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28 5月, 2019

古代裕一+トーマス・ ヒルデブラント/HILDEBRANDによる表参道の「GYRE GALLERY」

表参道のGYREのギャラリーEYE OF GYREが「GYRE GALLERY」と名称を変えニューアルオープンした。
新たな「GYRE GALLERY」の空間プロデュースを手掛けたのはJTQ谷川じゅんじ、空間設計はスイスを拠点に活動する建築家 古代裕一とトーマス・ヒルデブラントが担当。
展覧会の企画はGYREの総合プロデュースを手掛けるHiRAO INC平尾香世子、 インディペンデントキュレーター飯田高誉がディレクターを務める。
[GYRE GALLERY, Tokyo by Yuichi Kodai + Thomas Hildebrand / HILDEBRAND]


新たなギャラリーのロゴデザインはvillage ®長嶋りかこが手がけた。


場所は同じ3階で、吹き抜けを挟んで反対側に移動した。ギャラリーは天井高3.5m、床面積143㎡のフロアに4つの空間で構成されている。


〈1, Entrance Gallery〉
その名の通りレセプションの手前、エントランスを入ってすぐの空間。15㎡ながら必要に応じて展示場所とできるのは有難い。ギャラリーは、渦をコンセプトに作られたGYREの建物のデザインを踏襲し、回遊型として設計された。そのためこの時点で中央へ進むこともできれば、左側の通路からスタートすることも出来る。


〈2, Overview gallery〉29㎡
切り取られたように覗いていた正面の壁面。正対することで展示をより印象的に演出することが出来そうだ。照明は調光により抑えた光にすることも可。


Daylight Galleryへ


〈3, Day Light Gallery〉41㎡
9mの可動壁付き。アーティストの世界観に合わせて閉じた暗めの演出をすることも出来れば、東京の街を背後にたっぷりの自然光を取り入れた野外彫刻展のような演出も可能。


可動壁を閉じる様子。


可動壁(右)を閉じ奥から見返す。


〈Installation Gallery〉58㎡
GYRE GALLERYでの展示は、アートを主軸として、ファッション、写真、建築、メディアといったさまざまなジャンルを想定している。この空間ではインスタレーションなど比較的大きいサイズの展示するにも適した大きな空間である。


そして最初のOverview galleryへと戻ることができる。


細部のデザインにも気をつかっているのが分かる。ギャラリーの扉や手摺は、京都の金物師、十六代金谷五良三郎に製作を依頼したもの。

ギャラリーの設計を手がけた古代裕一氏は、Herzog & de Meuron で携わったギャラリープロジェクト、SANDWITCH Inc.と京都造形大学で培った現代アーティストの名和晃平氏とのコラボレーションを踏まえ、アーティストの視点を汲み取ってこの空間を設計しているそうだ。これまで培われてきた自分なりの建築とアートの経験を、このギャラリーの空間に落とし込むことが出来たという。

こちらは現在開催中の「デヴィッド・リンチ_精神的辺境の帝国」展の様子。展示に始まりと終わりのない鑑賞シークエンスを組み立てることができるように計画されているため、実際に様々な動線で人が行き来していた。


Installation Galleryには、中央にリンチの映画のセットに出てくるような小屋が。まわりの壁面にはペインティングやドローイング。



オープニングのためにスイスより来日した古代裕一氏とトーマス・ ヒルデブラント氏。
「ギャラリーでありながら美術館で一日を過ごすような濃厚な体験、作品と真に向き合うことができる豊かな時間を提供できる空間を目指しました。可変性に富んだ設計にしているので、展示内容によって毎回新鮮さを感じてもらえると思います。」

