japan-architects.com

17 4月, 2019

納谷建築設計による「武蔵野リノベーションプロジェクト」

納谷学+納谷新+島田明生子(納谷建築設計事務所)による東京 武蔵野市の「武蔵野リノベーションプロジェクト」を見学。企業が所有していた社宅を、分譲マンションとして1棟まるごとリノベーションしたプロジェクトで、事業主はリビタ。建物名は「リノア武蔵野」。
三鷹駅から徒歩15分程の場所。


敷地面積約1,670m2、延床面積約826m2。18住戸からなる集合住宅。
1階接道面にエントランスホールを兼ねたコミュニティスペースを増築したのが最大の特徴で、住人と地域の人が交流できるような場をつくった。

既存では正面に住戸ごとの倉庫があり、この時代の集合住宅に定番のツツジが植わっていた。
(Googleストリートビューより)


階段の丸い意匠を利用して新設した塀に腰掛けを造り付け、街との接触部分とした。


既存ではエントランスだった部分は駐輪場とした。RCのままでは圧迫感があるため境界が曖昧になるようミラー仕上げのステンレス板を張り込んだ。


中は駐輪場の他、右手にトイレやゴミ置き場、機械室を設けた。自転車置き場は正面の反対側にも設けた。


ではエントランスはというと、このコミュニティスペースそのもがエントランスホールとなるのだ。オートロックの自動ドア横には郵便受けや、宅配ボックスも見える。


住人はホールを抜けて、もう一度オートロックのドアを通って居住エリアに進む。
このスペースは「manabino」と名付けられ、漢字をあてるなら「学び野」となり、武蔵や屋上の芝生からイメージされた原などからくるネーミングだ。住人たちはもちろん、地域の人が使える様々な「学びの場」にしていくことを目指す。


棚には本が並び、近所の子どもや親がたちが集まり、イベントなども開催しながら世代を超えたコミュニティを醸成し、通りを活性化しよういう試み。(開放されているときは表側のオートロックは掛からない)
デザインプロデューサー萩原修が代表を務める株式会社シュウヘンカが、リビタに委託されて運営していくという。


構造用のラーチ合板で作られたオリジナルのテーブル。カーブしたものを2台繋げた状態だが、1台だとちょうどホール両側のカーブしたベンチにフィットする。


ホールを抜けたところ。


ホール増築のために植栽を撤去したので、屋根に芝を張り、街に緑を再還元した。色の違う箇所はアゼターフという地方の提携した里山のあぜ道を切り取ってきた自然植生マットで、複数の草花が伸びてくる。manabinoとして、こういった普段とは違う植生をこどもたちに知ってもらうことができる。


階数表示。エレベーターからの距離をfeetやm、尺、間など様々な単位を使ってビジュアル的に表現し、単位の違いがあることを学ぶことができる。


202号室の1住戸のみ、納谷建築設計で内装デザインも手掛け販売される。
床面積は約83m2、3LDK。


玄関を入って右に子ども室を想定した部屋。小上がりを造り付け、ベッド、収納、椅子にもなる。表面はコルクシート張り。


廊下の向かい側は主寝室を想定。同様に小上がりが作り付けられている。モデルルームとして公開されているので家具が設えてある。


LDK。キッチンの位置はそのままで、軽やかなデザインに仕上げた。
この住戸を見て気に入れば、他の住戸も注文すれば同様の内装にすることができるそうだ。


キッチンの反対側は水回り。


リビングと、、、


隣の個室にも造り付け家具が連続している。1階のホールに採用されたカーブをこちらに踏襲したデザインで、住戸の外周をぐるりと囲むようなイメージで。包まれるような一体感をもたらしている。
椅子や収納家具を減らし、高低差が自由な使い方を生みだす装置となっているのだ。


納谷新さんと、担当の島田明生子さん。
「プロジェクトの当初からデザイナーなどソフトを担当する方たちに入ってもらいました。その中でやはり顔となるエントランスを思い切ったものに提案し、人が集まることで活力を生み出そうという方向が見えてくると、プロジェクトは一気に進行し、ハードとソフトが調和した新しいリノベーションの形ができたのではないかと思います。」


【武蔵野リノベーションプロジェクト】
建築設計:納谷学+納谷新+島田明生子/納谷建築設計事務所
事業主:リビタ
統括設計:ベイス
構造設計:アトラス設計
設備設計:環境プランナー
サイン・コピー・コンセプトメイク:POOL、電通デジタル
施工:デザインアーク


*************************
japan-architects.com 
日本の建築家・デザイナーと世界をリンク
Web : www.japan-architects.com
Twitter : @JapanArchitects 

Facebook : japanarchitects

*************************
Reproduction of any of these images and texts without written permission is prohibited. Copyright: japan-architects.com

