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14 7月, 2018

「イサム・ノグチ ー 彫刻から身体・庭へ」展レポート

7月14日より東京オペラシティ アートギャラリーで開催の展覧会「イサム・ノグチ ー 彫刻から身体・庭へ」の内覧会に行ってきました。

彫刻、陶芸、庭、ランドスケープ・デザインなど領域横断的な活動をした20世紀を代表する芸術家イサム・ノグチ(1904~1988)の、国内では12年ぶりとなる回顧展。大分県立美術館を皮切りに巡回スタートした本展は、香川県立ミュージアムを経て、今回東京での開催が最後となる。


本展は、イサム・ノグチが抽象彫刻の分野にあっても常に「身体」を意識し続けたことや、そうした意識が、子供のための遊具デザインやランドスケープといった人間をとりまく環境へ向かい、空間の彫刻=庭園への情熱に拡大していったことに着目し、その活動の全容に迫るというもの。模型・資料・動画、石の彫刻まで海外・国内の約80点を展示する。


開会の挨拶をする和泉正敏氏。彫刻家で財団法人イサム・ノグチ日本財団理事長の和泉氏は、出会いから亡くなるまで25年間、イサム・ノグチの片腕となり石彫制作のパートナーとして寝食をともにしながら制作に協力した人物。「ノグチが生きていたら、この場で皆さん一人一人と挨拶していたと思います。こちらの会場では、学芸員による石彫の配置のセンスに感心しました。」

会場は、「身体との対話」、「日本との再会」、「空間の彫刻 ─ 庭へ」、「自然との交感 ─ 石の彫刻」と4つの章で構成されている。

《第1章 身体との対話》
この章では、身体性への問いかけがイサム・ノグチの制作において重要であったことを、彫刻やドローイング、舞台美術など、主に初期の作品を通して紹介している。

20代半ばに滞在した北京の人々を毛筆と墨で描いた「北京ドローイング」と呼ばれる一連の素描。イサム・ノグチの芸術の出発点と言われているこれら8点の作品は国内初展示。


〈北京ドローイング(横たわる男)〉1930年 イサム・ノグチ庭園美術館/ニューヨーク)


イサム・ノグチの身体というテーマは、1930年代から手掛けた舞台装置の制作において一層顕著に表れる。舞踏家マーサ・グラハムとの協同作業は30年以上続いた。彫刻、ドローイング、映像など。


マーサ・グラハムの舞台「ヘロディアド」のための舞台装置 1944年

《第2章 日本との再会》
イサム・ノグチは、1950年に19年ぶりの来日を果たした。日本の暮らしや伝統、歴史や社会と向き合いながら、 建築家の丹下健三、谷口吉郎、デザイナーの剣持勇ら多くの芸術家たちと親交を深めながら、広島の橋(欄干)や原爆慰霊碑、慶應義塾大学の新萬來舎のデザインなど、様々なプロジェクトにも参画した。

陶作品。"陶器による彫刻”ととらえ、日本の自然や伝統文化の中から抽出したフォルムを、現代的でユニークな形へとと蘇らせた。


〈柱壺〉 1952年 イサム・ノグチ庭園美術館/ニューヨーク
日本の古墳時代につくられた土管状の円筒塙輪からイメージを得ている。 


〈かぶと〉 1952年 草月会(千葉市美術館に寄託)


萬來舎の内観写真(1950-51年 現存せず 撮影:平山忠治)と、萬來舎のためのコーヒーテーブルと4脚のスツール(1951年 慶応義塾大学)

