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05 6月, 2018

黒川智之による横浜の「駒岡げんきっず保育園」

黒川智之(黒川智之建築設計事務所)による横浜市鶴見区の「駒岡げんきっず保育園」を見学してきました。
(新建築 2018年6月号 "保育施設特集" 掲載作品)  
[Genkids Nursery School by Tomoyuki Kurokawa]


敷地面積481m2、建築面積240m2、延床面積379m2。木造、2階建て。定員60名の保育園。
分節された反り屋根と、暖かみのあるレンガ色の外壁が特徴的だ。


南側に回ると敷地が傾斜地だとわかる。
巨大な屋根に見えないように分節し、ボリュームも分けることで周辺の住宅スケールへと近付けた。


地域に忽然と現れがちな保育園、地域の一員として馴染むことも大切な要素として考えた。
開口は東西・南北に抜け透けて見えるようにすることなども、圧迫感のないよう配慮されている。


右手から玄関を抜けると1.5層の高さのホールが広がる。
右奥に2歳児保育室。左に0歳児と1歳児保育室。


2階の保育室や屋上テラスの地窓がいくつもホールに向かって開口している。つまり1階・2階の保育室、玄関、園庭全てがこのホールに接続しているのだ。


ホールからテラス化された園庭へレベル差のないまま連続する。ホールを拡張したような使い方もでき、地域住民を交えたイベントなどの開催も考慮している。また園庭は敷地の傾斜を利用したスキップガーデンとしたのは、背景に見える雛段状の住宅地と呼応させる狙いもある。


階段で2階へ上がると正面に手洗い場。少し高台で開けているので北側は見通しが良い。


振り返ると階段ホールの左右に幼児の保育室。廊下の左は子ども用トイレと、右奥に給食の昇降に使うダムウェーターが備わる。


4・5歳児保育室。様々な大きさ、形、高さの開口がそこかしこに設けられ、視線があらゆる方向に抜け、且つ見えるもが全て異なる刺激的な空間。


こちらは屋上テラスに面した開口。


3歳児保育室。波打つ天井は屋根形状のまま。


こちらもバラエティに富んだ開口。1階ホールのピアノが見える。このように、ホールを中心とした各室の配置で、園児からはホールで他の園児がしていることや、迎えの保護者が見えたり、またホールからも保育室の気配が伺えることで安心感がある。


左の引戸からは屋上テラスへ。


軒を大きく出して生まれたダイナミックな空間。
デッキはアフゼリア材。


複雑に展開する屋上テラス、とスキップフロア、そしてホールに見えていた開口はここのものだ。


片隅に離れのような相談室を設けた。プライベートな相談をしたい保護者に配慮したスペース。


この保育園は、敷地の特性上十分な園庭を確保することができない。緩和要件を満たすことで、必要とされる園庭面積を最小限にしながらも、園児にはできるだけ屋外での活動が可能となるよう、立体的なテラスを最大限設け、園庭からも階段で連続するようにした。




スキップで上がったテラス。燃え代設計された現しの梁が徐々に近くに見えてくる。
大梁の断面は180×360mmある。


左手にはワイヤーメッシュが張られ園児の転落防止をしている。


地窓からホールや保育室が覗く。そして最上部のテラスへ。


ぽっかりと口を開けたようなテラス。園児からはこのように見えないが、おそらく四角く切り取られた空が見えるだろう。
3歳児保育室から見えた開口は、穿たれたテラスの断面そのままだ。


黒川智之さん。「住宅地の中にある保育園ということから、地域に親しまれる建築であることが大切だと考えました。木造であること、大きなボリュームで立ちはだからないこと、イベントなどで近隣との接触を可能にすることなどを実現しながら、狭い敷地であるネガティブな条件を反転して、段上のテラスという方法で活動領域を拡張させ、子どもたちの感覚を刺激するような保育園を目指しました。」

【駒岡げんきっず保育園】
・設  計:黒川智之建築設計事務所
・設計協力:平林政道アトリエ
・構造設計:江尻建築構造設計事務所
・設備設計:EOS Plus・ジーエヌ設備計画
・施  工:新都市建設


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16 4月, 2018

土田拓也/no.555による茨城の保育園「こばと夢ナーサリー」

土田拓也(no.555一級建築士事務所)による茨城県牛久市の保育園「こばと夢ナーサリー」を見学してきました。JR常磐線牛久駅から、水戸街道を北へ2kmほど行った場所。


敷地面積1,782m2、延床面積463m2。木造、一部2階建て。
郊外型の広大な幼稚園の敷地の一画に保育園を新築した。


既存のこばと幼稚園。1971年の開園以来4回ほど増築を重ねながら、園庭を囲むように軒下のある、幼稚園の原風景とも言える佇まいを継承しているものの、所々に無理が見られる。幼稚園や保育園は、園児の増加はもちろん、その時々のニーズやカリキュラム、或いは法律の変更によりそれぞれに適応した増改築がしばしば必要となるためだ。


