、採集したイメージを軸に、岡本太郎の眼が見つめ捉えたものを検証することで、絵画や彫刻にも通底していく彼の思考を探ります。カメラのレンズが眼そのものになったような、岡本太郎の眼差しを追体験してみてください。


会場にはゼラチンシルバープリントが224点、ベタ焼きを拡大したパネル4点、プロジェクターによるスライドショーに加え、油彩画11点、彫刻13点が並ぶ。


プリントは写真評論家の楠本亜紀によって、4つの章「道具」「街」「境界(さかい)」「人」に整理され、さらに18のテーマに分類し展示される。そして普段は小部屋をつくるためにパーティションとして使われる展示壁を、ぱらぱらとランダムに並べた。


展示の準備中に止まったような壁。ランダムに並んでいるように見えるが、一応順路が床に示されており、その通りに見ても良いし、気の赴くまま見て回っても良い。


路地や広場、交差点のある小さな街を巡るように太郎の世界に入り込むのだ。


時折、袋小路となり、はっとするような彫刻や絵画が眼前に現れる。


〈道具〉
「生活に密着した道具の美しさ。––芸術以前だろう。
しかし芸術ぶったものよりはるかに鋭い。」


〈市場〉
「民芸でも織物でも、菓子やパンのデザインに至るまで、アッと言うほど強烈で、濃厚な生命感にあふれている。無邪気でありながら、ふくらみ、ひらききってる。それはまさに人間性の根源の豊かさである。メルカド(市場)を歩き回ってそういう物や人々にふれていると、時間のたつのをわすれてしまう。」


取材中の太郎。未現像のもや、現像されてはいるがプリントされていないフィルムがまだまだ大量にあるそうで、研究が進めば新たな発見があるかもしれないという。
「写真というのは偶然を偶然でとらえて必然化することだ。」


太郎愛用だったカメラやレンズ。


本展に合わせてフジワラボでデザインされたベンチ。岡本作品を彷彿させる曲線で、様々形に組み合わせて使うことができる。


藤原徹平さん。「展覧会は疲れますよね。特にこういった写真展の場合、単調な見せ方になりがちですので、ここでは疲れないよう、風景として見える展示にならないかと考えました。彷徨いながら自由に見て回わり、太郎が写真に切りとったように、見ている人にも見つけてもらうような構成です。疲れないような会場にデザインしましたが、もし疲れてもベンチを沢山作りましたので、休みながらゆっくり楽しんでいただけるのではと思います。」


川崎市岡本太郎美術館。久米設計による設計で1999年竣工。太郎の生前から計画されていたが1996年に死去したため、完成を見ることはできなかった。


丘陵地のランドスケープと一体となるようなデザイン。




太郎から寄付された1800点余りの作品を所蔵している。


岡本太郎美術館のある生田緑地は少々駅から距離があるが、川崎市藤子・F・不二雄ミュージアム、かわさき宙(そら)と緑の科学館のほか、写真の菖蒲園、、


日本民家園には各地から移築された多数の古民家、、


うっそうとしたメタセコイアの林まである多彩で広大な公園だ。

【岡本太郎の写真-採集と思考のはざまに】
・会期:2018年4月28日(土)~7月1日(日)
・会場:川崎市岡本太郎美術館(川崎市多摩区枡形7-1-5)
・詳細:www.taromuseum.jp/exhibition/current.html


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24 4月, 2018

「建築の日本展」レポート/森美術館

森美術館で4月25日から開催される「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」内覧会に行って来ました。
[Exhibition 'Japan in Architecture': Genealogies of Its Transformation. Mori Art Museum, Tokyo]


世界中から注目されている日本の建築。本展は、日本の建築を読み解く鍵と考えられる9つの特質で章を編成し、機能主義の近代建築では見過ごされながらも、古代から現代までその底流に脈々と潜む遺伝子を考察するというもの。貴重な建築資料や模型から体験型インスタレーションまで100プロジェクト、400点を超える展示物で日本建築の過去、現在だけでなく、未来を考える。


《1. 可能性としての木造》
国土の70%が森林である日本。木の文化は近代どうやって活かされたか、木造建築が見直されている今、日本の木造建築の技と思想、その未来の可能性について思考する。

