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23 6月, 2018

浅利幸男による立川の集合住宅「拳山荘」

浅利幸男(ラブアーキテクチャー一級建築士事務所)が手掛けた東京 立川の集合住宅「拳山荘」の内覧会に行ってきました。場所は立川駅より徒歩8分ほどの住宅地。


地上3階建て、木造。建築面積293m2、延床面積706m2。木造3階建て、18住戸からなる長屋。
敷地は二面接道するL字型で、既存のケヤキとコブシの大木を活かしながら、街に緑を還元する集合住宅として計画され、この東側と、、


こちら北側の接道まで、地域に開かれ自由に往来できる散歩道(庭)を通した。左が既存のケヤキ。


散歩道は敷地内に3本通され、それぞれが棟の間のトンネル状通路で繋がれている。


そして建物も散歩道とそこに植わる植栽と積極的に干渉し、絡み合うよう複雑な平面と立面を形成している。


散歩道のデザインは庭園美術家の長崎剛志/N-treeが担当した。
中木の植栽は枝垂れるように植えられ、散歩道を覆い、地面は石や三和土によって、あえて不陸を演出しながら蛇行する。




既存のコブシを中心に緩急を付けた植栽と、何年も前からあったような石畳があたたかい雰囲気を醸し出している。


敷地を縫うように散歩道。




左のピロティは駐輪場。


建物は凹凸の外壁面と、12本の外階段が複雑に錯綜しながら、庭と渾然一体となった風景をつくっている。


迷い込んだ近所の住人。


見上げると面白い風景が現れた。


1階からはどこも庭が近い存在となる。専有部とは軽やかな手摺で仕切られており、布団を干す際にも使えそうだ。




樹木医に治療されたケヤキとコブシが再生し、植えられた木々が成長し、数年で全く違う風景を見せてくれるだろう。


左から担当の石毛正弘さん、浅利幸男さん、長崎剛志さん。
「賃貸集合住宅の過剰供給は無秩序な街並を助長しやすいですが、逆に賃貸集合住宅をつくることで、スプロール化した街並を修復できればと考えました。立川駅の喧噪や人工的さとは対照的に、穏やかで緑豊かな温泉旅館のような風情を与えた街づくりです。」と浅利さん。

【拳山荘】
設計:浅利幸男、石毛正弘(ラブアーキテクチャー一級建築士事務所)
   須賀茂幸(元所員)
作庭:長崎剛志(N-tree)
施工:吉田工務店


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18 6月, 2018

能作文徳×常山未央による自邸兼事務所「西大井のあな」

能作文徳(能作文徳建築設計事務所)×常山未央(mnm)による品川区の自邸兼事務所「西大井のあな – 都市のワイルドエコロジー」を見学してきました。横須賀線 西大井駅、もしくは浅草線 馬込駅から徒歩10分程の場所。


1986年竣工の鉄骨造住宅を中古で購入し、1階を自身達の設計事務所、2階を民泊、3〜4階を自宅として使う(延床面積154.8m2、事務所42.7m2)。リノベーションのために一部を業者に解体してもらい、その後生活しながら自身達で考え施工していくという。
子どもがケンケンやゴム跳びをして遊びそうな私道と、奥には横須賀線と新幹線が通る。


1階にはシャッターと壁があったが取り払い、事務所を2面開口とした。
左は既存の門扉のまま手付かず。外階段で2階へ上がる。


コーナーの鉄骨はコンクリートで被覆補強した。その際型枠の内側にダンボールを貼って表情を出したが「表層の紙がうまく剥がれなかった。」と笑いながら話す能作さん。


事務所。まだ施工中と事前に聞いていたが、想像以上に未完。しかしスタッフやインターンが仕事をしている。


左を向くと解体後そのままになっている配水管、給水管と水栓、コンセント、天井・壁裏の配線も露わ。


それでも少しずつ完成に向けて作業は進んでいるそうで、例えば鉄骨を被覆しているロックウールへの飛散防止塗装、床板張り、一部断熱材施工、、


コーナーの開口部と打合せスペース(ベンチは仮)などがとりあえずできたので、2階から事務所機能を降ろしてきた。
筆者が立っている位置にキッチンカンターを取り付ける予定。引越後、近隣にパン屋がないことが判明し困っているので、ここでパンを焼いて販売しながら地域との接点を設けるというアイデアも温めているそうだ。


仕上げ用のフローリングが片隅に積んであるが、これは展示会場で使われた廃材利用。コンプレッサーも購入したので吹き付け塗装などもDIYする。
床と天井に穴が空いているが、床は既存の地下室に通じており、模型やサンプルの収納に重宝する。そして天井が「西大井のあな」だ。


