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25 12月, 2018

相坂研介による世田谷の「上北沢の住宅」

相坂研介(相坂研介設計アトリエ)による東京都世田谷区の住宅「上北沢の住宅」を見学してきました。


敷地面積150m2、建築面積89m2、延床面積246m2。RC造、地下1階、地上3階建て。
打ち放しの塀に囲まれながら、内側の住居棟が守られているような外観だ。


裏側も同様に塀が囲む。こちらは塀に開口を設けてあるが、単なる意匠ではないようなので、中でどのような効果があるのか確かめてみたい。
屋根にはソーラーパネルが見える。


横スライドのシャッターを持つガレージ。厚い塀の重なり部分にステンレスの門扉。
施主は防犯、防災、そして災害時の備えに対する意識が非常に高く、それらの設備や要件を満たしながら設計が進められた。


門扉を開けると中庭。完全なプライベート空間にバスケットゴールが据え付けられている。
塀は3.6mから螺旋状に5.8mまで高くなっていく。


ガレージには電気自動車用の充電器が備わる。

将来、ご主人の両親と二世帯住宅になる予定で、段差のないバリアフリー動線や、エレベーターを備えるなどした。


主寝室。1階には寝室が二つあるが、共に室内用シャッターが付いている。さらにガラスはフィルムを挟んだ合わせガラスだ。


裏手の塀の内側にも中庭があり、今回新たに井戸を掘った。この辺りは比較的容易に井水が出るそうだ。井戸は普段は電動ポンプで汲み上げ、非常時のために手動ポンプも。
塀の開口は防犯上、当初無い予定だったが、それでは暗く通気も悪くなるため、ステンレスの横格子を付けた上で開けることとなった。
横格子は杉板型枠のピッチに合わせてある。


そしてこちらはシェルターの入口。
元々納戸として計画していたが、計画中に某国の弾道ミサイルが日本上空を飛び回っていたこともあり、折角なのでシェルターとしても使えるようにスペックを切り替えた。


中は10帖程の広さ。一家が最低1週間は過ごせるような備蓄を進めるそうだ。


核・生物・化学兵器に対応したイスラエル製の高性能フィルター。非常時にはフィルター(金色のもの)を左のダクトに接続し、黒いチューブと接続。電源入れると、フィルターを通した外気が入り正圧状態になり、部屋の反対側にあるダクトからワンウェイで排気する。停電時には手動ポンプでも空気を取り込むことができるそうだ。


浴槽はなんと二つ。二世帯だからかと聞くと、一方は水風呂用だそうだ。
手前、お湯を張る浴槽からは三つめの庭が望める。盆栽が置かれる坪庭だ。


階段は細めのスチール材で軽快なデザインに。踏み板にはサイザル麻を巻き付けた。


2階LDK。親戚が20人近く集まることがあるので、折りたたみのテーブルが複数並べられるよう広々とした空間。
右手のキャビネットには観賞魚の水槽が置かれる。


一角に畳スペースと神棚・仏壇・押入。和室を作り込んでしまうと、後で自由が効かなくなる可能性があるので、畳は敷くだけにした。
左は子どものスタディーコーナー。


DK上部には3階のガラス床が口を開ける。ほぼ吹き抜けのような効果で開放感が得られ、3階からハイサイドライトのごとく光が良く入る。


奥さまのメインステージであるキッチンからは、3階の子どもフロアや、階段の上り降り、リビング、スタディーコーナーなど子どもの様子がよく見える。
天井の折上げ部分には間接照明が仕込まれている。


3階のガラス床はフリースペースに開いていた。
床はオーク材。


振り返ると子ども室が二つ。実はこの住宅、施主主導による風水で間取りの多くが決められており、水回りの位置はもちろんのこと、奥の子ども室の扉は左右対称に並べてはいけないなど細かな指定もあったそうだ。

「敷地外周を塀で覆い、中央に容積を最大化する3階建てを置きました。外壁と建物の間に用途の異なる3つの庭を形成しながら、開放感も確保。防犯・耐震・耐火、非常時を想定した太陽光発電や井水設備、さらにNBCフィルター付きの地下シェルターまで設けて『家族を守る』という強い意志を、さりげない外観に閉じ込めました。」と相坂研介さん。

【上北沢の住宅】
設計監理:相坂研介設計アトリエ
構造設計:金箱構造設計事務所
施工:三浦工務店


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19 12月, 2018

arbolによる練馬区の住宅「8 HOUSE」(ハチハウス)

堤庸策+堤円佳/arbol(アルボル)による東京都練馬区の住宅「8 HOUSE」(ハチハウス)を見学してきました。
大阪をベースにするarbolが、東京で初めて手掛けたプロジェクト。

