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26 12月, 2017

浅利幸男による川口市の寺院「持宝院 礼拝堂・墓地」+ 長崎剛志による石庭

浅利幸男(ラブアーキテクチャー)による川口市の寺「持宝院 礼拝堂・墓地」、長崎剛志(N-tree)による石庭「三業の石据」を見学してきました。埼玉高速鉄道 戸塚安行駅から10数分の場所。
建築家が墓地関連の施設を手掛ける事は良く聞くが、 “墓地” 自体を手掛けたものを初めて見る機会だ。


敷地面積1,373m2、建築面積110m2。木造平屋建て。
今回の主役は右の礼拝堂。前庭を拡張するかたちで礼拝堂を新築した。

改修前の様子。山門の右側に塀と垣根、そして庫裏への通路と車庫があり、閉ざされたイメージだったが、それらを取り払い開放的にしたことがよく分かる。(by Google Map)


礼拝堂を脇に見ながら、浅利さんにはまず墓地を案内された。本堂の左奥へ。


今回整備した参道を進んで、浅利さんが手掛けた区画が見えてきた。


水屋はスチール(溶融亜鉛メッキにリン酸鉛処理)でシンプルなデザイン。


こちらは「樹木葬」の区画。参道の両脇に納骨棚が22基並び、間にヤマボウシが植わる。


中はこのように。家ごとの納骨棚ではなく48の筒状の骨壺が納まり、脇の御影石に故人の名前が刻まれる。


背面は御影石が貼られており、墓石のようなデザイン。


一番奥には骨壺もなしで散骨する合祀タイプ。中央には菩提樹が植わる。


墓地でよく見掛ける碁盤目状だった区画を、大通りと少し入り組んだ路地を組合せ再構成。苑内を巡りながら参拝できるようにした。墓石は苑に合うように基本デザインと黒御影で統一、などリニューアルを掛けたことで、10年で2〜3のみであった永代契約が、1年足らずで100程度に増えたというから驚きだ。
将来的には本堂背面から反対側まで、ぐるりと巡る霊園を整備していき、、


この礼拝堂に回ってくる、という仕掛だ。


霊園のどちら側からも入れるようピロティーを設けた。


墨入りのモルタルで仕上げられた濡れ縁が周囲を囲んでおり、、


表情の異なる庭を眺めることができる。




礼拝堂。宗教や宗派、国籍に関わらず利用できるようシンプルだ。




祭壇は栗又崇信のデザイン。祭壇背面の壁は和紙。


夜、外から見たときに行灯になるように、開口を巡るように照明を設えた。


引戸を全開にするとランドスケープと一体となった礼拝堂へ雰囲気を変える。


43tの石を持ち込んだ「三業の石据」と名付けられた石庭。「浅利さんからは自由にやらせていただいた。これだけ大きな石を扱えるプロジェクトはなかなかないのでかなり力を入れました。」と長崎さん。


礼拝堂の凜としたした佇まいと対照的にダイナミックな表情を出した。青、白、赤の石が並ぶ、「トリコロールの庭」が密かに裏コンセプトにあるという。


この日は夕景まで待ってみた。狙い通り美しい行灯が現れた。


ちょうどスーパームーンとのツーショットを撮影できた。

浅利幸男さんは「お寺も時代に合わせた変化が必要になってきています。人口が減少していくなかで、どのように改修すれば良いか困っているお寺が沢山あり、そのお寺の問題点を見つけ出しアイデアを出していきますが、基本的にはそのお寺の本来の姿(小さな改修を重ねるうちに境内に歪みがでてくる)にできるだけ戻します。そしてお寺は地域に開いた存在であることも本来の姿です。」と話す。

【持宝院 礼拝堂・墓地】
設計監理:ラブアーキテクチャー一級建築士事務所
作庭:長崎剛志/N-tree 
施工:前澤工務店

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20 12月, 2017

空間研究所による鎌倉の長屋「SASU・KE」

篠原聡子+金子太亮/空間研究所による鎌倉の長屋「SASU・KE」を見学してきました。(2017年3月)
敷地は鎌倉駅から10分程の住宅地。鎌倉ではよくある山に囲まれた谷筋の坂を上っていく。「SASU・KE」は土地の名前であると同時に「KE」は「家」の意味を持つ。