GYRE GALLERY
gyre-omotesando.com/gallery/

【HILDEBRAND】
www.hildebrand.ch
www.world-architects.com/en/hildebrand-zurich


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24 5月, 2019

「中山英之展 , and then」レポート/TOTOギャラリー・間

5月23日からTOTOギャラリー・間で開催の「中山英之展 , and then」のプレス内覧会へ。
まずは本展の概要を確認していただきたい。

展覧会概要:
「この展覧会は、いくつかの映像からなります。
過去に建ち、僕たち設計者の知らない時間を過ごしてきた建物たちを映したものが主です。だからこれは、建築の展覧会というよりも建築のそれから/, and thenを眺める上映会、と言ったほうが正しいかもしれません。
『それから』の時間に建築家は関わることができないように、それぞれの映像も別人によって撮られ、編集されたものです。だからこれは、ばらばらなイメージの並んだ小さな映画祭のような展覧会、と言うこともできるかもしれません。
もちろん映っている建築についてなら僕たちも、カーテンの開閉機構の仕組みから影響を受けた映画監督の言葉まで、全てを知っています。ギャラリーがこの期間だけ小さな映画館になるのなら、それらが展示されたロビーも忘れずに用意したいと思います。
もうひとつ。
映像には始まりと終わりがあるので、好きな時に行き、自分のペースで会場を回れる展覧会とは、ちょっぴり相性が良くないかもしれません。そんな意味でも展覧会には、できれば映画館に出かけるような気分で来てもらえたら嬉しいです。」中山英之

概要で分かるように今回の展覧会は "映画館" なので、いつもの3階エントランスは映画館のチケット売り場のようになっている。


ロゴも "GALLERY MA" ならぬ "CINE MA" に。
壁に中山さんが直接鉛筆で描いたものだ。


"廊下" の壁には上映作品のポスターと、左に "ロビー"。
なぜロビーだと分かるかというと鴨居に鉛筆で "LOBBY" と書いてあるからだ。


上映作品のタイムテーブル。
5作品と聞いていたが、急遽1作品追加され6作品が上映される。インターバルを挟んで全て観るとちょうど1時間。上の分針のみの時計で、大体今どの辺りを上映しているかが分かる。


今回は映像だけなのかと心配された方は安心していただきたい。ロビーには撮影された建築の模型や、スケッチ、図面などのほか、撮影で使われた小道具などが並ぶ。
これから観る映画の予備知識を得る、或いは観た後にまた戻ることで理解を深めることが出来る。


フリーハンドで描かれたような展示台と、実際フリーハンドで描かれた線によって、やんわりと作品ごとのゾーニングがなされている。
プロジェクトの進め方は線形ではなく、様々な思いつきがランダムにいつも広げられているような状態をここでも表現した。


キャプションは全て中山さんが鉛筆で直に書いたもの。
プロジェクトの説明だけでなく、あるものを見たときに感じたことや、答え、プロジェクト同士の間にある思想を理解してもらう、謎解きのように楽しんでもらえる。どこから考えはじめたのか分からないが、どこから見始めても物語が見えてくる構成になっている。


〈O邸〉 2009年/京都
京都市に建つ、京都工芸繊維大学の教授であり、dezain.netを立ち上げた岡田栄造氏の自邸。高さ7mの薄い切妻のボリュームはカーブを描き、奥が見通せない路地のような建物。


〈岡田邸〉(O邸)
岡田氏自らが撮影した自邸のありのままの姿を映す。元々3人家族向けに設計された住宅は "それから = and then" 5人で住む家となっている。
挿入される音楽は中山さんが大好きだという「空間現代」が担当した。偶然岡田邸の近くに本拠地があり、中山さんが頼んだわけでもないのに、岡田さんが音楽を依頼したそうだ。


中山英之さんと、岡田栄造さん(右)は20年来の友人だという。
「子どもが大きくなるに連れ、どんどん狭くなっていくが居場所を探すのが楽しい。」「中山さんは、特に垂直方向の設計が天才的。普通、2階から1階に降りてきて、忘れ物に気づき2階に戻るのはおっくうなものだが、この家の階段だとまた戻るのが嬉しくなる。」と岡田さん。


〈2004〉 2006年/長野
中山さんが独立して最初のプロジェクトで、SD Review 2004 鹿島賞受賞作品。
会場にはSD Review展での展示物を倉庫から出してきて、当時のものを並べた。
「今自分で見ると鳥肌が立つほど恥ずかしいスケッチもそのまま展示した。」と中山さん。


その敷地が出来るだけ "地面" であって欲しいことから、地面から浮いた家。


〈2004〉
現オーナーは施主でなく、別な方が所有している。そのため撮影ができないので本展用のリストから外れていたが、かつて中山さんが出会った韓国人アーティストYU SORAが参画することとなり、YUの希望により本プロジェクトが選ばれた。
撮影は出来ないため、竣工時の写真や図面などを元にYUによるアニメーション作品となっている。


