翌19日からは、初台にある東京オペラシティアートギャラリーでも同名の個展を連携して開催(副題のみ異なりオペラシティは "Digging & Building")、という今までにない企画だ。テーマを共通としながら、氏の密度の高いこれまでの活動と、"建築は記憶を通じていかに未来をつくりうるか" という挑戦を、ふたつの会場で紹介するが、それぞれの会場で見せ方は大きく異なる。
[Tsuyoshi Tane | Archaeology of the Future ― Search & Research]
会場を入って左手の壁にはいつも展覧会概要が記されているが、今回は田根さんのマニフェストが記され、田根さんがそのマニフェストにサインをする事で、内覧会開始直前に会場設営が完了した。
–マニフェスト–
「まだ誰も見たことのない、経験したこともない、想像すらしたことのない、そんな建築をつくりたいと思っています。でもそれは奇抜な未来型の建築とは違う、場所の記憶からはじまる建築、そんな途方もないことを考えています。
私はいつも考古学者のように遠い時間を遡り、場所の記憶を掘り起こすことからはじめます。そこでは今日の世界から忘れ去られ、失われ、消えてしまったものに遭遇し、それらを発見する驚きと喜びがあります・・・
・・・Search & Researchは、アイデアの発掘と収集からはじまる思考と考察の展示となります。各プロジェクトごとに行われた考古学的リサーチは、思考の痕跡が残るように集められているのです。建築は記憶を継承し、この時代を動かし、未来のその先の記憶となります。まだ誰も見たことのない未来の記憶をつくること、建築にはそれが可能だと信じています。
いま私は、記憶は過去のもではなく、未来を生みだす原動力だと考えはじめました。場所の記憶からつくる建築は未来の記憶となる。それを『Archaeology of the Future』と呼んでいます。」
上記マニフェストにあるように本展では、21の作品が特注のラックごとに、そのリサーチや思考の痕跡が並んでいる博物館のような展示だ。
それぞれの作品脇の壁には思考の源泉であるイメージ写真や、絵画、スケッチなどで埋め尽くされる。
壁の隙間には所々田根さん手描きのメモが記されているのでチェックしていただきたい。
一見雑然と見える会場だが、一つ一つのラックを見ると実は整然と並べられており、正に博物館の展示物をじっくり観賞できるような設えとなっている。模型やサンプルの数は600点にのぼる。
ラックはそのまま中庭まで展示される。中と外の展示物で特に差をつけているわけではなく、フラットに観賞できるが、模型などは風雨除けのアクリルケースに入る。
屋内と同様の展示スタイルだが屋外では開放的で違った見え方がする。
中庭の奥にはシェルフのような箱が並ぶ。今回の展示物をフランスから運ぶために作られたコンテナだ。
こちらも博物館のバックヤードなどにある資料のストックケースのようだ。一部の段に展示されなかったものが納まっている。
これらのコンテナは展示予定ではなかったが、ギャラ間からの要望で急遽展示物となった。
4階展示室は暗幕が掛かり、靴を脱いで入場する。右下に見えるのは下足入れ。
進むと四面をスクリーンに囲まれ、光沢のある床に設えられた空間が広がる。
22の作品が美しい映像や写真で次々に映し出され、田根さんの世界観に没入できる。
個々の展示作品を一部紹介。
〈エストニア国立博物館〉 2016
3人組の建築ユニット、ドレル・ゴットメ・田根(DGT.)として国際コンペに勝利し、一躍注目されることとなった。
イメージ模型や、プログラムの構成模型。
周囲のランドスケープ。
旧ソ連軍の軍用滑走路跡地を利用して、場所の記憶を未来へ繋げる。
このプロジェクトに10年に渡って関わる間に、過去や記憶を掘り起こし、それを建築によって未来に繋げる事が可能なのだと確信したという。
〈弘前市芸術文化施設(仮称)〉 進行中
こちらもコンペにより獲得したプロジェクトで、明治時代に建てられたレンガ倉庫を改修した現代アートの美術館。2020年の完成を目指している。
〈千總本社ビル〉 進行中
京友禅の老舗を、ヨーロッパのバロック様式の多様性をヒントに改修するプロジェクト。
友禅のみならず、和サロン、ものづくり、ギャラリーなど、日本文化の伝統と未来を担うプロジェクト。