まずはテーマを象徴するかのような北川原温の〈ミラノ国際博覧会2015日本館〉のために制作された「立体木格子」と称する木組。今回の展示では紀州檜を用いている。


入ってすぐ左手のガラスケースはお見逃しなく。
江戸時代の大工棟梁に代々受け継がれた〈大工技術書〉。上は160年前のもの、下は360年前のものだ。


こちらも江戸時代の巻物〈木割書『柏木家秘伝書』〉


壁面全体をつかった展示デザインにも注目してほしい。森美術館と若手建築家の川勝真一、工藤桃子、元木大輔やグラフィックデザイナーが協働し、壁を3段階の高さでエリア分けすることで資料や解説等の詳細情報を掲出するという鑑賞者の興味や関心、専門性などの度合いに配慮した新たな展示デザインを試みている。


日本の建築、それは木造建築に遺伝子として受け継がれている。古代の木造高層建築〈出雲大社〉


〈東大寺 南大門〉


その南大門にインスパイアされた〈空中都市 渋谷計画 1962年 計画案〉磯崎新
既存の街の上空に住居群を浮かべるメタボリズムの都市提案のひとつ。遺伝子は隈研吾の〈檮原 木橋ミュージアム〉へと受け継がれている。


《2. 超越する美学》
日本の建築にある意匠や構成の簡素さには「シンプル」という言葉を超えた存在感がある。木造にも打放しコンクリートにも通底する超越する美学の系譜は、これからも永遠に更新されていく。

ゲート状に区画されたエリア。


そぎ落とされた美と、水を使った静かなる美。〈アトリエ・ビスクドール〉前田圭介や、〈佐川美術館 樂吉左右衞門館〉など。


〈鈴木大拙館〉谷口吉生
このセクションの空間、ゲート状の開口は鈴木大拙館のそれを疑似体験できる演出。


《3.安らかなる屋根》
日本建築は屋根である、と言われる。伝統的な日本建築の屋根が近現代の建築家にいかなるインスピレーションを与えてきたかを考察する。

〈直島ホール〉三分一博志〈日本武道館〉山田守〈京都の集合住宅〉妹島和世、〈牧野富太郎記念館〉内藤廣〈国立屋内総合競技場(代々木体育館)〉丹下健三など。


〈荘銀タクト鶴岡〉SANAA


《4. 建築としての工芸》
自然を抽象化する意匠のセンスと高度な匠の技を駆使して、「部分」が説得力ある「全体」を織りなす工芸としての建築が構築されていた日本。そのような工芸性は遺伝子として近現代の建築にも脈々と流れている。

〈日本万国博覧会 東芝IHI館〉黒川紀章〈ブルーノ・タウトの工芸〉〈日生劇場〉村野藤吾〈蟻鱒鳶ル〉岡啓輔など。




千利休の作と伝えられ、現存する日本最古の茶室建築、国宝〈待庵〉を原寸で再現。


ものつくり大学の50名ほどの協力のもと、実測図や文献を紐解きながら、釘一本からすべて手作りし、土壁や小舞、掛込天井など忠実に再現した。


究極のわび空間。
("中には入れない" と報じておりましたが、"入れますが中からの撮影はできない" の誤りでした)




茶室の軒越しに東京の街並み。430年の時空を超えた対比が楽しめる。


《5. 連なる空間》
日本の伝統は、厳密に空間を分け隔てなくても、建築が私たちの暮らしを豊かにすることを世界に示した。実用性が見た目の美しさにもつながる、開かれた空間の理想像は今も日本建築に生き続けている。

〈フクマスベース〉吉村靖孝〈東京国立博物館 法隆寺宝物館〉谷口吉生〈House N〉藤本壮介など。


剣持勇や丹下健三らによるモダニズムの名作家具で構成されたブックラウンジ。
書棚の本は手にとって閲覧可能だ。


丹下健三自邸
1/3スケールで再現した模型


目線を下げて見るとサヴォア邸を彷彿させる要素が見えてくる。


宮大工が忠実に木組みを再現した、超高精細な模型だ。




〈香川県庁舎〉丹下健三
ホンマタカシの写真と新作映像も。


〈Power of Scale〉ライゾマティクス・アーキテクチャー 
3Dで体感する体験型インスタレーション。最新の技術のレーザーファイバーと映像を駆使し、日本建築の空間概念を大小さまざまなスケールで原寸再現している。