敷地面積499m2、建築面積189m2、延床面積446m2。RC造+一部木造、地下1階、地上2階建て。オーナーの住戸と、賃貸が8住戸からなる。
敷地は4mほどの高低差があり、大階段で一度上がったところに住戸の玄関があるようだ。


崖地が迫る敷地ではRC造でなくてはならない特有の条例があるが、ここでもその条例が適用される。法定建蔽率40%、且つ風致地区ということから余白が多く植栽を存分に施した。


RCの塊が前面に出ないよう、ファサードの木製ルーバーで緑豊かな周辺環境に配慮した。30度、45度、90度の3パターンで角度が付けられ、RC壁への熱負荷を軽減し、開口部では採光や眺望をコントロールしながら設置されている。


ベイマツ集成材のルーバーは動かすことができそうに見えたが、ボルトでしっかり固定されている。


階段を上ると中庭が現れた。この中庭を「C型」に囲むように住戸の入口が配されている。
中庭はコモンスペースとして、居住者同士の交流や憩いの場、さらには街と連続することをオーナーは望んでいる。右がオーナー住戸部。
敷地には様々な木が植わり、中央にはソヨゴ、周囲にイロハモミジ、トクサ、ハイノキ、ツツジ、ナンテンなどだ。


RC造の躯体の上に木造の屋根が軽やかに乗る。折れ屋根は背後の山並みに合わせた格好だ。


庭の中央には迷子石のような石がひとつ。この敷地は随分前に寺院があったそうで、工事の際地中から出てきたものを土地の記憶としてアクセントにした。


北側の105号室へ。変形の敷地からくる変形の平面を持つ。折れ屋根の複雑な表情と相まって、住み手に住まい方のアイデアを喚起させそうだ。左奥は水回り。


RCの躯体には軒桁がなく壁の展開図が凹凸形状だ。これにより開口が大きく周辺の景色をたっぷりと取り込むことができる。


軒桁と棟木で枠をつくり、その間に垂木を渡して屋根を支持。棟木は120×360あるので、軒先で必要以上に厚くならないように角度を付けながら細くなり、かつ3方から組み合わさるという手の込んだ大工仕事が見られる。
この写真のように、棟木をRC躯体に乗せることができない箇所では鉄柱で棟木を支持している。


中庭の切れ目が大階段で、街と繋がる。
ちなみに抜けた先に見えるグレー(退色したウリン材)の建物は、当ブログでも以前紹介した手塚建築研究所の「山を捕まえる家」。


一度大階段を降り101号室へ。この住戸は地下と1階からエントリー可能で、前庭に駐車場もある。


地下階はがらんとしており、ガレージや店舗として使うことができるようにもした。


1階は寝室を想定。水回りもこちらに。


2階はLDK、或いはDKとして。高さの異なる開口から中庭を望むことができる。




オーナー住戸。ガラス引戸でコモンスペースに開いている。


1階。階段の下は駐車場に通じており、そこから上がってきて、右の土間が玄関となる。
天井にカーテンレールが見えるが、手前を仕切って寝室として利用できる。筆者の背後に水回りがある。


ルーバー越しに見え隠れする鎌倉の景色。


見上げると三角形の吹き抜けになっていた。


2階はLDK。向かいと手前の折り屋根がクロスしながら豊かな表情をつくりだしている。


2階からは大きさや形状の異なる開口が7箇所もあり、そのどれからも同じ景色がない。




102号室。南側の庭に面したワンルーム。


103号室。天井に高低差があなりあるL字平面のワンルーム。


「敷地が周辺よりかなり高いので、ここでコンクリートの大きなボリュームが立ちはだかるようにならないよう配慮しました。そしてこの高低差によって敷地と街が分断されかねないので、大階段や店舗利用もできる住戸を配し、街と建築、住み手が繋がるような計画としました。」と金子太亮さん。

【SASU・KE】
建築設計:篠原聡子+金子太亮/空間研究所
構造設計:中田捷夫研究室
設備設計:冨張設備
施工:リンク・パワー

【関連記事】
「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展
N.A.S.A設計共同体による「道の駅 保田小学校」


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