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18 2月, 2018

西久保毅人/ニコ設計室による江東区の住宅「廣石さんの家」

西久保毅人(ニコ設計室)による江東区の住宅「廣石さんの家」を見学してきました。


敷地面積62m2、建築面積37m2、延床面積98m2。1階RC造、2・3階木造。
敷地は江戸時代に造られた運河のほとり。昭和になってから護岸と堤防が造られ、さらにその後運河は埋め立てられ、長細い土地だけが取り残されたような格好だ。


前面道路に17m接するも、奥行きは3.6mの敷地に、間口16m×奥行き3mの建物。通りに対して圧迫感のある「壁」にならないような佇まいを検討した。


埋め立てられた運河の上は現在区の土木事務所となっており、今回住宅を建てる際、測量したところ堤防が50〜60cmほど越境していた。この堤防を削るために調査、予算計上、承認、工事手配などなど役所側で時間が掛かり、計画開始から4年を経ての竣工となったそうだ。


1階部分はRC。通りに広く面しているので「守る」ための強さや、上階との差を付け圧迫感を軽減させる。


敷地ぎりぎりに建てることもできたが、同じく圧迫感を軽減させるために50cmほどセットバックさせた。その分室内は狭くなるので出窓を効果的に利用。


玄関は端に設けると洞窟のようになってしまうため、建物の中心に据えた。
コンクリートの型枠はラーチの荒っぽい木目を出し、それに合わせるように壁の内側もラーチで仕上げた。


反対側からも上り降りできる立体回遊型。


片側は階段というより3段のスキップフロア。上面には畳が張ってあり、子どものプレイスペースであり、読書スペースになる。


中2階にはパントリーとトイレ。ニコ設計室では色を積極的に使う。


2階へ。


2階中心にDK一体の居間。壁は内-内で2.5mしかないため、キッチン部分の両側に出窓を設け幅を確保した。


これだけ細長いと耐力壁による空間遮断の問題が出てくるが、大学で構造の教員である施主は、自ら構造設計を行った。


上棟時のカット。右は120角ながら左(接道側)の柱を240×120とし、さらに梁成600の強力な合板重複梁を3本掛けた。
これにより梁方向に耐力壁がなく、すっきりした空間をつくることができる。


キッチンからそのまま繋がる居間ダイニング。大きな梁が見えているが空間を遮断することはない。


居間を抜けるとスロープで畳間へ。


畳間を抜けるとバルコニーへ。1階から伸びたシマトネリコがいずれここに大きな傘をつくることになる。


バルコニーから。畳間は吹き抜けで3階に開口が見える。
ちなみに上部のルーバーは構造ではなく、建設中、大工さんが資材置き場として使っていたものを「吹き抜けが少し抜けすぎるのでこれいいな」と現場で決めたアイデアだとか。


中3階には水回り。


3階へ。


3階は手前に書斎兼クローゼット、奥に寝室。高い梁成を利用しスキップさせ、空間の仕切りに利用した。


外部に対して刻んだギザギザ屋根は、内部では表情豊かな空間を生みだしている。






施主の廣石さん一家(前列)と西久保毅人さん(右)、後列にニコ設計室のスタッフの皆さん。
「17mも道路と接しているので無防備な環境であるともいえます。そこで、その薄くて長い状況を、奥行きのある立体的な体験に変換し、街に接している状況を楽しみながらも、守られた暮らしを実現できのではと考えました。3階建てですが、半階毎に暮らしが展開しながら、立体的に回遊できる住まいです。」と西久保さん。

【廣石さんの家】
建築設計:ニコ設計室
構造設計:廣石秀造、森永信行
施工:大和工務店


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13 2月, 2018

シーラカンスによる横浜の住宅「HOUSE TM」

シーラカンス(改組前)による横浜の住宅「HOUSE TM」を見学してきました。東急田園都市線あざみ野駅から徒歩25分程の場所。
1994年竣工で、故小嶋一浩と共に、入所したての赤松佳珠子が初めて担当した建築だ。施主がこの住宅を手放すこととなり、この度見学の機会が設けられた。


敷地面積129m2、建築面積52m2、延床面積85m2。RC造(薄肉床壁構造)、地下1階、地上2階+屋上。
右の階段を上って増築された玄関を現在は使っているが、当初は地下右手の扉が玄関だった。


当初の玄関から。スタッコ仕上げのブルーの壁が天井まで伸びる。


玄関の左は地下室で、24年のうち様々に用途が変わってきた。二人のお子さんは既に独立し、現在はあまり使われていない。


1階LDKに上がると今度はシルバーの壁が現れた。2層の吹き抜けだが、正面上のモルタル仕上げの部分は寝室が木造で増築されている。増築などの改修は建築関係の仕事をしているご主人自ら手掛けた。