〈新国立競技場案 古墳スタジアム〉 2012コンペ最終選考案
DGT. と田根さんの名前が国内で認知される切っ掛けになったプロジェクト。
今でも負けたことが悔しいそうだ。
オペラシティの展示会場ではスタジアムの1/100模型が展示される。
「負け惜しみに聞こえますが、この案の良さがオペラシティの巨大模型で分かっていただけると思う。東京オリンピックまで2年のこの機会に、もう一度皆さんに見て頂きたかった。」と田根さん。
〈Todoroki House in Valley〉 2018
世田谷区の等々力渓谷近くに今年できたばかりの住宅。
敷地環境より展開していったイメージ模型。
高低差のある敷地のイメージを植生や住環境にも発展させ、地面近くのウェットと、上空の谷から吹き上げるドライな風を享受できる建築とした。
左は施主が作ったテラリウムで、それぞれウェットな環境とドライな環境を小さなビンの中に閉じ込めたもの。
〈フォンテーヌブロー 週末住宅〉 進行中
パリ近郊で進行中のプロジェクト。森に岩が混在する自然豊かな敷地で、建築が自然の中に建つことと、建築が自然になることを模索した。
国立公園の中に位置し、役所の審査に1年を要したという。
〈LIGHT is TIME, Citizen in Milano Salone〉 2014
初出展のミラノサローネに於いて、Best Entertaining賞とBest Sound賞の2冠を獲得。その後、南青山のスパイラルで凱旋展を開催し大きな反響を得た。
12月7日から同じくスパイラルで、シチズン時計創業100周年記念のイベント「CITIZEN “We Celebrate Time」で新作を発表する。ギャラ間、オペラシティ、スパイラルと3会場同時に展覧会が開催されることとなる。
〈とらやパリ店〉 2015
既存店を改修したインテリアデザインを担当。建築設計のみならず、小さなインテリアデザインでもその設計プロセスは変わらない。その土地(フランス)のものを使い和の空間を作った。
〈クキオのヴィラ〉 2017 コンペ案
ハワイ島の溶岩大地につくる住宅。古墳スタジアムを彷彿とさせるプロジェクトだが残念ながら実現には至っていない。
本展に合わせてTOTO出版より刊行された田根剛初の作品集「TSUYOSHI TANE Archaeology of the Future」と、瀧口範子によるインタビューが収録された「田根剛 アーキオロジーからアーキテクチャーへ」はパリの事務所の様子も。
作品集は、マニフェスト、コンセプト、イメージ、ドローイング、タイムラインの5つの章からなる。
じっくりと眺めながら、田根さんの設計の奥深さを感じ取ることができる、田根さん渾身の1冊だ。
田根剛さん。「はじめオペラシティからオファーを頂いており、数週間後ギャラ間からもオファーを頂きました。それではと思い切って同じタイトルで連携したかたちで実現しようと思いました。実際始まるとそれは本当に大変な作業でした。二つの会場の性格や規模などを考えながら限られた作品数の中で、見せるもの、見せ方のバランス考え、かつ一方だけを観ていただいても完結する必要もありしました。ギャラ間では渾然一体とした中で、パラレルにそして相互的にコンセプチュアルな模型群を見て頂き、皆さんが自由に感じ取っていただければと思います。」
【田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Search & Research】
会期:2018年10月18日~12月23日
会場:TOTOギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル)
詳細:https://jp.toto.com/gallerma/ex181018/index.htm
連携企画
【田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Digging & Building】
会期:2018年10月19日〜12月24
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(東京都新宿区西新宿3-20-2)
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