10 4月, 2019

小堀哲夫による梅光学院大学新校舎「The Learning Station CROSSLIGHT」

小堀哲夫(小堀哲夫建築設計事務所)による下関市の梅光学院大学新校舎「The Learning Station CROSSLIGHT」を見学。下関の主要道路である県道248号線沿いで、下関駅から車で10分程の場所。
今までにない革新的な教育環境を整備すべく2017年のコンペにより採用された。地方都市共通の問題である人口減少が進む下関において、街の新たな中心となるような試みが盛り込まれている。


外観は伝統的なキリスト教系大学の佇まいにこだわらず、「学校」のイメージを払拭することで地域に開かれた新しい大学のシンボルとなるようなデザインとした。


近付いてみると雁行したボリュームと庇が顕著な特徴として明確になる。
県道と運動公園に挟まれた敷地は細長いため、建物はどうしても細長くなる。そこに真っ直ぐの建物を建て、真っ直ぐの動線を通すのは効率は良いが、人同士の交わりは生まれない。そこで建物のボリュームを4つ、45度振り、それらが複雑に絡まることで動線が交わる「交流のグリッド」を構成した。


その45度に振ったボリュームが外観にも現れることで、街に対する表面積が増え、四方八方から校舎にアクセスできるのだ。
敷地境界のフェンスを排し、地域の人が歩道から直接エントリー出来るようアプローチが複数延びているが見える。
ランドケープを担当したのは、古家俊介が代表を務める福岡の デザインネットワーク/DNA


アプローチはテラスに接続し、地域のひとも自由に利用できる。


階段を上がると日曜にはミサが行われるスタジオに入ることもできる。


振り返ると街に大きくせり出したバルコニーになっており、もちろん誰もが自由にくつろぐことができる。
このインテリアが外に飛び出したようなようなデザインで、通常伺い知れない、校舎内で学生が何をしているのかが街に示されることになる。


メインエントランスは東側。45度に振られたボリュームが大きな庇を生みだし人々を向かえ入れるようだ。庇は端部で12mほどせり出している。


学内側のエントランス。右手の校舎は耐震不足によりこの後解体され、公園のような広場が整備される。さらに右手に広がる市営運動公園とも親和性を高め、市に掛け合い運動公園と一体となるようなキャンパスを目指していきたいそうだ。


その際にも接触面積の多い校舎のデザインが活きてくることだろう。


メインエントランスへ。およそ大学校舎の入口には見えないだろうが、それが狙いなのだ。


エントランスから左はカフェレストラン、右はラーニングエリアへ。


校舎内には殆ど仕切りがない。様々な性格・広さのスペースが26作られ、それぞれA、B、C・・・となっているが、Aは「Amen」、Bは「Bread of Life」、Cは「Christ」などとキリスト教に関係するネーミングがされている。


カフェレストランはもちろん一般のひとも利用できる。というより一般の人を呼び込むためにつくられた。夜9時まで営業し、酒類の提供もあるが運営は生協が担当する。書棚には本も並び自由に閲覧できる。
周辺にはほとんど飲食店がないため、近隣の人にとって嬉しい施設だ。


ラーニングエリアへ。今回の新しい取り組みは、ここまでに紹介したエリアはもちろん、ラーニングエリアへも一般の人が自由に入ることができ、講義を聴いたり、様々なスペースで過ごすことができるという非常に公共性の高い校舎にすることだ。


1階は左に前述のカフェレストラン、中央から右が教職員用のフリーアドレスオフィス
2階はスタジオと呼ばれる50〜100人ほどを収容する教室が4つと、後述するアクティブスポットが複数ある。
3階はより細分化されたアクティブスポットが多数レイアウトされている。


要所要所にトップライトを持つ3層の吹き抜けが5ヶ所。横からは軒の深い開口から柔らかな自然光を取り込む。


さらに進むと、既存の大学の概念にはないスペースが連続していく。教職員のフリーアドレスオフィスだが、"教員も" というところがポイントで、個室の研究室を排したので、教員は授業の無いときはこのフリースペースにいる。
在学生はもちろん、近隣の高校生なども教員を捕まえていつでもコミュニケーションを図ることが出来るためだ。
床にはスペースを示すサインが見える。


フリースペースに散りばめられたシェルフは教員一人一人に割り当てられており、その教員がどような本を読み、何に興味があり、どのようなことを研究しているかが分かるようにするもの。研究室のなくなった教員は、ここに厳選した書籍や私物を並べ、自身をプレゼンテーションするのだ。そしてここを訪れた高校生やその父兄は「この先生に教わってみたい。」といった切っ掛けになることを目的としている。
一番手前は樋口紀子学長のシェルフ。
引き出しには鍵が掛かり、例えばパソコンなどの高価なものを収納できる。


このスペースではカフェキッチン付き。教職員のフリーアドレスデスクのひとつ。


こちらは若干囲われたスペース。
職員もフリーアドレスだが、同じ部署同士で固まってはいけないルールがあるそうだ。
なお成績表などの資料を扱う場合や、プライバシーに関わる話ができるような個室もある。