そして現在は「幼保一体」という時代のニーズに応えるため保育園を新築した。


園へのヒアリングや検討の結果、今後も様々にニーズが変わっていくことが避けられないことから、大きなボリュームの建物を建てず、いくつかのボリュームに分節し、“予測不能な将来” に対してフレキシブルな対応をできるようにした。外観は既存園舎の切妻を継承しながら “家” をイメージし、園児にとって違和感のない親しみの湧く存在を目指した。


今回の計画では保育園として3棟、幼稚園付属の屋内遊戯場と、調理室の2棟の計5棟を建てた。しかし計画中も少しずつニーズが変わり、竣工段階で早くも次なる計画が上がっているという。そのため外構ももう少し計画が固まってから仕上げるそうだ。


保育園エントランス。土間は真砂土で、植栽や水飲み場まであり小さな公園のようだ。19名と少人数の保育園にとって大きなエントランスだが、保護者にとって送り迎え時のストレスフリー化に多いに役立つ。


“公園” の周囲には縁側の雰囲気。内と外を繋ぐ緩衝地帯として働きながら、幼稚園で見られる軒下でのコミュニケーションの場としても機能するのだ。
左には下足入れや、主に保育士が使う多目的室やトイレがあり、上に施設唯一の2階となる事務室がある。


植栽はちょうどトップライトの下になるように。


2階事務室。保育中はほとんど人がいないので、必要最低限のシンプルな作りに。
天井の垂木梁はLVLを用いた。


エントランスから右に進むと2歳児保育室のある棟へ。棟同士は短い渡り廊下で接続される。


2歳児保育室。左のロッカーの反対側から保護者が着替えやオムツを入れ替え、保育室側から取り出すことができる。


テーブルはオリジナルデザインで制作。組合せにより様々に変形できる。


エントランスから左側は0・1歳児の保育室、さらに奥は一枚ドアを介して幼稚園付属となり、調理室と屋内遊戯場へ接続する。
この渡り廊下も幼稚園での軒下・渡り廊下という一つのアイデンティティーとして継承した。


渡り廊下はt=10mmのポリカ板段で外の気配を感じることができる。
一見簡易的ともいえる仕上げだが、前述の “予測不能な将来” に対する備えといえる。


外からはこのように。


0・1歳児の保育室。構成は2歳児保育室と同じ。
保育園の建築では大開口を設けることが多いが、昼寝時にはカーテンで閉める必要があることや、窓に近寄ったときに外が見える、といった視界に緩急をつけるため、また "家っぽさ" を演出するためにもこのようにした。


掃き出しの開口からはテラスを介してそのまま外に出られる。


幼稚園付属の屋内遊戯場。この場所には以前屋外プールがあった。夏期にはこの空間にプールが展開できるよう、排水可能なデッキ張りとなっている。
子どもたちが大好きなプール「夏、雨天や気温が低い時にプール遊びをさせてあげられないのが心苦しい。」という理事長の強い思いで、どんなときでもたっぷりと水遊びができるようにと屋内型にした。


そのため片隅には大口径の水栓が備わり、温水も供給できる。


スパン9.1m、高さ7.6mの切妻ボリュームを無柱で実現するために、厚さ50×梁成400を2枚抱き合わせ、金物を挟み込んだ垂木梁とした。(KES構法/株式会社シェルター)
壁は仕上げ用ラーチ合板、天井は構造用ラーチ合板。床は樹脂製デッキ材を選んだ。滑らない・ささくれない・腐らないといった幼児にとっては重要な要素を優先した。


それぞれの垂木梁はタイバーで引っ張り、開きを抑制している。これにより軒桁や壁をコンパクトに保つことができた。


土田拓也さんと、担当の佐久間悠さん。
「将来的に読み切れない変化に対応すべく、意図的に規則性を排除しました。規則性が、予測できない変化の足かせになると考えた上であり、建物のサイズ、平面的な角度、屋根の角度などをバラつかせることで、将来計画されるものがどのようなものであっても、この『バラツキ』が吸収してくれるという逆転の発想です。」

【こばと夢ナーサリー】
建築設計:no.555一級建築士事務所
構造設計:シェルター
施工:高塚建設工業
こばと夢ナーサリー:https://kobato.ed.jp/nursery/

【関連記事】
平塚の住宅「SUKIMA」
土田拓也の自邸「YAMATE APT.」


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09 6月, 2016

納谷建築設計による「昭和女子大付属 昭和こども園」

納谷建築設計事務所による世田谷の「昭和女子大付属 昭和こども園」の内覧会に行ってきました。東急田園都市線 三軒茶屋駅から数分の場所。

敷地面積3,113m2、建築面積1,711m2、延床面積2,899m2。RC造+S造、地下1階、地上3階建て。
2013年、5組の指名コンペによって納谷建築設計が選ばれ、元々あった昭和幼稚園を幼保一体の認定こども園として建て替えた

キャンパス内には大学と付属の小中高全ての校舎が建ち並び、その合間を抜けるとこども園が見えてくる。


既存では2階建てであったが、キャパを多くするため3階建てに。3階建てにすることで南西に建つ園舎によって園庭が陰になりやすいので、園庭を2階に持ち上げた。中央には象徴的な大階段を配し、キャンパスとの連続性を表現。4歳児クラス以上はこの階段より2階の教室に登園する。


