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25 9月, 2015

相坂研介による「あまねの杜保育園」

相坂研介/相坂研介設計アトリエによる千葉県船橋市「あまねの杜保育園」の内覧会に行ってきました。
2013年のコンペで勝ち取ったプロジェクト。

 敷地面積2,051m2、建築面積1,067m2、延床面積1,493m2。S造2階建て。


 城壁のようにも見える外観は園児達を守ること、不審者を心理的に寄せ付けないようなイメージだ。

 エントランスは東西からそれぞれ、自転車・歩行者と、車での登園に振り分けられ安全に配慮されている。
左には建物のコーナーが円弧に切り取られ、閉鎖的にならないように内と外を繋いでいる。
ファサードは押出成形セメント板。

 エントランスは両側が引戸になったピロティになっており、職員室の前を通る。


 ピロティを抜けると外観とは打って変わって開放的な空間が現れる。


 池、砂場、築山を配した園庭をウッドデッキ、2階の外廊下、ルーフテラスが取り囲む。そして屋上にはブリッジが掛かるのが見える。
庇の出幅は2m。園庭に向かってテーパーが付いており、スラブの厚さより薄く軽快感を出し、空がより広く見えるように工夫されている。

 建物の白い部分が幅1.3mの壁柱で、その間に各室内空間が納まる。
正面上部の塔屋とそのヴォリュームが外観で突き出して見えた部分で、屋根にはソーラーパネル設え、池の水を循環させる電力を得る。

 子どもが好きそうな築山。
またルーフテラスに降った雨水は2階のタンクに集められ、滑り台の下に見えるパイプから川に流される。


 1階には事務スペースのほか、0歳〜2歳児の保育室。保護者や園児は土足のまま保育室までアプローチできる。


 石の感触も楽しんでもらいたいとのことから、水道の水受けには職人が一粒ずつ丁寧に埋め込んだ玉砂利を洗い出し、グレーチングには石が接着されている。


 0歳児の保育室のみ床がコルク張り。また受け渡しもしやすい場所で、避難口も備わる。
(写真に映るのは0歳児ではなく内覧会に遊びに来ていた子どもたち)

 地域からも様子が伺えるよう、開口に面した庭やフリースペースが備わる。


 3〜5歳児(幼児)の食堂。奥に見える調理室は床レベルを下げ、食育のため子どもが作業を見られるようになっている。


 動線が交差する部分。


 2階へ。ダイナミックな空間構成もあえて子どもに見せている。


 二層吹き抜けの高さをもつ遊戯室。集会や卒園式のほか幼児のお昼寝にも使用する。活動的になる幼児は保育室外に移動し、食堂同様シーンを切り替える。


 2階廊下。


 幼児保育室。トップライトも設けられ、活動的な雰囲気だ。


 天井が傾斜しているのは、この後紹介する屋上に関係する。


 各部屋のロッカーの下には冷気の吹き出し口がある。夏場、築山のトンネルから吸入された空気が、地下で冷やされここから吹き出してくる。
孔の径は乳児の小指が入らないサイズ。

 2階の廊下はルーフテラスへ連続する。


 ルーフテラスから突き出した3つのボリュームは3階部分のように見えるが、左はエレベーターの塔屋、中央が遊戯室の吹き抜け、右が階段の庇になっている。
手前の手摺部分からは築山への滑り台が見える。またデッキには夏場プールも置かれていた。

 「ひな段テラス」。屋外でのイベント、発表会などに利用できる。


 右を見るとスロープでさらに上へ上がれる。


 ルーフテラスにも庇が3ヶ所。日陰があれば真夏や雨でも屋外活動が可能だ。


 ルーフテラスには菜園を設けた。
幼児の部屋で見えたトップライトは10mm+10mmの合わせガラスを採用。


 屋上菜園や、二重床になった全面ウッドデッキは断熱にも大きく貢献する。


 必要不可欠な設備ではないがブリッジを架けることで回遊性が生まれ、視点も大きく変わることで園児の活動は広がる。

 ブリッジから。保育園と、同時期に計画された整備中の市営グラウンドが隣に見える。そのため運動会等はグラウンドの利用が可能になるため園にグラウンドは必要ないと提案したそうだ。
また、さらに奥に見えるのは大学の桜並木なので、ルーフテラスから借景を楽しむことも出来る。

 ルーフテラス最上部(左は遊戯室の吹き抜け)。今後手前と奥の庇のフックを利用してロープを張り、アスレチック遊びができるようにする。



 園庭を見下ろす。砂場、池、築山はそれぞれ楕円形で優しいフォルムなのが分かる。

相坂研介さん。「コンペの後、園とは二人三脚で計画を進めてきました。第一に安全性、子どもを守るということ。それだけでは閉鎖的になりがちですので、外部や地域との接触部分もバランス良く設けています。」
「内部は園庭を中心にどのフロアまで行っても高い回遊性を有し、子どもを活動的にします。色彩に関しては子ども向け施設だからといって原色を使わずに、木や石など自然の色に囲まれた、大人でも十分楽しい空間体験をしてもらいたいと考えています。」


