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28 7月, 2016

「住宅建築賞 2016 入賞作品展」レポート

8月10日まで開催の、東京建築士会主催「住宅建築賞 2016 入賞作品展」と、初日に行われた入賞レセプションも合わせて出席してきました。

 会場は東京京橋のAGC studio。入賞作品6点が展示される。
6作品中3作品が当ブログで取材したことがあるので思い入れが深い回となった。

 審査委員は4年目の委員長を務める西沢立衛と、委員に乾久美子、小嶋一浩、妹島和世、藤本壮介の面々で、いずれも過去同賞の受賞経験者だ。


 しかし残念ながら今年も “住宅建築賞金賞” は選出されず、 “住宅建築賞” 5点と “奨励賞” 1点は選出された。


 住宅建築賞〈DECKS〉 伊藤博之建築設計事務所
風車状の配置によって、周囲の視線を遮りながら光と風を取り入れられる。互いに影響を与え合って建つ戸建て住宅のように、他律的であり自律的でもあるような集合住宅。

 住宅建築賞〈ペインターハウス〉 加藤亜矢子+村山徹/ムトカ建築事務所


アーティストとその家族のためのアトリエ兼住宅で、低コスト、短期間の厳しい条件。資材や建材の種類を抑えそれらを少しユニークなディテールで仕上げた。建て売り住宅のようでありながらも、もっと建築は豊かになれる。

 住宅建築賞〈living journey〉 佐藤美輝/佐藤事務所
5層に個室を6つ持つ住宅。変化する空間に合わせて様々な暮らしができるように、敷地全体を居間として仕上げた。日々刻々と表情が移り変わる空間に合わせて居心地の良い場所に移動する旅を、建て主は植物を育てながら楽しんでいる。

 住宅建築賞〈横浜の住宅〉 伊藤暁建築設計事務所


北向きの急峻な傾斜地に建つ設計者の自邸。そのままでは地下に埋もれてしまいそうな1階の天井高を持ち上げ、採光や眺望を確保。周辺のランドスケープの一部として馴染みつつ、敷地の特性や生活の固有性にも適応した。
>> 取材記事へ


 住宅建築賞〈SHIRO building〉 木下昌大+石黒大輔/KINO architects
表参道にほど近い場所に建つ複合ビルで、1~2階がテナント、3階がオーナー住居。建蔽一杯に建物を作りながら、上にいくに従って四隅を天空率緩和を適応できるまで削り取る。削られた部分はテラスとなり、内部に開放的な空間を生み出す。

奨励賞〈tetto〉 安原幹+日野雅司+栃澤麻利/SALHAUS 



郊外の農地に残されていた空き家を建て替え、里山の風景を残す大らかな集合住宅。雁行しながら凹凸のある平面で領域を重ね合わせ居場所をつくり、屋内・屋外、専有・共有が混じり合いながら集まる状態を目指した。


 レセプションの様子。”レセプション” と銘打っているものの、実際は “講評会"といえるだろう。審査員、受賞者共にプロの建築家として、熱い議論が繰り広げられることもしばしばあり、とても貴重な機会として存在している。
この日出席した審査委員は西沢立衛さん、乾久美子さんのみであったが、良いころ、良くないところも、はっきりと愛のある辛口コメントが飛び出す。

今回で4年務め、審査委員を退く西沢立衛さんが締めた。
「4年間『新しい時代の住宅』というテーマでやってきましたが、これぞ新しい時代の住宅、この時代だからこそこの住宅なんだ、という力強さのある作品は現れなかったことは残念ではありましたが、裏を返せばそれだけこの時代の住宅を考えるのは難しいことなのかも知れません。」

【住宅建築賞 2016 入賞作品展】
会期:2016年7月20日~8月10日
会場:AGC studio


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26 7月, 2016

IKDSによる横浜の「シードビル」

國分昭子+池田靖史/IKDSによる横浜の「シードビル」を見学してきました。東急東横線 大倉山駅から数分の場所。1階に「野のすみれクリニック リハビリテーション科」、2〜3階に横浜市障害者グループホームが入る。
このような、知的障がい者の共同生活援助を行うホームに筆者は初めて訪問したが、求められるプログラムが通常のシェアハウスとは異なるので非常に勉強になった。

 敷地面積130m2、建築面積96m2、延床面積269m2。鉄骨造3階建て。
ホームには例えば養護学校を卒業し、その後働いたり、作業所に通われるような方々が、実家を出てここで暮らす、といったかたちだ。2〜3階の各開口部分が概ね入居者の個室で、外壁の色や仕上げを変えながら、その部分が住戸(=我が家)に感じられるような意匠になっている。そして各部屋共に小さいながらも必ずバルコニーに面するように計画され、外部との接触面を設けている。

 入居者は街の一員としてそれぞれのレベルに応じた社会生活が求められるし、街もこのホームを受け入れる。この建物を街に理解してもらうため、街に対して「開く」ことが重要とは言え、建物内の営みがすべてオープンとなるような雰囲気は街とホーム双方にとって好ましいとはいえず、そのさじ加減がポイントになるそうだ。