園舎の反対側はキャンパスの外で、近隣の生活道路に面している。


通り沿いには高さ2m近いコンクリートの壁が続いていたものを撤去し、金網と植栽で地域との親和性を持たせた。園舎も大きなボリュームが威圧的にならないよう配慮された意匠だ。


キャンパス内に戻ってエントランスへ。既存の植栽を残したり、できるだけ移植して緑豊かな外部園庭。園庭と敷地境界は曖昧で、保育園や幼稚園の常であるフェンスによる囲いがないのは、警備されたキャンパス内にあるという安全が担保された環境にあるためだ。


エントランス側のスラブは大きく湾曲しながら持ち上げられている。


メインエントランス。0歳から3歳児、職員が主に利用する。下駄箱などの家具デザインは藤森泰司アトリエが担当。


中から振り返ると、持ち上げられたスラブは北東の角に光と緑を取り込むためだと分かった。
スッキリとした開口が得られるようRCの耐力壁は建物内側に留め、外側には無垢の鉄柱(φ80~130!)が多用されている。

オープンな教員室と廊下を挟んで0歳から3歳児クラスが並ぶ。
ガラス引戸に描かれるのは「あやめ組」を表すサインで各保育室で異なる。サインはインターオフィス+粟辻デザインが担当。

ロッカーなどの造り付け家具は壁に巻き付くように、カーブを描きながら設えた。


遊び心ある引戸のカギ。(こどもには届かない)

保育室内も家具のコーナー、間接照明で丸みを出している。
照明は岡安泉照明設計事務所が担当。

1階には保育室が6室あるが、引戸を開放し3室ずつ連続させることが可能。


先に紹介した道路側にはテラスと庭があり、子どもたちの活気を街の賑わいの一部として還元される。
但し、通りの向かいは住宅ではなく付属の体育館。

教員室の裏側、園舎の中央には中庭が配される。中庭のレベルは数10センチ持ち上げられ舞台のように。
ホールはランチルームや遊戯室、午睡にも利用。



なんと、ペレットストーブが。火は危ないから設置しない、ではなく、火の暖かみや火を囲んだアクティビティを体験。




既存園舎にあったタイル壁画は流用した。
その他エントランス脇に掛けた釣り鐘や、、、

屋上の風見馬、、、

ステンドグラスは壊れないように周囲の壁ごと解体し移設するなど、何千人の卒園児達の記憶も留めている。

2階トイレ。カーテンは安東陽子デザインが担当。




4歳、5歳児クラスは各室がオープンだ。


3階遊戯室。床はフラットを考えたが、この広さでは天井高が低く感じるため床を2段下げた。それにより椅子がなくても園児が座ることができ段差が生まれた。また天井もできるだけ上げようと梁を避けて山型の天井にした。
床材はロシアンバーチ、天井はタモ。

3階屋上テラス。梁の上はガラスが張られ、雨天での利用も可能だ。


屋上テラスから。当初のプログラムでは4階建てを求められたが、園庭に日が当たらなくなることと、このような大学の校舎が建ち並ぶ環境で、小さな子どもたちの園舎では低層で伸びやかなボリュームが望ましいと提案したそうだ。


3階建てに低くして、既存園舎の色彩を再現しつつ、ダークな色調(焼き杉に塗装)の2階に白いボリューム(ガルバリウム)の3階を乗せ、さらに軽やかさを出している。


2階園庭は全面人工芝。よく見ると根元に枯れ芝まで再現してあった。


園庭の片隅には “標高1m” の小山。山頂のカルデラは砂場。この山、スラブごと盛り上がっているそうだが、1階からは天井に隠れ凹んだ状態は確認出来ない。


園庭の反対側にはなだらかな丘になっており、こちらも1mの高低差がある。


そう、この丘はエントランスに見えたスラブだ。よく見るとスラブの厚み1/3程に人工芝を回り込ませ、ぶ厚い梁成を薄く見せる配慮が。


一方は大学のキャンパス、もう一方は地域の人々が行き交う街路に面するという、異なる条件に挟まれながら可能な限り全ての人に優しくあろうとする佇まいだ。


納谷学さん(右)と納谷新さん(左)。
「このビル校舎に囲まれた環境ですが、できるだけ園庭を広く、できるだけ日が当たるように計画し、子どもたちがとにかく元気に活動できるよう、行き止まりのない動線と起伏を散りばめました。3階建てとはいえファサードの幅は50m近くもあるので地域に対しても暴力的にならないように配慮しました。」

【昭和女子大付属 昭和こども園】
設計:納谷建築設計事務所
構造:昭和女子大学 森部康司研究室 + yAt構造設計事務所
設備:設備計画
カーテン:安東陽子デザイン
サイン:インターオフィス + 粟辻デザイン
照明:岡安泉照明設計事務所
家具:藤森泰司アトリエ
施工:東急建設株式会社



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