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15 9月, 2015

「SDレビュー2015 入選展」レポート

9月9日〜9月20まで開催の「SDレビュー2015」入選展に行ってきました。会場は代官山ヒルサイドテラスF棟。

 SDレビューは、実際に「建てる」という厳しい現実の中で、設計者がひとつの明確なコンセプトを導き出す思考の過程を、ドローイングと模型によって示そうというもので、実現見込みの作品を募集している。

入選15作品を紹介
 〈笛路村のバンガロー〉 山本周
兵庫県の山奥にある過疎の農村へ、近隣の都市から毎月農作業をするために訪れる施主の簡易宿泊小屋。
10万円という予算から、村人にも協働してもらうことで共有することを選んだ。地元の材や技術、人と時間を掛けて作るのは遠回りではあるが、都市の住人が訪れるようになり変わり始めた過疎の農村だからこそ出来る試み。

 竹を使ったコンクリート型枠のモックアップ。


 型枠全体の模型。


 〈湖畔の潜望塔/Lakeside Periscope tower〉 OOPEAAアンッシ・ラッシラ + 山口一紀
フィンランドのセイナヨキ市の湖岸に建つ展望塔。
塔の上部に野鳥観察ができるよう展望台を設けるが、階段を昇ることができない人でも上方からの景色が楽しめるよう大きな鏡を備えた潜望鏡を設置。

 模型の中心、上下で斜めになっているのが鏡。


 1ヶ月前の現地の様子。基礎と足元ができはじめている。杭工事以外のほとんどを学生が手作業で作っていくそうだ。


 〈木の風景〉 伊藤立平
山口県長門市で製材業を営む一家のための、ギャラリーと住宅が一体の施設。
林業が盛んだったが過疎化が進んでいる地域。山の管理から職人の手仕事までのプロセスの構築に取り組み、社長一家が自らの新生活と、製材所、来訪者、地域の人々、家族との関係を築き、活力のある場を生むことを目指す。

 製材所の技術を建築の技術へ取り込む。


 〈ライネ・コミュニティー書庫〉 川原達也 + エレン・クリスティナ・クラウゼ
ドイツ東部の街ライネの公園につくられる集会所。
街の至るところにオープンライブラリーがある街で、このオープンライブラリーを建築化。巨大な本棚と周囲の公園の木々に呼応したボリュームを、木格子の構造により一体化。

 建築を構成する4つのエレメント。


 オープンライブラリーの特徴的な性格である半屋外を継承。


 〈空き家再生データバンク〉 米澤隆
愛知県津島市の築80年の長屋群の再生プロジェクト。
木造住宅のリノベーション手法を分析し、それを元に作成したアイデアの集積と具体的な生活像の想定を組合せ、住人同士で向かうべきビジョンを共有できるよう体系化した。

 1. 「新建築住宅特集」の木造住宅リノベーション事例を15年分に渡って、リノベにおける操作を抽出・分析。
2. そこから得られたリノベ手法のアイデアを創作・集積(現時点で193アイデア)。
3. 実際の生活像を想定したリノベのベース案をユニットモデル化し作成。
4. それらを元に今回の津島市の長屋群リノベに落とし込んで、各住戸と全体の関係性をデザインし、コミュニティを構想。



 「アイデアの種」をデータバンク化し、リノベーション手法を継続的に収集。蓄積し続け、広く共有し、循環させることで日本中の空き家を新陳代謝させ生きている状態に再生する。


 SDレビュー常連の米澤さんは模型のほか、CGムービーも展示している。


 〈音楽ホールの山〉 佐々木翔
長崎県諫早市郊外の音楽ホール付き住宅。
日常的に親戚や友人がなどが多く集まるため様々な居場所が点在するようなパブリックスペースをもつ。音楽ホールの遮音のため、ホールをコンクリートで囲みその周りに諸室を配置。

 1階の半分を地中に埋め、大屋根で包んだ。


 普段は少人数が暮らし、ときには沢山の人で溢れ賑わう。音楽ホールの振る舞いそのもののような住宅。

 〈みんなでつくるツリーハウスの集落〉 山中コ~ジ + 山中悠嗣 + 山下麻子 + 吉松静香 + 満田衛資
京都市左京区、南丹市にまたがる循環型社会構想の実験エリアで取り組む、ツリーハウス集落計画。
クライアントより4つのテーマで進められている。
1. 循環型社会について体験し学べること
2. 未利用資源(間伐材や糞尿)を活用すること
3. 生活や滞在をサポートする拠点となること
4. みんなでつくれる建築を用いること