来日早々、建築家の谷口吉郎と協力して手掛けた慶応義塾大学の萬來舎は、建築、インテリア、工芸、彫刻、庭を含む総合的造形空間。


〈萬來舎 1/50模型〉
慶応義塾で長く教えた亡き父、詩人・野口米次郎の記念室であるとともに、多くの戦没学生を慰霊するモニュメントでもあったという。


〈慶応義塾大学 第二研究室 設計案 配置図と平面図〉
庭園室内設計:イサム・ノグチ
建築設計:谷口吉郎 


〈広島の原爆慰霊碑の習作模型〉イサム・ノグチ庭園美術館/ニューヨーク
丹下健三と広島市長の依頼で制作したが不採択となった幻の案。


〈2mのあかり〉


〈AKARI〉1953年頃〜 香川県立ミュージアム

《第3章 空間の彫刻 ─ 庭へ》
最晩年に至るまで長く手掛けられた庭や公園、ランドスケープなど、大地を素材とする「彫刻」作品を紹介。 庭の仕事は「彫刻」を「大地」に結びつける試みであり、 同時にそれは、重力によって大地に縛りつけられた人間の「身体」と向き合うことでもあった。

環境的作品は、日本の禅の庭、そして世界中を訪ねて出会った石の遺跡など、古今東西の文化にインスピレーションを受けて生まれている。




〈チェイス・マンハッタン銀行プラザの沈床園のための模型〉
1960-63年頃 イサム・ノグチ庭園美術館/ニューヨーク

「大人が子どものような想像力を持ったとすれば、世界は一変して全く新しい体験として目に映るに違いない」と語ったイサム・ノグチ。1940年頃から手掛けるようになったこれら遊具やプレイ・スカルプチャーにその思いは遺憾なく発揮されている。


〈オクテトラの模型〉1968 イサム・ノグチ庭園美術館/ニューヨーク
八面体に球体状のヴォイド(空虚)を穿った遊具、プレイ・スカルプチャー。この幾何学性には、親友だった発明家・思想家バックミンスター・フラーからの影響がうかがえるという。


〈デトロイト、フィリップ・A・ハート・プラザのホラス・E・ダッジ・ファウンテンの模型〉1972年-79年頃 イサム・ノグチ庭園美術館/ニューヨーク


〈スライド・マントラの模型〉
1966-88年頃 イサム・ノグチ庭園美術館/ニューヨーク(イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) 
螺旋形の滑り台。構想から20年以上を経て大理石で制作された。 

《第4章 自然との交感 ─ 石の彫刻》
後半生を代表するのは、大理石よりも硬い玄武岩、花崗岩などによる峻厳な石の彫刻。


〈無題〉1987年 インド産花崗岩
イサム・ノグチ庭園美術館/ニューヨーク(イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) 

〈イサム・ノグチ年譜〉
最後の展示室では、イサム・ノグチがどのような人生を送ってきたかを写真と共に振り返る資料が壁一面に。興味深い出来事の数々に、実際の作品群にも増して多くの人が足を止め真剣に見入っていた。

【イサム・ノグチ ─ 彫刻から身体・庭へ】
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
会期:2018年7月14日(土)~9月24日(月)
詳細:https://www.operacity.jp/ag/exh211/


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山中祐一郎 × 木のいえ一番協会 によるCLT実験住宅「CLTHUT」

山中祐一郎(S.O.Y.建築環境研究所) × 木のいえ一番協会 による「CLTHUT」を見学してきました。
ご存じの方も多いと思うが、CLTはCross Laminated Timber(直交集成板)の略で、ひき板を繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。厚みのある大きな板で、建築の構造材、土木用材、家具などにも使用されている。その利用は欧米で急速に伸びており、特にPCa材のような施工性の良さや構造体としての特性をいかして、中層建築や商業建築などに多く用いられている。


今回山中湖畔に完成したのは、国土交通省「平成28年度サステナブル建築物等先導事業」の補助を得て、CLT低層住宅における技術開発を目的とした実験棟を建設するプロジェクト。今後は小規模・現し設計に適した設計手法・接合部の開発、コストダウン開発、経年変化の検証、温熱環境測定などの技術的な開発を実施すると同時に、体験宿泊など木のいえの暮らし方についての研究にも役立ていくものだ。


