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23 9月, 2017

「SDレビュー2017 入選展」レポート

9月13〜9月24日まで開催の「SDレビュー2017 – 第36回 建築・環境・インテリアのドローイングと模型の入選展」に行ってきました。会場は代官山ヒルサイドテラスF棟。
[The 36th Exhibition of Winning Architectural Drawings and Models]


SDレビューは、実現見込みのないイメージやアイデアではなく、実際に「建てる」という厳しい現実の中で設計者がひとつの明確なコンセプトを導き出す、思考の過程を、ドローイングと模型によって示そうというもの。


飯田善彦、千葉学、江尻憲泰、乾久美子を審査員に、15の入選作品が選ばれ、本展を2次審査として「鹿島賞」「朝倉賞」「SD賞」「奨励賞」の各賞を選定するが、本年は奨励賞の該当はなかった。

【鹿島賞】

〈Project in Santiniketan/インド・シャンティニケタンに同志を募って家を作りに行く〉
佐藤研吾(In-Field Studio)


インド・ベンガル地方郊外シャンティニケタンの住宅。インド人の施主はかつて日本に住んだこともあり、自分の故郷に「日本の家」を作るのが夢だと言う。すでに小さな敷地を購入して草木生い茂る秘匿の庭を用意していた。「日本の家」とは何か。正直うんざりもするこの茫洋な問いかけに安々と答えが出るはずもないが、自分が日本からインドへやってきた以上、避けられないことだとも痛感する。

【朝倉賞】

〈鹿手袋の保育園〉
藤野高志+郡司絵美+藤野なみか+真沢直樹+森田達也(生物建築舎)


さいたま市の保育所。敷地内で完結させず、周囲に建つ施主所有の幾つかの建物と連携しながら、子育て世代が暮らしやすい地域環境を目指す。園舎は1枚のコンクリート板で上下に分かれ、大きな穴で繋がる。屋根の上は人工的な丘で、見晴し台で、ときどき観客席である。屋根の下には、鉄骨柱、樹木、塀の支柱、パラソルなど、様々な垂直線が3m間隔で規則正しく林立する。そのリズムは水平に反復し、保育園、カフェ、近隣の街並みへと、意識を外側へ向かわせる。

【SD賞】

〈運動と風景〉
坂牛卓(O. F. D. A. 、東京理科大学)


東京神楽坂の住宅。各層は緩やかな階段で結ばれて、その途中にはいくつかの孔が穿たれており上下左右の隣接する室、テラスの緑、空に開かれている。階段を介した上り下りは住人の思索の時であり、その途中で孔から飛び込む風景に時として覚醒しさらに深い思索にはいりこむ。


〈西大井のあな 都市のワイルド・エコロジー〉
能作文徳+常山未央(能作文徳建築設計事務所+mnm)


東京品川区の住宅兼仕事場。中古ビルをリノベーションし、コワーキングが可能な仕事場、2階は民泊利用もできる宿泊スペースなどのフレキシブルなゲストルーム。3階は家族のリビング、4階は夫婦の寝室などがある。スラブに穴を開け、空間や光、熱の循環をさせる。


ツギテプロジェクト
大島奈緒子+与語一哉(ようび建築設計室)


岡山県西粟倉村で約10年前に起業し、2016年1月に火災で失われた家具工房「ようび」の再興プロジェクト。


〈Tの家〉
佐々木勝敏(佐々木勝敏建築設計事務所)


愛知県豊田市の住宅、地域交流スペース、ギャラリー。個人住宅の一部を開放し、街の余白となる庭など建物内外の使い方から街に開かれた住宅を計画。T型架構を等間隔に並べ床には梁を用いず50mm厚の板を使用。板材を水平垂直に並べながら構成していく様は建築より家具に近い。


〈三つの屋〉
李ヘドゥン+崔 在弼(o. heje architecture)


韓国天安市の住宅。都市で別々に暮らしていた夫婦とその子供たち、彼らの両親の3世代が田舎への移住を計画した「共に集まって住める家」。 しかし親夫婦と子夫婦はすでに長い間離れて暮らしており、それぞれ異なる価値観を持っていた。この3世代の同居は、多くの時間と空間を共有してきた過去の大家族とは本質的に異なっており、私たちは、現代社会型の大家族の暮らし方としての家を考えることとなった。


〈屋根上の休憩所〉
大井鉄也(大井鉄也建築設計事務所)


滋賀県長浜市のパン工場の休憩所。パン工場とまちとの接点としての建築のあり方を考えた。里山に向かって、まちや集落にグラデーショナルに溶け込んでいくような空間ができないかと考え、段床の空間が生まれた。


〈斜面と水平の関係 ―デッキプロジェクト―〉
魚谷剛紀(Uo. A)


神戸市の住宅。ゴルフ場の跡地を宅地開発によって再整備した場所。建築可能な平地は上部に2m程しか残らず、敷地の多くは斜面となっている。斜面と水平がつくる副産物として現れる、擁壁や床下空間といった余地を積極的に迎え入れることで、斜面での暮らし方に延びやかな新しい関係を示したいと考えている。


〈バンブーのトンネル〉
陳 建同+魏 書蘋(與木製研+層遞設計)


台湾固有種の桂竹を使った臨時施設、屋外カフェ、様々なイベントと合わせて使用機能が変化するパビリオン。施工と移動の利便性から、建物は3つに分割し多様なレイアウトが可能。イベントに応じた設えにより人を集め、活動を誘発する。


〈ドイツの「耕す」人の家〉
山﨑健太郎(山﨑健太郎デザインワークショップ)