敷地面積83m2、建築面積41m2、延床面積86m2(容積対象延床面積:74m2)。木造2階建て。
第一種低層でかつ上記のスペックに、家族5人と、親世帯2人の計7人が住まう二世帯住宅だ。(来年もう一人生まれ8人に)
「はじめ電話で依頼内容を聞いたときは聞き間違いなのかと思った。」と堤さん。聞き間違いでないことが分かり、非常に難しいプログラムで挑戦しがいがあるプロジェクト、"それでこそ建築" と思い引き受けたそうだ。
ちなみに「8 HOUSE」(ハチハウス)とは施主の名前に「八」があり、ファサードのデザインが「8」の字を描いているのをはじめ、構成に「8」の字を用いているためだ。

 ガルバリウム鋼板の波板は外壁だけに留まらず、柱や梁にも巻き付けた。
法定建蔽率50%ながら敷地一杯に建っているのは、2階バルコニーがデッキ張りでスリットを開け、雨が落ちるようにしたためガレージ部分の多くが建蔽に算入されていないため。

役物を使わずに曲げた角に合わせ、笠木にもRが付けられている。
そして気になる開口部はテント膜が張られているのだ。

二世帯だが玄関は一つで引戸で出入り。8人住まいの玄関としてはかなり小振りだ。正面が浴室で二世帯の共用部としてスポット一灯で象徴的な空間とした。

1階は親世帯。収納を兼ねた大きなテーブルがDKの中心に据えられる。
右奥がお母さん、左奥がお父さんの寝室。

お母さんの部屋。専用の洗面ボウルが備わる。

表の植栽やこの中庭は、大阪のグリーンスペースが担当した。
テント膜はこちらにも使われており、塀で覆われた硬さがなく、光も透過するので圧迫感を軽減している。

2階LDK。6人で暮らすストイックだが、細かなルールを設けながら緻密にデザインされた空間。床の目地や柱、家具の位置、建具や収納の幅・高さなどお気付きの点があるだろうか。

1階に見えた中庭は、2階でも光を取り込みながら、空間に緑を添える重要な装置だ。
左の壁に沿って、設備を並べ空間を有効利用。奥が主寝室となる。
個室はコンパクトにし、LDKをできるだけ広く取り家族がいつも顔を合わせられるようにした。右の壁にテレビ代わりにプロジェクターを投影する。
壁・天井はマーブルフィールの左官仕上げでしっとりとしている。


オールステンレスのキッチン。Mieleの食洗機と、施主が選んだKOHLERの水栓。
キッチンの左に洗濯乾燥機が納まり、その上の戸の中が物干しスペースになる。物干しスペースの中には窓もあり、24時間換気の吹き出し口もある。


主寝室。ダブルベッドを置いてプラスアルファの広さ。

幅3mある古材の天板を使ったダイニングテーブル。脚の部分は製作で1階同様収納が備わるテーブルだ。
良く見るとダウンライトが対角線を結ぶように配置されている。


リビングスペース側。洗面室は設けられないので、洗面台がリビングスペースに露出している。奥に子ども室。

子ども室。下に中学生のお兄ちゃん、上に小学生と幼児の女の子が寝るという。一応ロールスクリーンを用いてプライバシーを確保できるようになっているが、数年後いよいよ手狭になった場合は、ガレージ横のスペース(この部屋の下)に離れを作ろうかと施主は考えている。
筆者の左手前に小さなクローゼットがあるが、このご家族は基本的に非常に物が少ないコンパクトな生活をしているので、この計画が成立するのだ。

バルコニー。サッシュはスチールの製作で黒皮塗装がされている。
不思議なもので、テント膜で覆われていると隙間があることと物理的に薄いためか、閉鎖感がとても少ない。

「今回の条件は、第一種低層、二世帯住宅、ガレージ付き等と制約がある中で、間口6m、奥行き13m、の敷地を1650×2500グリットで区切り、立体で考えることにより設計の糸口が掴めた気がします。」と堤庸策さん

【8 HOUSE】
設計監理:arbol
構造設計:土屋設計
施工:栄港建設
造園:GREENSPACE


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06 12月, 2018

田根剛による会場デザイン「CITIZEN “We Celebrate Time” 100周年展」

12月7日より南青山のスパイラルガーデンにて開催される、田根剛が会場デザインを手掛けた「CITIZEN “We Celebrate Time” 100周年展」のプレス内覧会に行ってきました。


展覧会概要:
「シチズンは、1918年に創業し、今年100周年を迎えました。シチズン時計の100年の歴史と、これから向う未来、そして、ここにある『今』、私達を取り巻く全てを祝福し、喜びと感謝をより多くの方々と共有するために『CITIZEN “We Celebrate Time” 100周年展』を開催いたします。
6年に渡り『時とは何か?』を共に問い続けてきた建築家の田根剛氏(Atelier Tsuyoshi Tane Architects)と、シチズンの時計メーカーとしての信念を表現する展示空間を、好評を博した2014年に引き続き、スパイラルガーデンにて展開します。
シチズン時計が考える、時間と時計の『今』を是非ご覧ください。」