ステージに上がればライゾマの作品の中に入って体感することができる。


《6. 開かれた折衷》
明治期に大工棟梁が手掛けた擬洋風建築や、世界的視座で日本建築を模索した伊東忠太の挑戦を紹介。

〈祇園閣〉伊東忠太〈駒沢オリンピック公園 総合運動場 体育館 管制塔〉芦原義信〈宮城県会議事堂〉久米耕造・植田登など。


〈静岡県富士山世界遺産センター〉坂茂


《7. 集まって生きる形》
伝統的集落を実測した調査や雪害に苦しむ農村問題など、建築が社会に向き合った例を紹介。

〈神代雄一郎のデザイン・サーヴェイ〉、〈代官山ヒルサイドテラス〉槇文彦〈恋する豚研究所〉アトリエ・ワンなど




〈52間の縁側〉山崎健太郎〈LT城西〉成瀬・猪熊建築設計事務所

《8. 発見された日本 》
来日したフランク・ロイド・ライトやアントニン・レーモンドから、現在第一線で活躍する建築家まで、国外の建築家が創造的に捉えた日本像を紹介。
「発見された日本」の遺伝子は、海外に建設された日本人建築家の作品にも見出され、これからも未来の日本像を広げていく。



〈旧帝国ホテル・ライト館〉フランク・ロイド・ライト
食堂入口の実物の柱


〈シンドラー自邸〉ルドルフ・シンドラー〈赤星四郎週末別荘〉アントニン・レーモンド台中国家歌劇院〉伊東豊雄〈レス・コルズ・パベヨーンズ〉RCRアルキテクタス〈ルーヴル・ランス〉SANAA〈ダーティー・ハウス〉デイヴィッド・アジャイなど


〈ポカンティコヒルの家(ロックフェラー邸)〉吉村順三

《9. 共生する自然》
外と内との境界を曖昧にすることで自然を取り込むことを特徴としている日本の建築にフォーカス。

〈宮島弥〉〈豊島美術館〉西沢立衛〈後山山荘〉藤井厚二・前田圭介〈名護市庁舎〉像設計集団+アトリエ・モビルなど


〈House & Restaurant〉石上純也 2016年-(建設中)、〈A House for Oiso〉田根剛


小田原文化財団 江之浦測候所〉杉本博司+榊田倫之


〈ラ コリーナ近江八幡 草屋根〉藤森照信


本展企画に携わった倉方俊輔氏。
「9つの章は、9つのコンセプトで、"日本の建築とは○○である"という熟語として当てはめてみることができます。西洋の建築ではなく自国の文化に目を向けられ始めたいま、日本の建築を真っ向から捉えるきっかけになればと思います。またテーマ分け、建築の分類についてはもちろん異論もあるでしょう。しかしそこから議論が生まれてくれるのはとても良い事だと思います。文章では表現できない展覧会だからこそ見える、日本の建築を時系列とは異なる系譜で楽しんで頂けますので是非いらしてください。」


本展を監修した藤森照信氏。
「丹下健三の登場を機に、日本の現代建築は世界の先端に踊り出て今にいたりますが、それが可能になったのは、日本の伝統的建築の遺伝子が、建築家本人の自覚の有無とは別に、大きく関係しています。たとえば、空間の感覚とか柱と壁による木の構造とか、内外の区別とか。そうした伝統と現代の見えざる関係について、代表的建築家の実作を取りあげて明らかにできればと思いました。」


プレス説明会の様子。
登壇者 左から南條史生(森美術館館長)、藤森照信(建築家・建築史家)、倉方俊輔(建築史家)、前田尚武(森美術館建築・デザインプログラムマネジャー)

六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
会期:2018月4日25日(水)~ 9月17日(月)
詳細:www.mori.art.museum/jp/exhibitions/japaninarchitecture/index.html


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