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01 8月, 2015

ザハ・ハディドの新国立競技場に関する声明:和訳

The Huffington Post  | 執筆者: HuffPost Newsroom)

「建設費が高騰したのはデザインのせいではない」

日本とイギリスの我々のチームは、日本の新国立競技場のザハ・ハディド・アーキテクツ(ZHA)によるデザインが問題になっている件に関して、誤解を正す必要があると感じます。また、日本の国民が、建設の予算が膨れ上がっていること、2020年東京オリンピックの開幕式が5年後に迫っている中で、建設の開始が遅れていることのリスクについて懸念していることは、もっともなことです。

2012年に、ZHAは新国立競技場のデザインを決めるコンペティションで、建築家とその他の専門家で構成される審査員によって、46の候補の中から選ばれました。この新国立競技場とは、2019年のラグビー・ワールドカップと、2020年の東京オリンピックで、世界中からの観客を迎えることになるものでした。我々は、この2つのイベント後も、50年から100年にわたって、国内外を問わず多くの用途で利用されることになるこのスタジアムを、柔軟性のあるデザインにするという日本のビジョンに惹かれました。

デザインは、日建設計が指導する日本の主要なデザイン事務所とZHAの監修による合弁によって進めました。我々のチームは、クライアントであるJSCの予算や要求に沿ったデザインにするために何千時間もの時間を費やしてきました。2年間の工程における全ての段階で、デザインと予算の見積もりはJSCによって認可されていました。ZHAはコストを削減するため、隅々まで、積極的に突き詰めていきました。

初めて日本で公の建物を建設した際、予算の概算が出る前に建設業者が選定されるという、危うい手続きが取られました。ZHAはこうした手続きに関して経験があったので、JSCに対して、完成の期日を固定するよう助言しました。東京で建物を建設する際のコストが跳ね上がっていること、建設業者に国際的な競合がいないことが、受注獲得のための競争を妨げると判断したからです。

しかし、「十分な価格競争がなく、早い段階で建設業者を決定することにより、建設費が過度にをつり上げられるだろう」という我々の警告は留意されませんでした。

また、ZHAはJSCに対して、このような競争のない状況を考慮すれば、スタジアムの仕様書の規模を縮小することによって建設費を下げれば良いと提案してきました。どの段階でも、ZHAは、より低価格な代替案を持っていました。しかし、予算とデザインは日本政府によって7月7日に認可され、それ以降、より低価格なスタジアムをデザインして欲しいという要求はなかったのです。

建設業者が提示する高額な建設費について、ZHAとプロジェクトチームは、JSCと協力して、デザインの変更などを含む多くのコスト削減のための努力を行ってきました。我々は、スタジアムの材質や、建設に必要とされる技術について具体的な手引きを提供しました。我々の経験から言って、高品質な計画を低価格で実現するのにベストな方法とは、選定されたデザイナー、建設業者、クライアントが一丸となって一つの目標に向かって協力することです。しかしながら、我々は建設業者と共に働くことは許されませんでした。繰り返しますが、これは不必要な建設費のつり上げ・完成日時の遅延といったリスクを高めるものです。

7月7日に、スタジアム諮問委員会に提出されたJSCによる報告書の中では、建設業者によって提示された数字を使って、予算の膨れ上がりのほとんどはデザインのせいだという、不正確な主張がなされました。ZHAはこの声明が出されることを前もって知らされておらず、我々は即座にこの不正確な主張に対して、JSCに抗議しました。報告書は主に、デザインに含まれる鉄製のアーチについて焦点が置かれていました。このアーチは、複雑なものではなく、基本的な橋の建設技術が使われています。軽量で強度の高いポリマー膜の屋根が全観客席を覆う構造です。これに加えて、将来的に多くの国際的な競技やイベントに使用できるよう、高スペックの照明と機能が備えられていました。

アーチ型の天井構造は、日本の他の主要なスタジアムと同等に効率的です。競技場本体の建設と並行して、屋根を造ることができます。これにより、競技場本体が屋根を支える構造に比べて、建設にかかる時間を著しく短縮することができます。競技場が屋根を支える構造では、競技場本体の建設が完成してから、屋根の建設を始めなければならないため時間がかかるのです。日本のデザインチーム及びエンジニアチームは、アーチ型構造にかかる費用が230億円であると確認しました(見直し前に承認されていた予算2520億円の10%以下の金額です)。

予算が膨れ上がったのは、確かに東京の建設コストの上昇によるものですが、それだけではありません。入札への制限が多く、競争がないまま建設会社を指名したこと、プロジェクトチームと建設会社の協力がなかったことが原因です。デザインのせいではありません。

東京の建設ラッシュが建設需要を呼んだこと、労働供給が足りなくなったこと、円の急落により輸入資材が高騰したこと、こうしたことが重なって、建設計画とオリンピック・パラリンピック招致があった2012年、2013年から大きく状況が変わり、建設費の増大につながりました。2013年7月から2015年7月の間に、東京の建設コストは平均で25%上昇し、これから4年、同じ割合で増えていくだろうと予想されます。

白紙見直しにあたって、こうした建設費が膨れ上がる基本的な問題はなにも解決していません。事実、こうした問題が、着工の遅れにつながる可能性があります。5年後にやってくる開会式という動かせない締め切りに向け、建設コストは上がり続けるでしょう。

東京の建設コストの上昇に加え、建設会社の工期の遅れ、拙速なデザイン作業により、デザイン費と建設費はさらに高くなります。このことは、将来、新国立競技場が質の低いものになるリスクがあるということです。世界の事例からもわかるように、質の低いスタジアムでは2020年の大会後、長期間使用するためにさらなる投資を必要とします。

国民と、政府、そしてデザインチームが尽力し、よりよい資材調達プロセスと、建設会社と協力できていれば、予算内に2019年ラグビーワールドカップに間に合わせることができたはずです。

私たちはこれまでも、そして今も、私たちの経験と知識を動員し、JSCとも協力して、低コストのデザインを作り上げる用意があります。

デザインが最終決定された10日後、ZHAは報道を通じて、計画の白紙撤回と、2019ラグビー・ワールドカップに間に合わせることを断念したと知りました。その後で、JSCから正式な契約解除の通知が届いたのです。

ZHAは、柔軟性がありコスト効率の高く、数世代にわたって日本のスポーツのよりどころになる新国立競技場を、2019年ラグビーワールドカップに間に合わせることができると今も考えています。日本国民、日本政府、そして日本とイギリスにある私たちのデザインチームは膨大な時間と労力を費やしながらも、シンプルで予算に合うデザインを作り上げることができるはずです。

さらなるコスト増大のリスクを避けるため、そしてオリンピックに間に合わせるため、質の低いスタジアムになることを避けるため、安倍首相の見直し案は、すでにこれまで積み上げられた知識を活かし、私たちのチームと建設会社の協力体制を構築することに注力すべきです。

私たちは安倍首相に書簡を出しました。見直し案の作成に私たちが協力できるという内容です。ZHAには、これまで労力を費やしたデザインの作業を通じて、どうやったら最もコスト効率が良く、この先50年、100年と日本の人たちのためになる新国立競技場を建設できるかの道筋が見えています。

数週間のうちに私たちは、そのプランを日本と世界のデザインコミュニティに公開します。見ていただければ、数年かかった仕事の結果として、新国立競技場のデザインに革新的な解決策が込められていることがお分かりいただけると思います。


ソース:The Huffington Post


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