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22 7月, 2015

新国立競技場に関して伊東豊雄へのインタビュー

(毎日新聞webより)


「そこが聞きたい:新国立競技場見直し 伊東豊雄氏」

 ◇原案固執、失った2年 プリツカー賞受賞の建築家・伊東豊雄氏

 土壇場での撤回劇=1=である。東京五輪・パラリンピックを5年後に控えるなか、新国立競技場の建設計画は異例の仕切り直しに追い込まれた。混乱の原因はどこにあったのか。世界的に評価され、新国立競技場のデザインコンペにも参加した伊東豊雄氏(74)が「建築家の目」で騒動の深層を語った。【聞き手・隈元浩彦、撮影・関口純】

−−安倍晋三首相が計画を白紙に戻すと決断した。

 良かったと思うが、遅きに失した感は否めない。デザインの選定は2012年11月のこと。翌13年10月には総工費が3000億円にのぼるという試算が示された。その段階でなぜ、対処できなかったのか。せめて1年前だったら、既存のスタジアムの再利用を含めて議論できたかと思う。失われた2年だった。貴重な時間が無為に失われただけではない。この間に、建設費は高騰している。計画の遅れの影響は計り知れない。

−−建築界からさまざまな問題提起がなされた。

 私は昨春、旧国立競技場の改修案を発表した。新国立競技場のデザインコンペに参加し、落選した立場からいえば批判も覚悟した。けれども、どういう設計思想のもとで、明治神宮外苑という景観と歴史を無視するような、巨大なスタジアム=2=になったのかが一切明らかにされないことに違和感を覚えたからだ。そう感じた建築家は私だけではない。だが反対論、異論に、文部科学省や計画の策定を進めてきた「日本スポーツ振興センター(JSC)」は「国際公約」「見直す時間はない」を理由に耳を貸そうとしなかった。当の国際オリンピック委員会が原案に固執した経緯はないのに、である。皮肉にも、間に合わせるはずの開閉装置は実施設計で五輪大会後に先送りされた。矛盾だらけの二つの言い分は、とにかく原案通りに遂行したい文科省などの方便に感じた。

−−今秋までに新たな整備計画を策定する。何が重要か。

 国際コンペを実施しなければならない。それも設計者と施工業者が組んだコンペだ。スタジアムは規模が大きく、技術的に難しい。施工方法、工期、コストの問題など全部ひっくるめて審査することで、発注者のリスクを抑えられる。施工期間は限られている。これまでのような多目的施設ではなく、スポーツ専用の施設として考え、屋根の開閉装置はやめるべきだ。コストだけではなく、何がテーマなのかが問われる。その視座が決定的に欠けている。

−−12年秋のデザインコンペで審査委員長を務めた安藤忠雄氏は16日の会見で、「任されたのはデザインだけ」と強調した。

 安藤さんがどういう意図であの巨大なデザインを選んだのか、その理由が明かされると期待した。しかし、釈明とコストの話だけで残念だった。自然との共生を考えるのが21世紀のデザインの潮流なのに、なぜ、自然を克服する対象として捉える、20世紀的モダニズムの典型のようなデザインになったのか、これまで説明がされていない。コンペだって本来は、設計者にデザインの意図を語らせるのが最低限のエチケット。それすら行われず、書類だけで「日本の技術だからできる」の一点で走り出した理由が分からない。当初は安藤さんも「周辺環境との対話」「地球環境に配慮」と言っていたはずなのに、いつの間にかなくなった。

−−あの時は、1300億円を条件にコンペが行われた。

 消費税込みかどうかは明示されていなかったが、誰が見てもザハ・ハディド氏の案がその額に納まるとは考えなかっただろう。最初の案はJR中央線をまたぐ大きさ。本来ならルール違反で失格だ。その後、延べ床面積で25%縮小された。コンペの規定には<提案デザインの変更は不可>という趣旨の一文があったのに主催者がそれを破った。最初の案と比べて脚がもがれたカニのような形になったのに、ハディド氏は何ら説明をしていない。おまけに設計者なら完成まで寄り添うべきなのに、実施設計は日本の設計会社が担う。その彼女には13億円が支払われ、さらに支払い義務が生じるという。異常だ。返金を求めていいほどだ。

 実施設計まで2年を要しているのも理解に苦しむ。加えて、実施設計よりも前の段階で、施工業者が決まっていた。技術を持っている、という説明だが、大手ゼネコンなら同じようなもの。指名であれば、競争が働かずコストがかさむのは当然だ。

−−今後、重要なことは。

 建築とは時代精神を反映する。巨大なスタジアム案のままだとしたら、東日本大震災からも何も学ばなかったこの国の姿を象徴すると思われたかもしれない。仕切り直しの今こそ、エネルギー、環境の問題も含めて21世紀の建築とは何かを考える時だ。1964年の東京五輪で会場が整備され始めた時代、私は学生だった。全国民が高揚感に浸った。今回、それがないのは寂しい。

ソース:http://mainichi.jp/shimen/news/20150722ddm004070007000c.html


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