 計画地では段階的にステージやキッチン、宿泊施設、家畜小屋などがつくられる。


 構造や強度について満田衛資さんも加わり、実験しながら進められていく。


 〈塀の外 塀の内 塀の上〉 石川雄一 + 釜萢誠司 + 佐藤貴洋 + 三宅祥隆
栃木県宇都宮市の住宅。
一方には遊歩道と畑が広がる。台形の式地を三角形と四角形に分けるように、可動式の塀を立てる。

 塀を開けると外部と連続した土間と畑を往来しながら作業をする。屋根には苔が植えられ育んでいく。
この場所でしか存在し得ない建築でありながら、周辺環境と馴染んだどこか日常的な佇まいを目指した。

 〈Otaru Harbor CAFE ― 小樽港第3号ふ頭水上カフェ計画〉 福島慶介(プロデュース)+ 山雄和真
物流の拠点であった港を、市民の巷として取り戻す港湾再開発計画。
小樽は観光客で賑わう運河沿いを挟んで、市民の街と港が分断される構造をもつ。

 大正時代港湾の初期に整備された、第3号埠頭の基部が計画地。水上カフェは港湾振興プロジェクトの中心になることが期待されている。


 角度を変えた床が積層し、それぞれの床を巡ることで小さな建築のなかに最大限の距離を内包し、違う場所の体験を最大化する。


 〈1/1・1/2・1/3・1/4〉 川人洋志
徳島県小松島市の夫婦のための住宅。
単純な秩序で構成されながらも建築を構成する部位、空間は、様々な相互性を持ち、ここに招来される光、風が、住まいを重々無尽の響きで満たす。


 〈陸前高田の高台傾斜地に建つ高齢者施設〉 大月敏雄 + 冨安亮輔 + 齋藤隆太郎 + 川上咲久也 + 紺野光
震災の後、社会福祉法人はいち早く高台斜面に土地を取得し復興の一躍を担うため高齢者施設を建築する。高齢者と斜面地という相反する要素をつなぎ合わせるという、設計者としてチャレンジングな計画。

 自然に囲まれた豊かな場所であることを活かし、できるだけそのままの状態を活かし、敷地に馴染ませる。
1/10の勾配を持つ一繋がりの大屋根によって、ランドスケープと高齢者の生活を結びつける。

 〈都市の中の住宅〉 伊庭野大輔 + 藤井亮介 + 沼野井諭
東京都港区の住宅。
46m2という小さな敷地に床面積を確保するため多層構成とし、廊下を介さず全ての部屋が連続するプランで、ひとつなぎの空間でありながら奥にいくにつれ私的な性格となるような、公私のグラデーションのある空間構成。

 外観では上階に行くに従ってセットバックすることで各室にトップライトを設け、安定した採光環境をつくり出す。



 〈デザイナーの為の移動型店舗〉 小嶋伸也 + 小嶋綾香
ファッションデザイナーの依頼による、世界各地を巡る移動型店舗。
要求されたのは「日本的な和のデザイン」だったが、地震国日本の建築分野が抱える問題の解決の糸口になるような提案として防災頭巾(写真右)を約1,000個つなぎ合わせ、直径8m、高さ4mのドーム型建築とした。

 解体後は頭巾を地震国に寄付し、海外での防災意識に貢献するかたちで、施主の日本的なデザインという要求に応えた。


 〈塔の躯体 門仲のアパートメント〉 伊藤博之 + 上原絢子 + 高塚加奈子
東京都の幹線道路、地下鉄、高速道路にも隣接した都心の集合住宅。
小さな居住空間のためRC造にすれば、柱と梁は大きくなるがそれらの間を断面的・平面的にニッチとしてとらえることで居場所をつくることができる。

 柱の寸法は下階では奥行きが肩幅の倍、梁の段差は腰高ほどもあり人を包むには十分な窪みとなる。一方で、上階では梁は腰掛けほどの高さで、柱も細く明るく開放的になる。


 周辺環境において騒音と振動への配慮抜きに快適な住環境はイメージしにくい。支持地盤は深く、長い杭とアースアンカーが必要になりその深さは50mに達する。


 〈環境をまとう屋根〉 片山馨介(SUPPOSE DESIGN OFFICE)
群馬県太田市の鉄工所の食堂兼イベント施設。
周辺の景色豊かな土地で、限られた予算でいかに許容力のある空間を計画できるか考えた。

 クライアントの鉄鋼加工技術を活かした薄くしなやかな鋼板屋根で空間を構成。厚さ9mmの鋼板の自重によるたわみで出来た自然な形状は捻ることで構造的に安定する。


 屋根という必要最小限の要素で構成することで、豊かな眺望と穏やかな環境を崩すことのない内部空間が現れる。




【SDレビュー2015 – 第34回 建築・環境・インテリアのドローイングと模型の入選展】
東京展
 会期:9月9日〜9月20日
 会場:代官山ヒルサイドテラスF棟、ヒルサイドフォーラム
京都展
 会期:9月28日〜10月12日
 会場:京都工芸繊維大学 美術工芸資料館

詳細:http://www.kajima-publishing.co.jp/sd2015/info.html

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