窓際に面したスペース。


そこかしこに人が行き交い、出会いやコミュニケーションが生まれる場の数々。


誰でも利用できるとはいえ、「一般利用者は一応登録をしてIDカード発行して行く必要があるかもしれない。運用しながら改善していけばいい。」と小堀さん。
手前のサークルはワンストップサービスのカウンター。


2階へ上がる大階段。スツールが置かれているということは、、、


見返すとプロジェクターが備わり、アクティブスポットになっている。奥にもアクティブスポットが連続している。
アクティブスポットとは用途に縛られない交流の場。授業はもちろんディスカッション、サークルのミーティング、自習といった多様な活動に利用される。
45度と90度の面が複雑に交わり、1階から3階までが垂直方向に絡まるカットだ。


これらアクティブスポットも、一般に開放される。


アクティブスポットはほぼ全てが連続しており、廊下と呼べる移動経路や、空間を仕切るドアがない。
動線はこのようにアクティブスポットを縦横に縫っていくのだ。


ドア付きの空間で仕切られたスタジオ(教室)は大小4つ。こちらは一番大きなスペースだが、ガラス張りで、上には3階の外部バルコニーから貫通して入ってきた見学ブリッジがあるセミオープンな空間。
そして椅子。毎日異なる椅子に座って学ぶことが出来るというコンセプトで、365種類の椅子がある。


一見普通のスタジオのようだが、開口の外はバルコニーで外部動線に大きく開いている。また吹き抜け越しに向こうのアクティブスポットが覗く。


バルコニー側から見るとこのように。バルコニーは外周を1周はしていなく、「8の字」を描くように、外と内を巡るように計画されている。


アクティブスポットにはプロジェクターを用いたインタラクティブホワイトボード(電子黒板)が備わる。


2人だけのスペースも。日中は殆ど照明を点けず、上部と外周から入る自然光を頼りにする。


水平・垂直に絡まり合う空間は、思いがけないところから思いも寄らないスペースが見えたりする。


広いところばかりでなく、このようなスペースも。


3階はさらに細かなアクティブスポットが縦横にレイアウトされている。


幾つものアクティブスポットが見え隠れしながら連続し、場所場所で様々なディスカッションが行われることになる。
真っ直ぐに比べ、ジグザグの移動には倍の距離が必要であるが出会いの場は数倍になるのがよく分かる。


なぜこのような校舎のデザインなのか。これからの大学の講義は、講義室で先生から学生への一方通行で聞くだけの座学でなく、アクティブラーニングが圧倒的に主流になるという。


アクティブラーニングの具体的な手法はこうだ。学生はサーバーから教材をタブレットへダウンロードし、事前に家や学校のスペースで予習を行う。
そして授業のとき、様々なアクティブスポットに設置されたプロジェクターを用いて、教員や他の学生の前で発表しディスカッションするのだ。
学生はタブレットからクロームキャストを利用して、一度サーバーを介してプロジェクターに投影する。

そのために壁の至るところがホワイトボードやアクティブホワイトボードになっており、同じスポットでも複数のプロジェクターがありグループワークを行うことができる。
それら授業の様子を近隣の高校生や一般の人は自由に見学できるし、空いているスポットで寛いだり自習をすることができる。


スポットの広さは親密な距離感、ソーシャルスペースを意識したという。半径3.6mまでの空間が人と話しやすい、話題を共有しやすいメンバーシップが生まれることが研究で分かっているそうだ。
アクティブラーニング自体は珍しくないが、広いフルオープンの空間で幾つもの授業をするケースがほとんど。ここではジグザクにすることで角が沢山でき、小さなセミオープン空間を作ることが出来ている。

デザイナーチェアを揃え、オリジナルの家具制作はインターオフィスが担当した。
床にあるのは「リンゴ箱」と呼び、机やスツール、収納にもなる汎用性の高い家具も作った。


ときには籠もった場所で過ごしたいこともあるだろう。


ときには他の授業のディスカッションを上から眺めてみたいこともあるだろう。

小堀哲夫さん。座っているのは今回オリジナルで一脚のみ制作した45度の角度で座る椅子で、学校へのプレゼント。コンクリートと木の塊でできているので非常に重く、唯一容易に動かすことはできない椅子だ。
「ここは建築から、スペースから新しい使い方を想起して欲しい『ダイナミックモデル』と呼んでいます。教育と空間は互いに影響し合うものです。場があるからこういう授業をしよう、こういう教え方をしよう、逆にこういう授業をしたいからこういう場が欲しいと、使われながら進化していく建築になっていって欲しいと思います。」

梅光学院大学【The Learning Station CROSSLIGHT】
建築設計:小堀哲夫建築設計事務所
構造・設備設計:Arup
ランドスケープ:DNA
サイン:Arata Takemoto Design
家具:インターオフィス
施工:清水建設


*************************
japan-architects.com 
日本の建築家・デザイナーと世界をリンク
Web : www.japan-architects.com
Twitter : @JapanArchitects 

Facebook : japanarchitects

*************************
Reproduction of any of these images and texts without written permission is prohibited. Copyright: japan-architects.com