つまりCLTによる、戸建て住宅の普及を目指し技術検証を行う実験住宅ということだ。
構造設計と技術協力はエヌ・シー・エヌが担当。


延床面積48m2の実験棟「CLTHUT」。内も外も断熱材は使用せず、外壁も見えている梁・軒天もCLT現しのままで、塗装のみ施されている。


玄関扉。冬の寒さが厳しい山中湖なので、断熱性を高めるため、壁面と同じ15cm厚のCLTパネルから削り出して製作した。


室内も全てCLT現しの空間。仕上げはなく、ログハウスとは全く異なる木質空間。
トップライトから光が差し込む2階と、その下に水回り。奥にキッチンが設えてある。


室内の壁・天井、床、軒裏、外壁を塗り分けた。
3m程張り出したデッキの縁側に、1.2mの庇を出し、内外が気持ちよく連続する。


構造は15cmのCLTパネル構造。井桁状に組まれた4枚の躯体が、そのまま梁になって外へ飛び出したような格好で、庇を支えている。


L字型の二面開口は、木製サッシュがCLTの壁にアウトセットされているので完全に開け放つことができる。


ナイフで切り取られたような不思議な開口。


ルーターを使って角に内Rをつけた意匠が可能。
材の接合部はエヌ・シー・エヌが開発した金具をドリフトピンで接合。見えてくるのはピンの頭だけだ。


小窓もルーターによる切削(サッシュをアウトセット)。


階段も。CLTの塊に垂直方向と、45度方向の二方向からルーターで削り出して作ることができる。


裏側もユニークだ。右手のキッチンもCLTの一枚板をくり抜いて作られている。


浴室はさすがに下半分をFRPで防水されている。


2階は、21cm厚のCLTパネルの床がそのまま構造となり、水平力を担保している。
宿泊体験をしながら実証実験をしていくことができるように、2階を寝室スペースとして使用する。
(筆者も宿泊体験をする予定なのでその際のレポートもアップします)


山中祐一郎さん。「CLTを徹底的に使って設計してみました。今までこういった低層の建築ではそのメリットが活かせませんでしたが、単純な構成で高強度、高精度、しかもログハウスと同等の断熱性も期待できるので、仕上げや被覆なしで住空間を作るのに向いていると思います。課題である耐久(耐候)性も庇とセットにすれば克服できるはずですし、軸組のように見えなくなる部分もなく、自分で手入れできることから経年と共に愛着も湧く住宅が作れそうです。」

【CLTHUT】
事業者:木のいえ一番協会
意匠設計:山中祐一郎/S.O.Y.建築環境研究所
構造設計・技術協力:エヌ・シー・エヌ
CLT製造・加工:銘建工業
施工:ビ・ボーン
協力:アールシーコア、日本CLT協会


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10 7月, 2018

永山祐子の自邸「杉並のいえ」

永山祐子(永山祐子建築設計)の杉並区の自邸「杉並のいえ」を見学してきました。
1974年竣工の8階建てマンションの最上階、メゾネットになった一室をリノベーションした(2層で188m2)。


光量を落とした玄関を抜けると、むき出しの荒々しい梁と、モルタルで滑らかに仕上げられた柱・壁、そこにアッシュ材の床とシナ合板の建具で設えられたギャラリースペースが現れる。はつられた梁はそのままではなく、特殊塗装をし、コンクリートの剥がれを抑え、周囲と色を馴染ませてある。


廊下には川久保ジョイのアートが掛かる。ギャラリースペースは、その非日常な場所として昔の記憶を持ったままの場所とした。
左の壁の裏はオフィス。


オフィスは将来的な永山事務所のアネックスを想定されているが、まだ稼働していない。
オフィスでは、はつられた躯体も白で塗装した。床はラーチ合板にエポキシのクリア塗装。