ポリカーボネート中空板のトップライトと、筆者背後の全面開口により非常に明るい空間だ。


オリジナルでは空間の対角まで見通せる大きな気積。右上2階は同じくポリカで仕切られた和室。木漏れ日のようにランダムな光がそこかしこから差し込んでいる。
(photo: CAt)


振り返って、大開口の先は住宅街の通りに直角に面しており、視界が遠くまで抜ける。


過去に掲載された誌面を広げながら説明して下さった赤松さん。平面はジグザグになっている。また大きな壁面が象徴的に感じられるよう3面を塗り分けた。

薄肉床壁構造。構造部である薄い壁・床(天井)と、その間をさらに半分程の厚みの薄い壁で塞ぐようなかたちだ。薄い部分は要所要所で開口とし、建物の隅々に外光が行き届くよう工夫されている。


縦スリットの足元は地下にとってトップライトとなるよう、1階の床7ヶ所に開口が設けられている。


当日ダイニングテーブルには、この住宅の掲載誌が多数並んでいた。


キッチンもRC。シンクやガステーブルを入れ替えた際に天板に大理石を張ったそうだ。左上のレンジフードはオリジナルのまま。
キッチンの背後は水回りになる。


上部の棚は後ほど取り付けられた。


水回りはギザギザ平面から矩形が飛び出すような形で、キッチンと合わせて2階の居室の下になる。打ち放しの浴室が四半世紀でどのような経年変化をするのか、設計者にとっては興味深いのではないだろうか。(かなりきれいだ)


ダイニングと階段室は一枚の構造壁で隔てられる。階段室は全面トップライト。階段を上がると洗面台とその隣がトイレ。


扉の向こうはオリジナルの居室(キッチンと水回りの上)でご主人のお母さまの部屋。その右手に増築したご主人の寝室と、ちらりと見える階段は屋上へ通じる。


寝室。大きな三角形のトップライトはかつてダイニングを照らしていた。


屋上へはハッチを開け出入りする。ハッチもトップライトとして機能するよう透明する計画であったが、性能面やコスト面から今のものになった。


キッチンの脇から見上げるとこのように光が導かれる。グレーチングの階段で十分な光を落とそうとする場合、この位目の粗いグレーチングが必要なようだ。


屋上は緑化仕様で、数年前まで芝が生えていた。竣工から2年間、東工大の屋上緑化による実験のモニターとして、緑化による室内温度のデータ取りに協力していた。その効果はてきめんだという。


竣工当時の同じカット。造成されたばかりの敷地が牧場のように広がる。
トップライト部の上に突き出す円筒は、屋外から照らす室内照明だ。
(photo: CAt)


ダイニングの片隅から地下へ。ハシゴのような急な階段。


地下は子供部屋。子どもが小さいうちは親子4人の寝室として使っていたが、子どもが大きくなってから2室の子供部屋をつくった。
扉がポリカだ。


部屋を抜け見上げると3層の吹き抜け。空気循環用のパイプが通してあり、冬は上層の暖かい空気を地下まで送り、夏は下層の涼しい空気を上に送り循環させる。科学応用冷暖研究所の髙間三郎さんのアドバイスで、逆回転できるパイプファンを取り付けている。
ポリカの扉はこの光を部屋に取り込むためだと分かった。


納戸を回り込んでもう一つの子供部屋。


1階で説明した床に開いたトップライトから光が差し込む様子と、構造がよく分かる。


そして最初の表に面した部屋に通じる。


一度外へ出て現在の玄関へ。階段状に植え込みが4段連続する。


玄関。正面の扉部分は庭に面した大きなガラス窓だった。


当時の施工の様子を探るCAtの皆さん。


赤松佳珠子さんと、施主の戸松俊さん。
「新人の赤松さんは初めての担当プロジェクトで張り切っていたのか、毎日のように現場を訪れ、真っ黒に日焼けしていました。」と戸松さん。

「建蔽40%の敷地で延床が85m2くらいしか取れませんでした。そこに家族5人がのびのびと過ごせるためには敷地に対してどのように置くかが重要でした。ジグザグの平面は外部に坪庭のような空間を生み、そこを内部の延長に感じられるようにし、かつ部屋の中に死角をつくり、同じ空間で別々に過ごすことが窮屈にならないよう目指しました。」と赤松さん。

なおこの住宅は仲介業者を介して、建物ごと売りに出される予定。「シーラカンス作」ということで解体せずにどなたかに住み続けて欲しいものだ。

【HOUSE TM】
設計:シーラカンス
構造:TIS&PARTNERS
施工:親松工務店

【関連記事】
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