〈弦と弧〉 2017年/東京
複雑な構成を持つこの事務所兼住宅の設計を進めるために、様々な素材の模型で検討されてきたことが分かる。


2階建て分の高さの空間に10層のプレートを持つ。重なり合うプレートの中央だけが吹き抜けになっており各層を繋ぐ。


〈弦と弧〉
層の変化を最適に撮影するために、吹き抜け部分を垂直に移動する装置を「開発」。その装置にリコーの全天球カメラ "シータ" を用い撮影し、横に長いスリット状の映像をつくり出した。


垂直撮影に使われた装置がこれ。中山事務所の若手が手作りしたというが、撮影や演出、編集にはもちろん中山事務所は関わっていない。


〈道と家〉 2013年/東京
竣工後未発表作で、本展にて初公開となる作品。
3面接道の敷地に仕上げの異なる同じ大きさの棟が二つ、その間にアスファルトの道を通し、両側に扉を付けることで周辺と接続したり、切り離されたりする。


〈道と家〉
竣工時の施主は住んでいない。"それから = and then" 新しい住まい手は小さな男の子のいる三人家族。その日常が4台の定点カメラによって撮影され、それぞれが4曲のピアノ伴奏曲にと共に順に流れる。棟は分かれているが、実は地下で繋がっていることがいずれ理解できる。


そして最後に4つの映像と、4つの曲が合わさり、ピアノ4重奏と共に映し出される。


〈mitosaya薬草園蒸留所〉 2018年/千葉
書店「ユトレヒト」をオープンしたり、執筆家として活躍し日本のブックカルチャーを牽引した江口宏志氏が転身し、蒸溜家として新たな人生をはじめた。


閉園した薬草園とその展示室を、果物とハーブを使った蒸溜所へコンバージョンしたプロジェクト。


映像はこのように江口氏が頭にGoProを付けて撮影された。


〈mitosaya薬草園蒸留所〉
閉園後手付かずで放置された施設に生活そのものを移し新しく蘇らせていく。果物やハーブを運び、洗浄し、砕き、蒸溜器に投入し、抽出し、パッケージングするといった日々の営みを一人称カメラが黙々と伝える。


〈かみのいし〉 2017年
庭石があるなら部屋石があってもいいだろうとの発想からできたプロダクト。
竹尾による「紙のかたち展 2」で発表された。


〈きのいし〉
かつてこのテラスに鎮座していた庭石へのオマージュ。ベニヤ板にUVプリントしたもの。
手のひらサイズの石ころをスキャンし、ここまで拡大しても「石は石であることをやめない。」


アポロ16号の月面探査の映像は、展示で使うためNASAに許可を取ったそうだ。オープンソースなので本来その必要はないが、「『展覧会の成功を祈る』と返信をもらい、『ミッションの成功を祈る』とNASAっぽく言われたようで嬉しかった。」と中山さん。
この映像から流れる音声で会場が満たされるようになっているので、是非キャプションを読んでいただきたい。
〈かみのいし〉に関する映画は、「急遽加えられたシークレット」とのことで、ここでもシークレットとしておく。


TOTO乃木坂ビルの地下1階から2階まで至るところに〈かみのいし〉が展示されているので探してみるのも楽しい。

中山英之さん
何にも興味が持てずいた高校生のとき、偶然ザハ・ハディドの展覧会を観て雷に打たれたような衝撃が身体を走り、それから建築家を目指そうと思った中山さん。建築に興味が湧くと、その他の様々なことに興味の対象が開いていき、高校の頃とは違う新しい世界が建築によって始まったという。
「建築の展覧会で時々映像コーナーがあるが、実は自分はあまり好きではない。しかし今回その自分の好きではないことをして成り立つだろうかと。であるなら思い切って「GALLERY MA」を「CINE MA」と言い切ってしまえば、映画を見に行くとき時間を予め決めて、その時間をどのように過ごそうかと考えながら、友だちや恋人を誘うのではないかと、そんな使い方をしてもらいながら、建築に興味がない人でも、この展覧会を楽しんでもらえるのではないでしょうか。」


展覧会に合わせてTOTO出版から刊行される「建築のそれからにまつわる5本の映画」。
映画のパンフレットが5冊まとめてあるようなデザイン(大島依提亜)。


映画の解説や、撮影者や住み手、中山さんのエッセーのほか、建築の解説が盛り込まれている。


発売は5月28日。B5判、170ページ、¥3,300(税別)
https://jp.toto.com/publishing/detail/A0381.htm

【ギャラリートーク】
6月7日から7月26日の間、計8回トークや映画上映会が開催。
詳細:https://jp.toto.com/gallerma/ex190523/talk.htm


