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21 12月, 2015

木下昌大による「カナエル」新社屋

木下昌大の設計による「カナエル」神奈川西支店社屋プレス内覧会に行ってきました。
カナエルは横浜市に本社を構えるLPガス会社で、数年前より西澤明洋率いるエイトブランディングデザインによってブランディングの構築を行っており、50周年を迎えた今年、伊勢原と小田原営業所を統合し神奈川県西部の新拠点として秦野に新社屋を建設した。敷地の選定など不動産コンサルには高橋寿太郎/創造系不動産も携わる。

敷地面積1,253m2、延床面積408m2。鉄骨造2階建て。切妻のイエ型ボリュームが連続し、北側を向いた大開口が目を引く。

形態の発想は引きで見ると分かる。社屋の南側には住宅地域が広がるため、いわゆる社屋然とした箱型にはせず、"新参企業" として地域環境に配慮しつつも、地域コミュニティの拠点を目指すシンボル性とのバランスを取ったデザインとした。
また目の前の国道246号を境に手前は工業地域になっている。国道によって分断された地域の風景をつなぐ役割も担うことができるのでは、という発想も含まれる。

9つイエ型が集まり、前後左右に組み合わさり、、、

そのまま内部にまで影響し大小の空間を形作っている。

南側は採光のみの開口に抑え、住宅地域に対して開きすぎないよう抑えた。
(写真では写っていないが)北側の遠景に丹沢山系の山並みが望めるが、それらと社屋が重ね合わさるようにも感じる。奥から鍋割山、塔の岳、大山といったところか。

南側の設備機器はネットで囲われていて、いずれツル植物で覆われることとなる。これも地域住民への配慮だ。

表に戻るとファサードや看板に「カナエル iリフォーム」のロゴも見える。カナエルではLPガス供給だけでなく、リフォームも手掛けるため、社屋はショールームとしても機能する。ロゴ・マークはエイトブランディングデザインによって先にデザインされたので、マークを建築化したともいえる。

足元に目をやると、犬の足跡が続いていたので辿っていくと、、、


カナエルの「エルくん」がエントランスに入るところだった。


エントランス。四角い開口が受付でその上は2階のオープンスペース。大きな三角天井の吹き抜けを思わず見上げてしまう。


エントランスの左右にはイエ型ボリュームが重なることで生まれた、小さな白いイエ型が現れる。白いボリュームは北向きの開口から入る淡い光を反射させ空間の奥へ光を導く。
ちなみに足元に見えるエルくんはガスボンベと "L" 字がモチーフで、こちらもエイトブランディングデザインでデザインされた。(クリスマス前につきオプションのトナカイの角を装着中)

右側のボリュームの中。リフォーム関連の展示スペースになっており、"トップライト" を設け内部に採光している。


奥に進むと広めの展示スペースにはキッチンも備わり "使えるショールーム" に。内覧会のために腕利きのケータリングユニット「つむぎや」が出張し、地産の食材を使った創作料理が振る舞われた。
このスペースは引戸で外に開くことができるので、オープンにして地域を絡めたイベントが計画されている。

背後の壁など、多くの壁面の仕上げには地元の木材が使われた。内部は資料室やトイレが収まる。
またこれら内のイエ型は耐力壁でもある。

屋根勾配や交点は90度なので、設計の際ちょっとした平面の変更を、角度で吸収することができなかったので苦労したそうだ。


外、内の外、内の内などが複雑に交錯し、内外の関係がグラデーションのようにつながる。


トイレ。
シーンに合わせたエルくんのイラストが各所に描かれている。

 事務所側から。


エントランスから左側も展示室。
奥には宿直室、更衣室、職員用トイレ、倉庫など。

北向きだからこそこの大開口ができたという。南向きでは日差しの影響が強くエネルギー環境が良くないためだ。
また屋根の表面積が多いため、地下の雨水タンクに水を溜め、夏場屋根を冷やしたり植栽への灌水にも利用するそうだ。

2階オープンルーム。2階にはこのスペースのみで、当日はレセプションが行われた。

イエ型同士の隙間からは採光や、排熱も行う。

向かいの建物の奥に丹沢の山並み。


木下昌大さん(左)、西澤明洋さん(右)
「カナエルさんは業界初のガス料金をオープンにするなどの、透明性のある新しいビジネスモデルを軸にブランディングをさせて頂き、2014年にビジネスモデル部門のグッドデザイン賞も一緒に受賞しました。そして実際ユーザーと顔を合わせる新社屋も完成し、益々消費者・地域と繋がる会社になって頂ければと思います。」と西澤さん。
木下さんは「民間企業で有りながら公共性の高い企業、かつショールームとしてある程度目立つ必要もありながら住宅地域に対して違和感のないようにする、という相反する条件が求められました。敷地周辺の環境や地域性を注意深く観察し、様々に "つなぐ" 建築を目指しました。」と話す。


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15 12月, 2015

廣部剛司による目黒区の住宅「Gray ravine」

廣部剛司 (Takeshi Hirobe Architectsが手掛けた目黒区上目黒の住宅「Gray ravine(グレー・ラヴィーン)」の内覧会に行って来ました。

敷地面積79m2、建築面積47m2、延床面積87m2。木造2階建て。
外観は主張せず、周辺環境に馴染むようなグレー。

エントランスの扉を開けると、左に緩やかにカーブする壁面、そして奥の坪庭に連続する階段室が現れた。この階段室は、採光は勿論のこと、空間的な広がりや動線、空気の流れ、家族の繋がりなど様々な要件を、厳しい敷地条件の中で試行錯誤の末導かれたもの。


