展覧会概要:岡本太郎は若い日に留学したパリで、画家としての方向を模索するかたわら、自分の行く道への裏づけを得たいという切実な思いから哲学や社会学に関心を持ちます。そして人間の生き方の根源を探るべく、パリ大学で民族学・文化人類学を学びました。パリでは、画家だけでなく写真家たちとも親しく交流し、ブラッサイやマン・レイに写真の手ほどきをうけ、引き伸ばし機を譲り受けたり、たわむれに展覧会にも出品しています。しかし、岡本が猛烈な勢いで写真を撮りはじめるのは、戦後、雑誌に寄稿した文章の挿図に、自分が見たものを伝える手段としてこのメディアを選んだ時からでした。
こどもたち、風土、祭りの熱狂、動物、石と木、坂道の多い街、屋根、境界。岡本がフィルムに写し取ったイメージは、取材した土地、旅先でとらえられたものです。見過ごしてしまうようなささいな瞬間の、しかし絶対的なイメージ。フィルムには、レンズを通してひたすらに見つめた、岡本太郎の眼の痕跡が残されています。旅の同行者である秘書・敏子は「一つ一つ、いったい、いつこんなものを見ていたんだろう、とびっくりさせられるし、そのシャープな、動かしようのない絶対感にも息を呑む。一緒に歩いていても、岡本太郎の眼が捉えていた世界を、私はまるで見ていないんだな、といつも思った。」と述べています。
本展では、岡本がフィルムに切り取ったモチーフ、採集したイメージを軸に、岡本太郎の眼が見つめ捉えたものを検証することで、絵画や彫刻にも通底していく彼の思考を探ります。カメラのレンズが眼そのものになったような、岡本太郎の眼差しを追体験してみてください。
会場にはゼラチンシルバープリントが224点、ベタ焼きを拡大したパネル4点、プロジェクターによるスライドショーに加え、油彩画11点、彫刻13点が並ぶ。
プリントは写真評論家の楠本亜紀によって、4つの章「道具」「街」「境界(さかい)」「人」に整理され、さらに18のテーマに分類し展示される。そして普段は小部屋をつくるためにパーティションとして使われる展示壁を、ぱらぱらとランダムに並べた。
展示の準備中に止まったような壁。ランダムに並んでいるように見えるが、一応順路が床に示されており、その通りに見ても良いし、気の赴くまま見て回っても良い。
路地や広場、交差点のある小さな街を巡るように太郎の世界に入り込むのだ。
時折、袋小路となり、はっとするような彫刻や絵画が眼前に現れる。
〈道具〉
「生活に密着した道具の美しさ。––芸術以前だろう。
しかし芸術ぶったものよりはるかに鋭い。」
〈市場〉
「民芸でも織物でも、菓子やパンのデザインに至るまで、アッと言うほど強烈で、濃厚な生命感にあふれている。無邪気でありながら、ふくらみ、ひらききってる。それはまさに人間性の根源の豊かさである。メルカド(市場)を歩き回ってそういう物や人々にふれていると、時間のたつのをわすれてしまう。」
取材中の太郎。未現像のもや、現像されてはいるがプリントされていないフィルムがまだまだ大量にあるそうで、研究が進めば新たな発見があるかもしれないという。
「写真というのは偶然を偶然でとらえて必然化することだ。」
太郎愛用だったカメラやレンズ。
本展に合わせてフジワラボでデザインされたベンチ。岡本作品を彷彿させる曲線で、様々形に組み合わせて使うことができる。
藤原徹平さん。「展覧会は疲れますよね。特にこういった写真展の場合、単調な見せ方になりがちですので、ここでは疲れないよう、風景として見える展示にならないかと考えました。彷徨いながら自由に見て回わり、太郎が写真に切りとったように、見ている人にも見つけてもらうような構成です。疲れないような会場にデザインしましたが、もし疲れてもベンチを沢山作りましたので、休みながらゆっくり楽しんでいただけるのではと思います。」
川崎市岡本太郎美術館。久米設計による設計で1999年竣工。太郎の生前から計画されていたが1996年に死去したため、完成を見ることはできなかった。
丘陵地のランドスケープと一体となるようなデザイン。
太郎から寄付された1800点余りの作品を所蔵している。
岡本太郎美術館のある生田緑地は少々駅から距離があるが、川崎市藤子・F・不二雄ミュージアム、かわさき宙(そら)と緑の科学館のほか、写真の菖蒲園、、
日本民家園には各地から移築された多数の古民家、、
うっそうとしたメタセコイアの林まである多彩で広大な公園だ。
【岡本太郎の写真-採集と思考のはざまに】
・会期:2018年4月28日(土)~7月1日(日)
・会場:川崎市岡本太郎美術館(川崎市多摩区枡形7-1-5)
・詳細:www.taromuseum.jp/exhibition/current.html
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