【中山英之展 , and then】
会期:2019年5月23日~8月4日(入場無料、月曜・祝日休館)
会場:TOTOギャラリー・間(港区南青山1-24-3)
詳細:https://jp.toto.com/gallerma/ex190523/index.htm


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17 5月, 2019

シーラカンスK&Hによる東京の「北区立田端中学校」

工藤和美+堀場弘/シーラカンスK&Hによる東京の「北区立田端中学校」を見学。
2008年、田端中学校と新町中学校が統合され田端中学校となるも、校舎の老朽化により新校舎建設の必要性があった。その後近隣の小学校の統廃合によって空いた旧滝野川第七小学校の跡地を利用して、新しい田端中学校を造る計画としてスタート。そして2015年、新しい田端中学校設計のプロポーザルによってシーラカンスK&Hが選ばれた。
プロポーザルでは地域防災拠点としてのプログラムも組み込みながら、校舎やグラウンドの配置、ボリュームや工法なども提案した。
(※許可を得て外観のみ掲載)


敷地面積7,222m2、建築面積2,312m2、延床面積8,256m2。
校舎棟:PCa・PC造+一部S造・RC造 8階建。
体育館棟:RC造+一部S造・SRC造 2階建。
付属棟:RC造1階建。
生徒数は300人足らずとは言え、元々広くはない小学校の跡地に中学校をつくるのは容易ではなく、できるだけグラウンドを広く、体育館も小学校以上の広さが必要で、そのためには8階建ての校舎、かつプールは8階にあるという公立の中学校では殆ど前例のない建物となった。
手前が校舎棟、奥が体育館棟と呼ばれる。付属棟はグラウンド側の体育倉庫や防災用倉庫のこと。

工事の際、近隣への騒音削減と工期の短さも求められ、躯体はPCa・PCを用いた工法が選ばれた。(PCa・PC=プレキャスト・プレストレストコンクリート。通常の鉄筋コンクリートより強度や耐久性、精度が高い)。
ただし、この工法では巨大なコンクリート塊が搬入されるため、現場へトラックが入れるか、荷下ろし場所や方法、クレーンの配置などを計画し、それによって部材の大きさも変わるため、部材の構造計算、金具の設計など全て事前に把握する必要があるそうだ。

高精度のプレキャスコンクリートが太陽光を鈍く反射させる。
校舎棟の1階に家庭科室、保健室、調理室。2階は昇降口、図書室、職員室、事務室。3階〜5階は普通教室。6階は音楽室、理科室など。7階は美術室、技術室、和室など。8階(屋上)はプール。


体育館棟は現場打ちのRC造。1階はランチルーム、武道場など。2階は体育館。屋上には広場。周囲は木が沢山植わる公開空地として開放される。
体育館内は、軒桁まである掃き出し窓から自然光がルーバー越しに差し込む。

体育館棟はロッジアによって内外の中間領域を設けている。避難所としてもこういった空間は重要になるだろう。

西に面したファサード。変形敷地のため校舎棟と体育館棟が割れるように建っており、その間に各所へのメイン動線を配した。
校舎棟は柱梁が外に現れ、室内はすっきりした空間となり、梁は庇にもなる。

大階段からは生徒や教職員の昇降口へ、その下ピロティーからは、地域にも開くパブリックスペースとしてグラウンドや武道場へ通じる。

大階段をあがって昇降口。校舎内は体育館を除き、中学校では珍しい下足のままという運用。玄関土間や下足入れを廃しスペースを確保するためだ。

「住宅密集地において、隣接するお寺と共に貴重なオープンスペースをもちながら、地域の昔ながらの雰囲気を残す場所です。接道面の敷地を開放し、街角の森として当時の面影を少しでも再現しました。8階建ての高層校舎にはX型の緩やかな階段を配し、階段が単なる移動経路ではなく、留まり立ち話ができる生徒同士の出会いや交流のきっかけとなることを意図しました。外観はプレキャスト・プレストレストコンクリートの構造体がそのまま現れ、この高品質な躯体そのものが地域の新しいシンボルとなることを願っています。」と堀場弘さん。

【北区立田端中学校】
設計監理:シーラカンスK&H
構造設計:KAP
施工:越野・川田・髙山異業種特定建設共同企業体


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