1階はビルのオーナーでもある、小児リハビリテーションやセラピーを専門とするドクターのクリニック。診察室などの他にこちらのサロンを備え、障がい者関係のネットワーク、地域との交流を図る様々なイベントを計画中。
(photo: Nobuyuki Umeda)

 リハビリテーション科には障がいをもつ方々も多く訪れる。この部屋の東側にはハイサイド・トップライトが設けられていて、街の視線にさらされずとも空が見え、外光に包まれるこのスペースで、リラックスして診療を受ける方々もいるという。上のホームとの間接的な繋がりも感じることができる。


 この日は介助犬のデモンストレーションが行われ、多くの見学者が訪れた。


 2階グループホーム。個室2室と、厨房、食堂、洗面、浴室などの共有スペース。
市内の福祉法人によって運営されて、食事や日常生活を24時間体制でサポートする。

 個室のドアは、左の食堂に正対しないよう配慮。柱や家具などを利用して少し入り組んだ街並みを再現。


 食堂の天井は路地をモチーフに。


 1階のクリニックで見えたトップライトは2階ではこのように。大きな開口を街に対して直に接続せず、街の風景を取り込みつつ通りを行く人と視線は合わないように配慮している。



個室。特定のことに非常に執着する方が居る場合もあるので、個室はシンプルにして、入居者自身が望む空間にできるようにした。

 3階には個室3室と洗濯場など。個室は廊下を挟んで左右に、といった正対する配置にはせず、こちらも路地にある独立した住戸になるよう計画。街の中にある小さな街を演出し、入居者が街の一員であり、独立した個であるような意識を促す。


 新築であるにもかかわらず、何年も前からこの街にあるような佇まい。


 國分昭子さん。「院長は古くからの友人で、地域の方々にとても信頼されている方です。『障がいのために医療機関にかかるのを躊躇されていた方が気軽にかかることができるクリニックを目指す。』と話しているように弱者に対する意識を底上げできるよう、様々な思いを持ってこの地に着地し、深く根付くようお手伝いしました。」
「通常シェアハウスではプライバシーを確保しつつ、入居者が如何に繋がるかということを求められますが、このグループホームでは、プライバシーを確保しつつも繋がりと距離感をどれだけ取るかが重要になりました。」

【野のすみれクリニック】

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22 7月, 2016

ニコ設計室による杉並の住宅「若井さんの家」

西久保毅人/ニコ設計室による杉並の「若井さんの家」のオープンハウスに行ってきました。中央線西荻窪駅から10分程の場所。

 敷地面積115m2、建築面積67m2、延床面積109m2。木造2階建て。
正面西側をセットバックさせ、駐車場と前庭を広く取り、建物の開口も多く街を引き込んでいるように見える。

 斜め三角に突き出した庇の下に、二面の開口を持つバルコニーが特徴的だ。


 敷地奥に向かって1mほど高くなっているので、室内も奥に向かって、いくつかのステップが見える。


 玄関で振り返ると、アプローチが玄関へ気持ちよく連続する演出がよく分かる。そして上部に階段が見える。


廊下もアプローチのカーブを踏襲するようにカーブしている。右に子供室、クローゼット、主寝室。その左に水回りと続く。


 子供室。窓の外にはバルコニーへ上がる大きな階段が見える。


右手の壁にもドアがあり、玄関前に通じている。来客はプライベートエリアである1階を通らずに、この半屋外階段を使って2階のリビングに上がることができる。


 上がってみるとバルコニーは広い踊り場で、インナーテラスと呼べる雰囲気になっていた。


 屋根を接道に向かって前傾させ、ダークな彩色と共にこのスペースのプライベート感をつくり出している。


 こんな情景がぴったりだ。

 1階へ戻り主寝室。1階の床は水回り以外杉張り。


 櫛引の壁が柔らかな陰影をつくる水回り。


 2階へ。無垢材のかなりしっかりしたささら桁を持つ階段。


 親柱と手摺のシンプルな作りかと思い見上げるとこんな遊び心が。


 2階LDK。床はフレキシブルボード、奥は小上がりでリビングスペースへ。
見渡すと使い勝手を良くする小さな工夫がそこかしこに見られる。


 振り返るとインナーテラスへ連続するフリースペース。来客はここがエントランスになる。左は書斎。


 書斎の書棚は箱階段になっており、上のロフトスペースの昇降にも使う。


 DKスペースは大きな島を中心に据えた。南側のハイサイド、北側の階段室は全面大開口で、奥行きのある敷地で中心部が暗くならないようたっぷりの採光。

 建物奥側にもう一つインナーテラスがあった。左には離れのような客間。
西から東へ細長い敷地に対して、外、半外、内、半外、外と少しずつスキップしながら連続している構成だ。

 この住宅から徒歩数分の場所に、ニコ設計室が手掛け3ヶ月前に竣工した「大山さんの家」のご夫妻よりカレーが差し入れられた。オープンハウスでは通常あり得ない状況だが、お施主さん同士ニコファミリーとして繋がるのがニコ設計室のいいところ。