部屋を出ようとしたところで気付いた、一手間かけた扉の手がかりは内側にステンレス板が貼られアクセントとなっている。


上階へ。階段室を見上げるとさらに川久保ジョイの作品。3枚セットの2枚がこちらに掛かる。


上階は125m2、二面に大きく開口したLDK。こちらでは梁もモルタル、天井は木毛セメント板で仕上げた。
階段室は合わせガラスで間仕切り、引戸で開閉。


既存はオフィス利用で、いくつかの部屋に分割されていたが、雑壁を取り払いワンルーム空間とした。ダイニングテーブルはオリジナル。


中央に陣取るのはSANCALのソファ。


ダイニングの脇には藤元明のアートが掛かる。奥はキッチン。キッチンはなかったので一から作った。システムキッチンはLIXILを導入。


照明は左に調光式のアッパーライトで間接照明に。ダイニングのペンダントライトはGERVASONIの「BRASS95」。スライドレールに付くのは青色発光ダイオードでノーベル賞を受賞した中村修二らが開発した「SORAA」の紫LED。ほかキッチンでは埋め込みのダウンライトが付く。


反対側。可動間仕切りの左奥が寝室。右奥はウォークインクローゼット。その右側が水回り。


西向きに横連の開口と、造り付けのデスク。下にはmore treesのスツール。


デスクはリビングから寝室まで約10m。家族皆が自由に使うデスクで、裏にコンセントが多数備わっている。


床置きのエアコンには、永山さんらしい編み込みのワイヤーチェーンでカバーが掛けられている。冬場は床暖房を利用(ガスと電気のハイブリッド式)。


西側の幹線道路の騒音と、西日を遮るのはAGBが新開発したブラインド内蔵トリプルガラス「スラティア」。外側の空気層内をブラインドが上下する。操作は据え付けのタッチパネルのほかスマホ(Wi-fi)でも可能で、各面の下げ具合や透過具合も個別に調整出来る。内側の2枚はLow-Eガラスで、断熱性能も非常に高い。
通常集合住宅ではサッシュは共用部であるため独自の交換はできないが、管理組合と交渉し、クレーンを使って付け替えたという。


寝室とWICを閉じた状態。シナの木目を丁寧に選んでヘリンボーン張りに。


寝室。今は家族4人で川の字で休んでいるが、将来は子ども室とする予定で、長机はそのまま学習机になる。


可動仕切りは普段はオープンにしているため、ウォークインクローゼットは収納に引戸がつく。キッチン以外に収納はこのコーナーに集約されている格好だ。


水回り。浴室は珍しいガラス引戸で、ジョー・プリンスの戸車で吊られてる。浴槽奥の間接照明が効いている。前述のようにオフィスだったため、この水回りも一から作った。


トイレ。こちらの照明も凝っている。


引戸の端、手掛かりは透明アクリルで設え、使用中の明かりが透過する。




LDKの端は特注スチールサッシュの大開口で、ルーフバルコニーの植栽が入り込むようなデザイン。


ルーフバルコニーは93m2、全面デッキ張り。植栽は荻野寿也景観設計が手掛けた。人工土壌に実の生る植物を多く植え、子どもたちが楽しめるようにしながら、キッチンの近くにはハーブを植え、直ぐ料理に使えるようにした。


自邸ならではの、自己責任ディテールだ。


ぴたっと全てが納まっている。それをリノベーションで実現。


永山祐子さん。「家族の気配が常に感じられるように生活の場を、寝室含めてワンルームとしました。既存の太い2本の独立柱を起点に、寝室、リビング+ダイニング、キッチンの各ゾーンが緩やかに分けられています。マンションだと子どもが走り回るのは気を使いますが、ここでは下階も自室なので戸建てのような気楽さがあり、そして "庭" を持つことができたのが何よりも良かったです。」

【杉並のいえ】
・設計監理:永山祐子建築設計/永山祐子、山岸大助(元所員)
・施  工:濱田崇裕、大迫未来雄


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