カーブした壁は、必要な寸法を調停するためでもあり、また外光をバウンドさせながら淡いグレーの壁に柔らかな陰影をつくり出す装置でもある。
この住宅では外壁、内壁、坪庭の壁、階段室などほぼグレーにしており、素材やものの振る舞いに合わせて微妙に濃度を変えている。


階段室は東西に抜け、日の光を敏感に映し出す「外部」に見立て、各居室はその「外部」に開くように面する。
この構成を考えたとき、かつて廣部さんが訪れたアメリカの世界遺産、渓谷の集落遺跡「メサ・ヴェルデ」を思い出したそうで、そこで名付けたのが「Gray ravine=グレーの峡谷」ということだ。


LDKの床レベルは36cmほど下げた。北側斜線の影響を受ける左側の天井高を取る目的でもあるが、同時に自然に座る場所となり、居場所ができた。
「こういった居場所が絶対的な空間の小ささを補完してくれます。」と廣部さん。

段差は境界の役割も果たす。間に見える耐力壁が丁度サッシュを隠してくれることもあり、坪庭から連続する階段室を不思議と屋外のように感じさせ、空間の広がりを生み出す。

リビング・ダイニングの壁沿いの段差は、手前側がダイニングのベンチとして機能し、そのまま延長された奥側でTV台として兼務する。

リビング・ダイニングの奥から。
天井のライティングは星空のよう。一見ランダムに見えるが、ソファー、ダイニングテーブルが置かれる位置の真上にくるよう計算されている。

坪庭にはヤマボウシが植わる。見上げると庭に面して様々な性格の開口が面しているのが分かる。
左下は浴室。


水回りもグレーのグラデーション。


浴室からはヤマボウシと、プライベートな空が望める。


2階から表情豊かな階段室を見る。右側が書斎、左側は寝室など。


書斎側にはトイレと奥に納戸も備わる。


書斎は一面が書棚。蔵書家のクライアントのために可能なかぎり書棚を設えた。


見上げるとグレーチング越しのロフトまで書棚が続く。


ロフト階。法定で可能な開口を設け、読書ができる籠もりスペースもある。右の開口は階段室に通じる。


階段室の見下ろし。まさに渓谷のようだ。


寝室側へ。手前から子供室、ウォークインクローゼット、主寝室へと続く。
床はカバの無垢材。

子供室は柱と長押だけを設えた軽めの間仕切りで、子どもの気配を感じられるように。
お子さんが二人いるので将来は分割も可能。

壁に合わせてカーブした書棚。


ウォークインクローゼットから。


主寝室。トイレと主寝室には有彩色でアクセントを付けた。奥のビンテージ照明は施主が用意したもの。

廣部剛司さん。路地を挟んで隣の家にいるように見える。
「グレーの空間は、見かけ上の光とは違う光で満たされています。そこに人が入り、大切にしているモノが置かれ、、としていくうちに、その光を受け止め、柔らかさが出てくるだろうと思っています」

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08 12月, 2015

【更新】松島潤平個展「PRISM@IC PRISMIC」

12月4日からプリズミックギャラリーで開催の松島潤平個展「PRISM@IC PRISMIC」のオープニングに行ってきました。
(※完成した状態の写真が松島事務所から届きましたので差し替えました
12/29

キラキラした状態の意味だと思っていた「プリズミック」は実は造語で、「プリズマティック」がその意味に当たる。そして「プリズム」は角柱を意味することも知り、示し合わせたようにギャラリーには角柱が存在している。
「プリズマティックなプリズムのあるプリズミックギャラリー」として自分の誤解を本当のことにしてしまおうかと考えたのが今回の展覧会の趣旨だ。

既存状態。

既存の “本物” の柱と同じサイズの “偽物” の柱をもう一つ立て、細部を見るとこれまた “偽物” であるスケール感をもった階段などが刻まれているが、柱としては “本物” のスケール。


 その意匠はネガ・ポジの関係。






 テクスチャーには金箔や銀箔に加工を施した “本物” の工芸品を、チープなスチレンボードに貼り込むというフィクション。

さらに最新のプロジェクションマップにより、「プリズマティック」な世界もつくり出す。
箔は世界的な金箔アーティストであり経済産業省伝統工芸士でもある、裕人礫翔(Hiroto Rakusho)が制作した非常に高価なものを提供してもらっている。

裕人礫翔さん。日本橋三越で開催中の個展会場から駆けつけた。
(個展は12/8に終了)


 
展覧会のDMはホログラムの箔ををプリント。光のちょっとした変化で七色に変わる。
右から左へ、カットする前、カット後、組み立てて「プリズム」になる。


10月に京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催された〈タデウシュ・カントル生誕100周年記念展『死の劇場 カントルへのオマージュ』展〉の会場構成。この模型は会場でデザインコンセプトを説明するためにパフォーマンスで使われたもの。


 長野県飯田市の〈育良保育園/2014〉 の模型は、実際に使われる仕上げ材で作られている。

 松島潤平さん。まずは展示制作がオープニングに間に合わなかったことをお詫びしつつ
「事実と嘘、本物と偽物、現実とフィクション、リアルとリアリティの間をたゆたう世界をつくりだそうとしています。ややこしいコンセプトかも知れませんが、今とても興味のあることを形にして皆さんに見てもらいたいと思っています。」

【松島潤平 個展 PRISM@IC PRISMIC】
会期:2015年12月4 - 2016年1月22日(12月25日〜1月4日休館)
会場:プリズミックギャラリー


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