左から西久保毅人さん、若井家の3人、担当の牛島史織さん。
「敷地の奥が児童館の空地に隣接しているので、接道とその空地に対してインナーテラス二面を介しながら街を繋ぎ、雨でも晴れでも内が外にはみ出していくような計画にしました。」と西久保さん。

【関連記事】
・調布の住宅「小川さんの家」
・杉並の住宅「中島さんの家」

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14 7月, 2016

駒田建築設計による港区の住宅「TRANS」

駒田剛司+駒田由香/駒田建築設計事務所による港区麻布の住宅「TRANS」の内覧会に行ってきました。昔ながらの都心の住宅街。

 敷地面積42m2、建築面積29m2、延床面積77m2。RC造3階建て。
建物の間口は約二間、奥行きは約7.7m、準工業地域のためご覧のように隣家が密着。この条件でどのように “快適” さをかたちにしているのか楽しみだ。

 接道も非常に狭いためセットバックも求められた。そのため(いつかなくなるかも知れないが)前庭を設けることができた。
防火地域でもあるため現実的にRC造を選択。接道の向かいにもRC造の住宅が建ち並んでいる。

 玄関を開けると打ち放しコンクリートと、ラワン材の建具のみのシンプルな表情、頭上に吹き抜けとスチールの階段が現れた。
奥へは廊下を介して寝室、水回りと続き、右手の扉はトイレへ。

 廊下を奥まで進んで水回りから見上げると、こちらにも吹き抜けと階段があった。
左が浴室、正面に洗濯機。

 浴室からは大きなフレームのような開口で、奥まった水回り空間を開放的にした。


 玄関扉を閉めると玄関ホールの光量は抑えられているのが分かる。2階へ上がるとどうだろうか。


 2階には全く別な空間が現れた。3階天井までの細い吹き抜と、その先は全面のトップライト。というより狭い路地の上に、ガラスの屋根が掛けられているという印象。


 間口二間しかない空間を大胆に壁で分割。小さな街並みのような空間をつくり出し、いくつかの小さなスペースを設け、南北二つの階段で連続させた。


 駒田さんが路地を歩いているように見える。”路地” の幅は1.3m、高さ6.1m。こちら “室内” 側は幅1.9m、高さは2.8m。



”路地” 側にソファを置き、“室内” 側にテレビを設置する。

 一体型のキッチンとダイニングは、構造でもある仕切り壁をまたいで設えられている。
仕切り壁は鉄筋コンクリートの構造壁としては最薄に近い120mmにし、幅のない空間で見た目に重くならないよう配慮した。

 ステンレスのシンクはフランジがなく、端面で天板と面一にしてあり非常にスッキリとした表情になっている。



 1.3mの ”路地” に天板をどの位出すかはかなり悩んだという。
見学は同業の建築家が非常に多く、「幅1.3mの空間が本当にあり得るのか体験しに来た」、「誰かがやってみないと自分では恐くて設計できない」、「この空間にこのDKは発明だ」、などの驚きと感心の声が多数聞こえた。



スチールの階段は通常工場で製作したものを現場で据え付けるが、狭いため、側桁や踏面の鉄板を一枚ずつ現場で溶接して製作した。しかも裏から見てもビード(溶接跡)が出ないよう一手間かけた仕事がなされている。

 3階は夫妻の個室。手前が奥さまで、奥の階段から上がってご主人の部屋がそれぞれある。
夏場の日差しが心配になるが、、、

 ご覧のようにスクリーンカーテンが手動で開閉できる。


 グレーの壁と白い壁は別な建物で、その間に路地があるように見える演出。人が多いと街の路地を行き交う人々の賑わい然とした光景が現れた。


 奥さまの部屋。奥を見ると屋上へ上がる外部階段を挟んで、ご主人の部屋へ間接的に連続している。
分けながらも全て通じているのだ。

 アーチ型窓にはガラスがはめ込まれ、階段室の吹き抜けには木サッシュの引戸、床はモルタル、壁はブルーに。


 対してご主人の部屋は矩形の窓が二つで片方にはガラスがはめ込まれ、もう片方は外開き窓。床はフローリングで壁は緑と、夫婦で趣向が異なる。
3階の二部屋は1階の寝室とは別で、夫婦それぞれの趣味の部屋になる。

 屋上にはコンクリートで作り付けたベンチが設えてあった。



 駒田剛司さん、駒田由香さん。(1.3m幅に座るのは3人では窮屈なのがわかる)
「小さな個室が3つ、それと生活に必要な要素をこの敷地内でどう繋ぐかを考えました。間口二間を敢えて壁で隔てることで、様々なスケールと距離感が織り込まれた二人のための街が生まれました。」「1.3m幅はチャレンジでしたが、どうしても窮屈な空間を、思い切り上に抜くことで成立させることができたと思います。」

【関連記事】

品川区の集合住宅「アリウェイ戸越」


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