見上げると4階まで通じており、光が落ちてきている。この「あな」を中心に本リノベーションプロジェクトは形作られていく。


2階へ。


2階では「あな」がその全貌を現しはじめる。


和室と解体痕のコントラスト。
玄関のタイルや上がり框、廊下の床板を剥がし "土間" として拡張。廊下と階段の境に壁があったが取り払い、広くなった床に「あな」を空けた。


リノベーションやリフォームの現場でよく目にする壁や床と乱れた配線だが、通常と大きく異なるのは天井に穴が空き、ブレースが姿を現していることだろう。


下は事務所とダイレクトに通じている。当然誤って足を踏み外せば落下することになるため手摺を設置する予定だが、既にこの状態で数ヶ月経過している。


二間続きの和室はまだ既存まま。海外の友人が遊びに来た際に既に泊まってもらったそうで「面白い!」と好評だったそうだ。
いずれAirbnbで民泊にすることなどを計画。左奥(玄関入って左手)にシャワー室を設ける。


階段を見上げると4階のトップライトが見えた。薄暗い2階に光や空気が通り抜けるという意図は良く伝わる。


3階へ上がる途中、床の断面がよく見える。床スラブはデッキプレートにコンクリートを流したコンクリートスラブ。隙間に新聞紙(中空材の代わり?)や、二重床の施工は当時の職人の愛嬌だろうか、、、


ここまで見て、この建物は施工中で1階の事務所のみが機能していると思ったら大間違いだ。能作・常山夫妻は完全にここで生活し仕事をしているのだ。


4面に開口がありとても明るい。剥がした天井から配線やシーリングライト、コンセント、ブレーカーパネルまでもがぶら下がり、カーテンもないが、すっかり慣れてしまい特に不便を感じないという。
ただし、これで完成ではなく徐々に仕上げている途中だ。(いつ完成かは分からないが)


この辺り既存では、2階同様階段に接して壁が立ち、キッチン横の床が広く、洗濯機の向かい側に水回りを仕切る壁があった。施工図がきちんと残っていたのでブレースの位置が正確に分かるためそこを狙って「あな」を空けた。


そうして垂直方向に空間が広がり、光と空気、気配の全てが連続する開放的な空間に生まれ変わった。


およそ居住中の住宅とは思えないカット。階段室にあった小窓からも光が注ぎ込んでいるが、既存では壁で遮られ光は階段室だけのものでしかなかった。
壁はALC板で比較的断熱できているそうだが、今後天井、壁共にセルロースファイバー断熱材と、内窓を取付け二重サッシュにすることで断熱性能を上げていく。


4階寝室もすごい。こちらも4面開口で非常に明るいが同じくカーテンがないので、朝は早くに目覚めてしまうのではと思うが、二人とも慣れてしまい全く問題なく “定時” まで寝られるそうだ。
問題は4層吹き抜けを通じて、1階から蚊が自由に上がってくること。そのため蚊帳だけは取り付けた。


右手が南で電車も通る側になるが、今後の計画では右手にサンルームを設け、洗濯乾燥室兼防音のためのバッファーとする。


日射を遮るものがない4階と、隣家の陰になる2階では熱環境が大きく異なる。実際各階に湿温度計が取り付けてあり、訪れた際3℃以上の違いがあった。この吹き抜けに熱交換用のファン付きダクトを通し、季節によって空気を交換できるようにもする。
エアコンがロープで縛り付けられているが、もはや筆者も驚かなくなっていた。


屋上には太陽光集熱器で温水を作り、1階事務所の熱交換器に送り、そこで温められた高効率の不凍液とペリメーターヒーターで窓際を温める。また太陽光発電も行い蓄電池に充電することなど、屋上では様々なことを計画しているが、斜線によってすぼまっているため床面積が限られている。何をどのうように設置していくか悩みどころだそうだ。


「SDレビュー2017 入選展」


常山未央さんと能作文徳さん。「最終的にはオフグリッド(送電インフラから家を切り離す)を目指しています。お金を掛ければ一気に出来るかもしれませんが、廃材を利用したり、できるだけ環境負荷の少ない素材や設備を検討しながら進めているので、少し時間が掛かりそうです。都会でも享受できる太陽光を利用し、自分たちで実験しながら作り上げていく『都市のワイルドエコロジー』がテーマです。」

【関連記事】
「SDレビュー2017 入選展」レポート(当作品が出展)
「en [縁] ―ヴェネチア・ビエンナーレ帰国展」レポート
「SDレビュー2013 入選展」レポート
「ユメイエ展:日本の若手建築家」と「A&A展」レポート


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15 6月, 2018

井上洋介による世田谷区の「下北沢の家」

井上洋介(井上洋介建築研究所)による世田谷区の住宅「下北沢の家」を見学してきました。


敷地面積162m2、建築面積81m2、延床面積298m2。RC造(一部S造+木造)、地下2階、地上2階建て。
門状の1階に見えるボリュームが地下1階、その上に実際の1階と2階のボリュームが乗るようなかたちだ。


