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21 8月, 2019

廣部剛司による伊豆高原の別荘「PHASE DANCE」

廣部剛司(廣部剛司建築研究所)による静岡県伊東市の別荘「PHASE DANCE」を見学。
敷地は雑木林を抱える傾斜地で、1970年代に別荘地として開発されたが今まで建物が建ったことはなかったそうだ。


敷地面積1,124m2、建築面積122m2、延床面積205m2。RC造+木造、2階建て。
敷地は広いものの、傾斜地で、且つ接道から10mのセットバック、隣地境界から2mのセットバックなどが求められ、建築可能なエリアは限られている。


計画前は鬱蒼と草木に覆われており、大きな木もある程度伐採する必要があったが、敷地を訪れた廣部さんは、どうも気になるヒメシャラの木が1本あったという。


建築可能エリアのほぼ中心に屹立するこのヒメシャラを何とか残す方法を考えていくうちに、ご覧のような木を取り囲むような計画となった。
この木を屋内からどこにいても愛でることができるのだ。


三日月型のボリュームに多面体の複雑な屋根を持ちながら、ヒメシャラを取り囲む様子がよく分かる。


玄関は傾斜地のため半階上がったところにある。床下はオーバーハングしハンチ梁で支持。空いた床下空間にエアコンなどの設備を設置。
1階の外壁は廣部さんが多用する櫛引仕上げ外断熱。


玄関から一歩入ると、陰影のあるしっとりとした光と空気に包まれた空間が現れる。
右奥から寝室、ラウンジ、左奥に向かってキッチン、ダイニング、リビング、テラスへと回り込みながら、シーンを変えていく。


床は大判のタイル。壁や天井は浮造焼き杉板・コンパネ・ラーチと材を変えた型枠を用いてコンクリートを打設し、非常に豊かな表情を見せている。


寝室は吹き抜けになっていた。木部も様々な材が多彩な表情を生んでいる。引戸で間仕切ができる。


ラウンジと呼ぶスペース。読書好きの施主は、読書が出来る様々なスペースを望んだ。


左の椅子はコルビュジエのいとこであるピエール・ジャンヌレがチャンディーガルのプロジェクトの際デザインした "ライティングチェア" のオリジナルで、50年代製のヴィンテージ。


ラウンジの奥には浴室が配される。


浴槽に浸かりながらも森の緑が眺められる。


キッチンからダイニング、リビングと続く。


ダイニングからリビングにかけて施主の好きな家具が並ぶ。ザ・チェアやUSMのキャビネット、TRUCKのテーブルやソファ。


ダイニングから上の2階床スラブはキャンティレバー化され吹き抜けとなる。椅子やソファに腰を下ろしたとき森が大きく切り取られて眺めることができるのだ。


リビング上部ではスラブは円弧状に切り取られることで、、、


テラスに向かって段階的に開放しつつ、回り込む空間をより強調しているように見える。
リビングは奥でスキップし、床下には収納を設けた。
この逆R部、かなり小さなRだが杉板を横張りで型枠が作られていることに注目。


1階の終点であるテラス。


ワンルームで、なんと多彩な居場所があっただろうか。シーン毎に開口の大きさを変え、絶妙に雰囲気を変えてきた1階。2階は大きく連続した開口がみえる。


2階は片側にシェルフがずらりと作り付けられている。


2階の中央から。建物はシンメトリーではない。折れ曲がった面の幅や角度が異っているのは、1階で必要とされた場の広さに対応したためで、幅・角度は結果として現れたものだ。また屋根の高さも一律で変化していないため、梁や垂木は複雑な形状変化に合わせた組み方になっている。


吹き抜け部のスラブに座るとこのような光景。


2階にもジャンヌレのイージーアームチェア(オリジナル)と、TRUCKのソファ。
1階とは違い木造で大開口なので異なる雰囲気が楽しめる。


1階寝室(右下)から屋根が立ち上がり、テラスに向かって回り込みながら消失していく様子がよく分かる。
天井は野地板が黒く塗装されている。窓辺にアップライトが据えてあるので、夜には照明によって架構のみが浮かび上がってくるだろう。


廣部剛司さん。「PHASE DANCE(フェイズダンス)」というタイトルは、様々なフェイズ(局面・様相)において、それぞれどのように対応していくのかと考え続けていた行為がダンスのようだと感じたこと、全体が三日月のような形態をしていることからMoon Phaseを連想させること、そしてギタリスト、パット・メセニーの同名曲の持つ透明感とスピード感にインスパイアされています。」


【PHASE DANCE】
設計・監理:廣部剛司建築研究所
構造設計:TS構造設計(RC造部)、シェルター(木造部)
施工:大同工業


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13 8月, 2019

前田圭介による浅草の旅館「茶室ryokan asakusa」

前田圭介(UID)による浅草の旅館「茶室ryokan asakusa」を訪問。
主にインバウンドをターゲットにした旅館で、浅草駅から徒歩8分程の場所に位置する。


敷地面積85m2、建築面積56m2、延床面積336m2。S造、6階建て。9m2〜23m2の全11室からなる。


浅草寺の裏手に位置し、本殿までは歩いて3分程。下町の雰囲気が色濃く残り、周囲には飲食店や宿泊施設が点在するエリア。


下から見上げると、グレーチングを張ったバルコニーが覗く。庇と裳階(もこし)が連続する日本の伝統建築をイメージした。このような帯状の外壁は前田さんの建築でしばしば採用されている。