ドイツ、カッセルの住宅。「働きながら自然と共に生きることのできる家」というクライアントの希望に、「耕す」ということを提案した。材料はできる限り自然に存在するものを使うことで、人間と自然との一体感を高めている。時間をかけて作る版築の壁は時間の概念を建築に取り込み、土地と居住者の結びつきを一層確実なものにする。環状のプランの真ん中に置かれた光庭はワイルドビオトープと名付け、ここに暮らす人々が耕すプロセスを日々体感できる場所になる。


〈残山剰水 山の再生を託されたゲートハウス〉
緒方洋平+李 光赫+田村 正(日建設計)


韓国ポチョン市の山中の会員制リゾート施設。福祉介護施設の建設が進んでいたが、リーマンショックによって事業計画が破綻し、建設途中の建物躯体が利用されることなく打ち捨てられていた敷地の地形、植生、環境、風景を尊重し、山を再生する計画。




〈漁師食堂 やまとうみ〉
石垣 充(西日本工業大学石垣研究室)


福岡県東部、京築地域の小さな漁港の、漁師食堂、海産物直売所、地域交流施設などの拠点機能の提案。「網干(あぼし)」という歴史的情景を意匠として取り込んだ三脚フレーム構造が連立し、菱形面格子のカーテンウォールを纏う。


〈真鶴出版2号店〉
冨永美保+伊藤孝仁(tomito architecture)


神奈川県真鶴町の宿泊施設・物販店舗・事務所。民家を改修し、「旅と移住の間」をコンセプトとする宿とキオスクを計画。買い物客、1泊2日の観光客、1ヶ月滞在する移住希望者、周辺住民といった、多様な時間感覚が重なる場所において、建築が持つべき質は何か。建築とランドスケープを一体的に設計することを通して、ひと繋がりであり多重心的である場をつくることが、心地よい距離感を生むと考えた。


〈山のなかの離れ〉
南 俊允(南俊允建築設計事務所)


長野県山中の住宅・宿泊施設(※時代により変遷予定)。過疎化の進む温泉地の温泉旅館の経営者家族の住まいと離れの計画。さまざまな特徴をできる限り拾い上げ、その中に、その都度家族が必要とする居場所をつくっていく。そこに建物ができ、人の営みが加わることで、その場にあった自然がより魅力的に感じられるようになること。一度に新しい離れや住まいをつくるのではなく、家族と旅館の変化に合わせ、時間をかけて場所をつくっていくことを目指す。




【SDレビュー2017 – 第36回 建築・環境・インテリアのドローイングと模型の入選展
東京展
 会期:9月13日~9月24日
 会場:代官山ヒルサイドテラスF棟、ヒルサイドフォーラム
京都展
 会期:10月2日~10月29日
 会場:京都工芸繊維大学 美術工芸資料館



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22 9月, 2017

マニエラ建築設計による芦屋の住宅「三条町の家 II」

大江一夫+てるみ+泰輔/マニエラ建築設計事務所による芦屋市の住宅「三条町の家 II」を見学してきました。


敷地面積643m2、建築面積153m2、延床面積195m2、鉄骨造2階建。この地域ではおなじみの急峻な住宅地。東面は谷側に向いて大きく開口している。


列柱によって持ち上げらた2階とその佇まいはサヴォア邸を彷彿させる。
右奥に続いていく石積みとコンクリートの擁壁は既存のもの。


接道からは来訪者を招き入れるような塀が特徴的。


アプローチからエントランスへ。450φのスチールパイプ8本が2階を支持している。


エントランス。1階はほぼ全てガラスで囲われ、その外側半分には水盤が広がっている。


1階はエントランスホールであり、アートのコレクターである施主のアートギャラリーでもある。(工事中のため一部資材があります)


水盤を結界としてギャラリー空間を別世界のように演出。ガラスはイメージとしてはないもので、1階をピロティーとて捉えているようだ。
正面のボックスは下足入れだが全体の浮遊感を壊さないように設えてある。
透明感を実現するためにシングルガラスの採用に理解を示した施主。


水盤の外側、外構には植栽が施されるため、完成時はかなり違った雰囲気になる。シンプルな螺旋階段で2階へ。


2階LDK。東を向いた大開口からは西宮や大阪湾を望むことができる。キッチンの背後に納戸、寝室、水回りと続く。


リビングを挟んだ反対側には客間。床はタイル貼り、右手にはテレビなども納まる収納が、片側一面に設えてある。


客間は6帖の和室が2室。


二人の娘さんが孫を連れて泊まりに来られるよう考慮した。


客間用のトイレ。


夜は芦屋の夜景を眺めながら料理できる。


デッキ貼りのバルコニーは1.8mの出幅で、長さは20m以上ある。


バルコニーを突き当たりまで進むと細長い敷地の奥に庭が現れた。バルコニーから降りられるようになっており、レモンの木植わり、芝生が敷き詰められた憩いの場として、家族でのBBQやお孫さんの遊び場となる。


バルコニーに面して浴室や寝室なども並び、全ての室がこの眺望を享受する。

「アートがお好きなお施主さんはギャラリースペースを望まれましたので、思い切って居住空間と切り離すような異なる世界観を作りました。外のような1階のギャラリー空間を横切り、螺旋階段で2階に抜けてくるようなシークエンスです。」
「敷地はかなりの高低差があるので、下から見上げたときに重くならないように浮遊感を持たせ、このロケーションを重視した開放的な住まいを計画しました。」と大江一夫さん。


現在大江一家は二世帯の自邸を建設中。西宮の事務所から50mほど離れて芦屋側の高台だ。


1月の完成が楽しみだ。


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