ファサードは半割した浅間石を石垣のように張り込んだ壁と、根気のいる作業が想像できる全面の小叩き仕上げ。


植栽はSOLSOが担当した。玄関横のガスメーターが見えないほど鬱蒼としている。


中に入ると玄関ホールが奥まで続き、右手のガレージは車が4台、バイクが3台ほど停められる。


玄関ホールを進むと地下2階への階段と、奥にギャラリースペースが現れる。


ギャラリースペースは2層の吹抜け、そして同じ高さの大開口。見上げるとこちらにも植栽が。そして地下2階まで掘られたドライエリア。


施主はアパレル会社の経営者。お気に入りのポップアートに囲まれながらここで静かに過ごせるようにした。


もちろん大好きな車やバイクも直ぐに眺めることができる。ガレージの天井にもライティングレールが見えるとおり、こちらもギャラリー化することができるようだ。


地下2階は8畳程のゲストルーム。ドライエリアに光が落ちてきている。


1階へ。不均質であり素材感たっぷりのそびえるコンクリート壁が印象的だ。
よく見るとこのカット、小叩き、洗い出し、杉板出目地、ラワン、モルタル+クリア塗装とコンクリートに5種類の仕上げが施されているのが一目できる。


この建物のメインキャラクターとも言えるコンクリート壁は、井上さんこだわりの杉板出目地仕上げ。型枠の杉板は3種類の幅を使用し、目地の影とともに複雑な表情を生みだしている。
壁に掛かるオブジェは、イームズがデザインし、昔軍隊で使われていた足用ギプスだそうだ。そして横のコンセントはギプスの裏から照明をあてるためのもの。


1階LD。スレート、コンクリート、スチールの梁、木の小梁と天井、木サッシュ、そして山西黒石のキッチンカウンター、素材の持ち味を活かしながら高度なバランスで調和する空間。そしてスレート床はそのまま南側のテラスに連続する。


キッチンカウンターもテラスのカウンターに連続し内外を繋ぐ。


ダイニングテーブルはアルフレックス。その奥にリビングとの間仕切りでもあるテレビ台兼シェルフ。


鉄の部材にはリン酸処理亜鉛メッキの部材が多用されている。大梁、柱、シェルフの引戸。


シェルフ下側の引戸はダイニングとリビングを間仕切ることができ、飼い犬の侵入を制限できる仕掛け。右に見える四角い穴はペットドアでテラスに出入り出来る。


リビング。ダイニングより天井が低くより落ち着いた雰囲気。スタルクによるカッシーナのソファ、奥にイームズラウンジチェア。


できるだけ無柱のロングスパン空間を作るために、大梁をH鋼で渡し、無垢ベイマツの小梁を掛けた。
テレビ台兼間仕切りは、リビング側に大画面のテレビが設置される。




テラスにはL字型に面しており、リビングからもエントリーできる。


リビングの一番奥にはアルコールストーブ。背後は地窓のように開口させ外構から石の角柱でオブジェが覗く。


どこかの洒落たカフェかと見紛うテラス。コンクリートで作り付けられたベンチの背もたれ、腰壁も小叩き仕上げだ。ベンチの後ろはガレージ横のエントランスから直接上がってこられる階段。


両隣家ともに植栽が豊か。互いに借景利用できるような関係として深い緑となる環境が生まれた。
SOLSOが手掛けた植栽は南西テラス側や、北西、北東の各坪庭でそれぞれ植生変え、異なる雰囲気を楽しめる。正面にシンボルツリーとしてスノーインサマーを植えた。




ここにステンレスのレンジフードが付けるわけにはいかない。コンクリートで作り付けた。


2階。階段室はトップライトと、通気もできる開口を東西に設けた。
水回りと、主寝室+ウォークインクローゼット、子供室が3室。北側に面した個室の廊下が非常に明るい。


水回り。洗面台や浴槽回りは人造石研ぎ出し仕上げ。




主寝室。クローゼットの裏はウォークインクローゼットになっている。


主寝室のバルコニーから。


3室ある子供室のうち、2室は連続し、1室は独立している。


どこを切り取ってもの絵になる見事なディテールと素材同士の取り合わせ。そして陰影。








井上洋介さん。「建物の外側を4枚のコンクリート壁が取り囲み、その隙間から方々に緑が望めます。コンクリート、鉄、木が構造として役割を果たしつつ、そのまま素材の表情を見せながら仕上げとして存在しています。ごく一般的な素材を再構成し、力強くも豊かさを感じさせる空間を目指しました。」

【下北沢の家】
設計:井上洋介建築研究所/井上洋介・渡邊裕香
構造:田中哲也建築構造計画
施工:栄港建設
造園:SOLSO


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