エントランスは荻野寿也が手掛けた庭。旅行客や通りを行く人を出迎えるようだ。脇には縁側のようなベンチが設えてあり、ちょっと座っていきたくなる雰囲気。


苔むした石がわざわざ大阪から運び込まれ、できてから既に何年も経過しているかのような庭だ。


ロビーは食堂にもなっている。外国からの宿泊客に和食を中心とした朝食を楽しんでもらう。囲みのオープンカウンターで、客同士のコミュニケーションも生みやすくしている。
この日は神職による祝詞が上げられる神事が行われた。


かなりタイトな間口だが、庭を介して通りへ連続させることで出来るだけ開放感を持たせている。
右側は2mの避難経路で、上部に防火シャッターが見える。この間口でロビー、食堂、避難経路を満たすのは容易ではなかったという。


ロビーから奥に進んで玄関。下足を脱ぎたらいで足を洗いを洗ってもらい、足袋に履き替える。昔の旅籠(はたご)での習慣を導入し、日本の伝統を体験してもらう。


廊下へ上がると床は畳。


エレベーターの床も畳だ。壁は銀箔風ダイノックフィルム、天井の照明は一つだけ点け、カバーには和紙まで貼り、ほの暗い日本の旅館を細かく演出。

客室階の廊下はサイザル麻に変わる。玉砂利、土壁、竹、和紙。にじり口の如く低い出入り口、抑えた天高は独特だ。


廊下の突き当たりには床と一輪挿し。


テーマは茶室。客室は9m2〜23m2まであり、トイレ・浴室なし、トイレ・シャワールーム付き、露天風呂付きまで様々なタイプを用意し、旅人のスタイルに対応する。
敷き布団は全室テンピュール。この客室ではヴェルナー・パントンによるTatami Chairが置かれている。


この一番広いスイートでは二間の続き部屋と簾(すだれ)の仕切り。さらに風呂先屏風、なぐりの框、唐紙や土壁、網代天井などの伝統的な仕上げ、雪見障子、掛け障子、欄間などの開口と、日本建築・茶室を想起させる設えが徹底的に施されている。
出入り口はにじり口の高さでは低すぎるので、茶室の給仕口をベースにした高さとした。


床面積が非常にタイトなため、限られたスペースでの水回りの使い勝手を検討するのは苦労したという。この客室の水回りはオーナーの自宅に実物大のモックアップ、というより、実動する同じものを施工して検討したそうだ。


ミニマルな客室は正に茶室サイズ。その中でも床の間や床柱、書院を模した洗面台などをしっかり設えた。雪見障子からは枯山水まで眺められる。
照明は客室でも出来るだけ抑えられており、右下の障子越しと、右奥の小さな障子からロウソクのようなささやかな灯りになる。(左上にあるスポットは清掃作業時のみ点灯する)
天高も2.1mとかなり低く、寝室は実質3.5畳程。このサイズの客室もオーナーのオフィスに実物大モックアップを作り、サイズや仕上げを入念に検討した。


障子を開けるとバルコニーが現れる。非日常と日常と、内と外の中間領域をこの奥行きでつくり出している。


11m2の少し広い客室。


統一されたイメージの中で、少しずつ仕上げが異なる。
畳は通常よりかなり小さく、襖や押入も低い。


こちらにはトイレ・シャワールームが備わる。


6階最上階には、露天風呂付きスイート、共用のシャワールーム、予約制の貸し切り露天風呂がある。


貸し切り露天風呂は十和田石の浴槽。3方に開き、スカイツリーを望む。


露天風呂付きスイート。


寝室は広くはないが、シャワールームと露天風呂が付く。


これらの植栽も荻野寿也によるものだ。






ブランディングやグラフィックデザインは北川一成のGRAPHが担当し、その旅館のマークをあしらった浴衣を着る前田圭介さん。「3年以上かけて宿泊施設の種類やコンセプトなどからじっくり検討を進めてきました。その中で浅草ということからも、外国の方々に日本の伝統的な作法や、佇まい、空間などはもちろん、人と人の距離感、サイズ感を感じて貰えることを大事にした、現代的で伝統的なスタイルの旅館を目指しました。」

【茶室ryokan asakusa】
設計・監理:前田圭介/UID
ブランディング(VIデザイン、アートディレクション): GRAPH/北川一成
内装プロデュース: kaland/川村裕文
造園・ランドスケープ: 荻野寿也景観設計
照明デザイン: ぼんぼり光環境計画/角館まさひで
施工:慶成建設
企画開発及び経営主体: レッドテック
運営主体: レッドテック


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