主にインバウンドをターゲットにした旅館で、浅草駅から徒歩8分程の場所に位置する。
敷地面積85m2、建築面積56m2、延床面積336m2。S造、6階建て。9m2〜23m2の全11室からなる。
浅草寺の裏手に位置し、本殿までは歩いて3分程。下町の雰囲気が色濃く残り、周囲には飲食店や宿泊施設が点在するエリア。
下から見上げると、グレーチングを張ったバルコニーが覗く。庇と裳階(もこし)が連続する日本の伝統建築をイメージした。このような帯状の外壁は前田さんの建築でしばしば採用されている。
エントランスは荻野寿也が手掛けた庭。旅行客や通りを行く人を出迎えるようだ。脇には縁側のようなベンチが設えてあり、ちょっと座っていきたくなる雰囲気。
苔むした石がわざわざ大阪から運び込まれ、できてから既に何年も経過しているかのような庭だ。
ロビーは食堂にもなっている。外国からの宿泊客に和食を中心とした朝食を楽しんでもらう。囲みのオープンカウンターで、客同士のコミュニケーションも生みやすくしている。
この日は神職による祝詞が上げられる神事が行われた。
かなりタイトな間口だが、庭を介して通りへ連続させることで出来るだけ開放感を持たせている。
右側は2mの避難経路で、上部に防火シャッターが見える。この間口でロビー、食堂、避難経路を満たすのは容易ではなかったという。
ロビーから奥に進んで玄関。下足を脱ぎたらいで足を洗いを洗ってもらい、足袋に履き替える。昔の旅籠(はたご)での習慣を導入し、日本の伝統を体験してもらう。
客室階の廊下はサイザル麻に変わる。玉砂利、土壁、竹、和紙。にじり口の如く低い出入り口、抑えた天高は独特だ。
廊下の突き当たりには床と一輪挿し。
テーマは茶室。客室は9m2〜23m2まであり、トイレ・浴室なし、トイレ・シャワールーム付き、露天風呂付きまで様々なタイプを用意し、旅人のスタイルに対応する。
敷き布団は全室テンピュール。この客室ではヴェルナー・パントンによるTatami Chairが置かれている。
この一番広いスイートでは二間の続き部屋と簾(すだれ)の仕切り。さらに風呂先屏風、なぐりの框、唐紙や土壁、網代天井などの伝統的な仕上げ、雪見障子、掛け障子、欄間などの開口と、日本建築・茶室を想起させる設えが徹底的に施されている。
出入り口はにじり口の高さでは低すぎるので、茶室の給仕口をベースにした高さとした。
床面積が非常にタイトなため、限られたスペースでの水回りの使い勝手を検討するのは苦労したという。この客室の水回りはオーナーの自宅に実物大のモックアップ、というより、実動する同じものを施工して検討したそうだ。
ミニマルな客室は正に茶室サイズ。その中でも床の間や床柱、書院を模した洗面台などをしっかり設えた。雪見障子からは枯山水まで眺められる。
照明は客室でも出来るだけ抑えられており、右下の障子越しと、右奥の小さな障子からロウソクのようなささやかな灯りになる。(左上にあるスポットは清掃作業時のみ点灯する)
天高も2.1mとかなり低く、寝室は実質3.5畳程。このサイズの客室もオーナーのオフィスに実物大モックアップを作り、サイズや仕上げを入念に検討した。
こちらにはトイレ・シャワールームが備わる。
6階最上階には、露天風呂付きスイート、共用のシャワールーム、予約制の貸し切り露天風呂がある。
貸し切り露天風呂は十和田石の浴槽。3方に開き、スカイツリーを望む。
露天風呂付きスイート。
寝室は広くはないが、シャワールームと露天風呂が付く。
これらの植栽も荻野寿也によるものだ。
ブランディングやグラフィックデザインは北川一成のGRAPHが担当し、その旅館のマークをあしらった浴衣を着る前田圭介さん。「3年以上かけて宿泊施設の種類やコンセプトなどからじっくり検討を進めてきました。その中で浅草ということからも、外国の方々に日本の伝統的な作法や、佇まい、空間などはもちろん、人と人の距離感、サイズ感を感じて貰えることを大事にした、現代的で伝統的なスタイルの旅館を目指しました。」
【茶室ryokan asakusa】
設計・監理:前田圭介/UID
ブランディング(VIデザイン、アートディレクション): GRAPH/北川一成
内装プロデュース: kaland/川村裕文
造園・ランドスケープ: 荻野寿也景観設計
照明デザイン: ぼんぼり光環境計画/角館まさひで
施工:慶成建設
企画開発及び経営主体: レッドテック
運営主体: レッドテック
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