〈LIGHT is TIME – We Celebrate Time ver.〉
メインのインスタレーションは恒例の、シチズンの腕時計の基板による。


その基板を今回は72,000個使用した。72,000という数字は2014年に同じくスパイラルで開催した際の入場者数であり、時間の単位12の倍数だという。
見る位置が少し変わると幾何学的な模様が無限に現れる。


今回現れたのは、この刀でズバッと切ったように見えるアングルだ。


直線が消失点に向かっていくような見え方も。


会場に行くと分かるのだが、今回は斜めの円の連続による表現かと思いきや、写真のように四角形が斜めに配置されたのが最小単位で、これらの連続をスパイラルガーデンの円に沿って並べたとのこと。
幾何学(矩形)という基本形は実は使いたくなかったと明かす田根さん。ちょっとした狂いが簡単に目立ち、ごまかしが効かないためだ。
しかし時計作りに精密な調整=チューニングは不可欠。この展示でも精密さを表現するためにも挑戦したという。


中央には「Watch is a product that has a life. – 時計は生命を宿した製品です。」と書かれた台と、周囲に60個のムーブメントが並ぶ。
人間が作るプロダクトで、人間の意思に関係なく、一度動き出すと壊れるまで(或いはエネルギーがなくなるまで)動き続ける時計は、一種の生命のような存在ではないか、という表現。


固定されずに置かれただけのムーブメント。自分の力で小刻みに動き続けている様は確かに小さな生き物のようだ。


〈Synchronized Time〉
20世紀は時を進め、時間を効率化、未来を予測し、時代を推進してきた。グローバル化の時代、地球の裏側でも同じ時間が瞬時に共有される=シンクロニシティとして、同じ1秒という単位で様々な出来事を切り取った。






エスプラナードではシチズンのもの作り、歴史などを紹介。

田根剛さん。70時間連続の設営作業だったそうだ。
「シチズンさんとは、こちらから一方的な提案ではなく、何度も何度も時間を掛けながらワークショップを繰り返しながら練り上げていきました。時を正確に刻む、そのための技術がどれだけ凄いことであり、その "時" がどれだけの意味を持つのか、当たり前のことを美しく表現しましたので、是非実際に会場にいらして下さい。」

【CITIZEN “We Celebrate Time” 100周年展】
会場:スパイラルガーデン(東京都港区南青山5-6-23)
会期:12月7日~12月16日、11:00~20:00(※会期中無休)
詳細:https://citizen.jp/100th/event/spiral/index.html

連携企画
【田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building】
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(新宿区西新宿3-20-2)
会期:2018年10月19日〜12月24日
詳細:https://www.operacity.jp/ag/index.php

連携企画
【田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Search & Research】
会場:TOTOギャラリー・間(港区南青山1-24-3)
会期:2018年10月18日~12月23日
詳細:https://jp.toto.com/gallerma/ex181018/index.htm


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05 12月, 2018

ニコ設計室による杉並区の「麻生さんの家」

西久保毅人/ニコ設計室による杉並区の「麻生さんの家」を見学してきました。


敷地面積120m2、建築面積51m2、延床面積88m2。木造2階建て。
旗竿敷地に建っており、長いアプローチの先に丸いたたきのポーチと、斜めに角度を付けた玄関が出迎える。


洗い出しの土間が納戸まで連続。沓脱石がアクセントに。


1階はLDKと水回り。積極的に色を使うニコ設計らしい空間が広がる。


DKの上は天井が下がり、リビング側は天井が高めで南北に開口が設けられ開放的だ。
当日は吉祥寺の亀岡珈琲さんがコーヒーを振る舞い、部屋中がコーヒーの香りに包まれていた。




土地を購入した際いくつか既存の庭木を残し、縁側のようなデッキを設えた。
軒には一部穴を空け、光を取り込みながら借景の緑がよく見えるようにした。


階段の下に犬か猫の部屋を作ってあるのかと思いきや、ルンバ(自動掃除機)の部屋だそうだ。


2階は1階とは対照的に細かく部屋に分かれている。階段室の上には足を垂らして座る書斎で、ニコ設計の住宅ではしばしば登場する人気のプランだ。




温もりある仕上げのトイレ。スペースのない場合は無理をせずタンク式を採用。


寝室。暫くはここで家族皆で布団を敷いて寝るという。右側に予備室がもう一部屋ある。そして1階の天井が下がっていた部分は、2層にしてロフトを設けた。レベル操作をすることで多くの居場所が生まれている。


下段は客間としても使えるフリールームで、左の寝室とは引戸で仕切ることができる。奥のにじり口から先ほどの書斎に通じる。


階段室なのか書斎なのか曖昧な空間が面白い。


西久保毅人さん(右)と、ニコ設計室の皆さん。昨年から事務所に在籍するフランス人のマリオン・コンラディさんが初めて担当した。

【麻生さんの家】
設計監理:ニコ設計室
構造設計:筬島建築設計事務所
施工:宮嶋工務店


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